神殺しのロンギヌス~英雄は授業参観に行きたい~

七四六明

~英雄は授業参観に行きたい~

 これは少し昔の話。本妻と側室の間に出来た子供達が英雄の子供達、終焉の世代と呼ばれる事になるより前の話である。

 英雄となった男、ミーリ・ウートガルド――基、荒野あらやミーリは、本妻との間に生まれた最初の双子が十歳を迎えた年、人生最大のミッションを己に課していた。

「……何をしてるんだ、おまえは」

「う、空虚うつろ?!」

 こっそり出て行くつもりが、呆気無く本妻――荒野あらや空虚うつろに見つかった。

「何だ。その、見るからに怪しい格好は」

「そんなに怪しい?」

「怪しさの塊だ。黒のニット帽に黒一色の上下。そして黒いサングラス。銀行強盗でもしに行くつもりか」

「いや、今日授業参観だって聞いたから……」

「その格好で行ったら間違いなく通報されるぞ? 英雄ミーリが警察に補導されたなんて、子供達になんと説明すればいいんだ」

「じゃあ……これで」

 服はいつもどおり。髪型にも問題ない。

 いつもの、普通のミーリ・ウートガルドだ。だが――

「その眼鏡は何だ」

「いや。やり過ぎだって言うから、せめてこれくらいはと」

「眼鏡一つにどれだけの信頼を寄せてるんだ。そんなもので、おまえが隠し切れるものか。まぁ、眼鏡自体は似合ってなくも……」

「でしょ? 正体を隠しつつ、ちょっと頭良さそうに見えるのがいいじゃんか」

「何か、その考えがちょっとバカなんだよな……」

 壁に頭を付け、明らかに落ち込む英雄。

 戦場では誰よりも頼りになるのに、こういった時は凡人以下になるからちょっと面白い。

 英雄と呼ばれて尚、子供達に格好よく思われたいと考えているのがちょっと可愛らしくて、空虚は思わず笑みが零れた。

 しょうがないな、と空虚はミーリを招く。

 伊達眼鏡はそのままに、普段は着ないスーツをビシッと決めて、ネクタイも締める。普段から肩に羽織っている上着はやめて、コートを羽織らせた。

「まぁ、こんなところか」

「おぉ……まさかこんなビシッと決まるとは。フフン、カッコいい?」

「はいはい、カッコいいカッコいい。さすが私の旦那様だよ」

 ただ、空虚も、そしてミーリ自身も侮っていた。

 多少の変装程度で、英雄のオーラは隠し切れるものではなかった。

 学校に来たミーリに人々が屯し、授業は中断。ミーリの人生初授業参観は、失敗に終わったのだった。

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