第一章 死体役令嬢の奮闘①
「うわぁ!」
入学式まであと六日という晴れた日、メルディはプリゾン学園の正門前に立っていた。
その光景はゲームのスチルそのものだった。
真っ白な
(聖地だわ……)
目の前の光景に
(ここまで来たら確定よね。ここは
ほんの少しだけ
このままでは自分は間違いなく死ぬ。どうにかして回避しなければと頭を抱えて
「あ、あはは」
メルディを見るメイドの視線は
一応、今のメルディには「本来のメルディ」としての記憶と意識もちゃんとあるが、前世の人格がかなり前に出てしまっている状態だ。
幸いだったのが前世のメルディと今のメルディとの間に思考や
だが、この世界の貴族
とくに常に
(お父様たちにも心配かけちゃったしなぁ)
自分の運命について色々考えた結果、メルディはゲームの
なぜならゲームのスタートに関わる重要なアイテムが学園にあるから。
それを回収してしまえば、黒幕は黒幕として
もしも、すでに黒幕がそのアイテムを発見してしまっていたら
ファンディスクでは、そのアイテムの発見は入学式の前日だと語られている。
善は急げとばかりにメルディは「入学前に学園を見学したい。じゃないと不安で入学できない」と入学前に
その
もともとのメルディという少女は多少天然ではあるものの、明るくおっとりとした大人しい性格で、親を困らせるような我が
そんなメルディがさめざめと泣きながら入学が
どうすれば気持ちが落ち着くのか、と
本来、学園は警備の都合もあり無関係の人間は立ち入りを禁じられている。
新入生も、入学式までは原則立ち入りはできない。
だが、
感謝してもしきれない。
(これからはなるべく大人しく
学園への入学という人生の転機を境に、少々元気になったくらいに思ってもらえればいいなとは思っている。
「どうぞゆっくり見学していってくださいね」
ぼんやりとしてしまっていたメルディに声をかけてくれたのは、上品な女性教師だ。
毎日の授業イベントで笑顔を振りまくマルタの立ち絵を思い出し、メルディは
「ありがとうございます、マルタ先生」
「私ったらあなたに名乗ったかしら……?」
(し、しまったぁ)
ざっと血の気が引く。ゲームでの知識そのままに話しかけてしまった。
「いえ、その、わ、私、この学園に入学したくていろいろ調べて……先生のことも、その……
「ああ。なるほど。メルディさんは勉強熱心なのねぇ」
マルタはメルディの言い訳を信じてくれたらしい。
うんうんと
「あなたのような
「嬉しいです」
「だからこそ今回特別に見学が許可されたのよ」
努力は裏切らないとはこのことだろうか。
この学園に入学したかったメルディは、学業に本気で取り組んだため成績はかなりのものだった。おかげでこうやって死亡フラグ
「見学は校庭からだけにしてください。建物には立ち入らないように」
「はい!」
メルディは「まあそうだよね」と半分
建物に入り込めない可能性は想定済みだ。いくら入学を控えた生徒とは言え、建物の中に入れて何かあれば問題だろう。
あくまでも今のメルディは入学にナーバスになった結果、学園を見て安心したいと我が儘を言っているだけの部外者なのだから。
「申し訳ございません。私のような者がこの学園で無事に過ごせるか急に不安になってしまって」
「親元を
「ありがとうございます」
「一部の生徒は春期
「はい!」
元気よく返事をすれば、マルタは満足げに頷いてくれた。
「私は正門横の管理
マルタとは正門で別れ、メルディはメイドを
(おおっ……ここもスチルそのもの!)
正門前の
見覚えのある光景に少し心が
メルディはメイドを連れ、学園内をゆっくりと見て回りながら、チャンスを見計らう。
これまでのメルディらしい振る舞いを心がけたからか、メイドの態度も先ほどにくらべてかなり
周囲よりほんの少し高く作られたそこは、小さな
いくつかのモニュメントが
(確かこの辺に……見つけた!)
ひときわ大きなブロンズ像の台座。その下にお目当てのものを発見したメルディはキラリと目を光らせた。
(あとはどうやって……そうだ!)
「ああっ」
「お
突然その場にへたり込んだメルディにメイドが
「どうしました」
「ちょっと
「水ですか? ええと……少々お待ちください」
メイドは周りをきょろきょろと見回す。
「お嬢様。管理棟にいってお水をもらって参りますので、ここでお待ちください」
「ええ……」
もくろみ通りメイドはメルディを
それなりの
メイドの姿が完全に見えなくなったのを確かめ、メルディはさっと
見た目は
「よし……! ゲームと
これはゲームの最中に発見される、校舎の中へと続く秘密の通路だ。
王族や高貴な人たちがいざという時に校舎から
ゲーム
つまり本来こちら側は出口で、校舎側に入り口がある。
確か、
「出てこられるなら、入っていけるはず」
そう考えたメルディは、
この先に自分の人生が開けているとおもえば、足取りも軽くなる。
「よいしょっと……そういえば、攻略対象の好感度が高いとこの通路の中でちょっとしたラブイベントが起きるのよね」
狭く暗い通路という密室で二人きり、となればそれなりのことが起きてしまうのは
その聖地に……と思いを
一見ただの壁ではあるが、思い切りよく左右を両手で叩けば、大きな音と共に壁が外れて光が差し込む。
「やったぁ! うまくいった!」
ゲームと同じやり方で開くか不安だったが、綺麗に開いてくれた。
どうやら入り口の位置もゲーム通りだったようで一安心する。
「よいしょ、っと」
立ち上がり、服のしわを
一番いいのは誰にも見つからないことだが、スムーズに行くとは限らない。
「とにかく図書室に行くわよ」
「図書室に何しに行くの?」
「ひっ……!」
決意表明に
今の今まで、なんの気配も感じなかったのに。
いったい誰だと声の主の姿を認めた
「あなたは……!」
特権階級の
きらめく金の髪に青い
体中の血が逆流していくような
(どうしてここに)
「見たところ、生徒ではないようだけど……もしかして新入生か転入生かな? でも、今はまだ春休みだよ? どうしてこんなところにいるの」
口調は
メルディは胃の
(な、なんで黒幕王子がここにいるよのぉぉ~~!!)
彼の名はジェイク・アドラー。
この国の第一王子にして、このプリゾン学園の最上級生かつ生徒会長。
彼は
幼い
街を歩けばジェイクの
完全無欠の愛され王子。
(でも、その
ジェイクは完璧すぎるが
自分にできることが人にできないのが不思議でならず、
いつも穏やかで人当たりがいいのも物事が
自分の見た目や立場にひかれて寄ってくる人たちを見下しながら、自分に都合の良いように
笑顔と優美さで
その最初の悪行こそが、メルディの殺害だった。
(主人公を殺しに来たのに、部屋にいたのがメルディだったから
巻き込まれた方はたまったもんじゃないけれど、二次元ならば「だがそれがいい」になってしまうのが不思議なところ。
まさに
前世のメルディはわりとジェイクが好きだったが、それはあくまでも画面の向こうにいらっしゃるからで、現実では決して関わりたいとは思わないキャラクターだった。
なにせ美形で悪役。言動は完全なる
だが、そこには彼なりの美学があり、時折見せる人生を
とはいえジェイクは完全なる悪役なので、彼との
だが、
果たしてこれは恋愛なのかなんなのか、とファンの間では激論が
もはやこれは走馬灯だろうか。
死亡フラグを
(神は死んだ)
メルディは遠い目をしながら自分の余命を
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