プロローグ
「私、あと一週間で死ぬ!?」
その日、メルディ・フロトは
きっかけは、一週間後に入学を
深緑を基調とした上品なデザイン。胸を
届くのをずっと楽しみにしていたメルディはいそいそと部屋に制服を飾り、うっとりと目を細めてその
──物語の世界に出てくる制服みたい。
そう思った
日本という国で生きていた、一人の女の子の記憶。
金銭的に苦労することはなかったが、
特に
成長し社会人になってからは、大きな会社の事務員として働きながら休日はずっと家の中に
だからすぐに気が付いた。この世界がそのゲームの一つだということに。
「なんでよりにもよって『はとる。』の世界に転生するのよぉ!」
ベッドをゴロゴロと転がりながら、メルディは
『
略して『はとる。』と呼ばれるその作品は、西洋風の世界で貴族の子どもが
全
物語は主人公がプリゾン学園に入学した日、学生
令嬢はなぜ殺されたのか? 犯人は? 学園内で起きる
主人公は学友たちと
ただし、このゲームは油断するとキャラクターが簡単に死んでしまうので、プレイには
前世のメルディはそのゲームの大ファンで、散々にやりこんでいた。
だからこそプリゾン学園の制服を見た瞬間、『はとる。』の世界だとわかってしまった。
そして『メルディ・フロト』というキャラクターが、ゲーム
ゲーム中のメルディは、どこにでもいるような
主人公のルームメイトとして登場するメルディは、入学したばかりで右も左もわからない主人公の
どこか天然っぽさのある、おっとりとした口調のメルディは主人公と
『私たち、友だちになりましょうね』
そして次に部屋に戻ったとき、メルディは無惨な死体として部屋に転がっているのだ。
つい先ほどまで言葉を交わしていた少女の死にショックを受ける主人公の悲鳴と共に、ゲームは幕を開ける。
なお前世のメルディも初見プレイでは主人公と共に悲鳴を上げた。
乙女ゲームとは思えない凄惨な死体
プレイヤーの記憶に焼き付く
「い、いやだぁ!! せっかく転生したのに死ぬなんていや!!」
前世の記憶を取り戻した
情報過多でメルディは半泣きだった。
つい数分前までは一週間後から始まる学園生活に胸をときめかせていたのに、こんな
「うっうっ……無惨に死体として転がるスチルしかない死体役に転生するなんて……! せめてもっと安全
メルディは、冒頭の主人公との会話と、死体としての単独スチルでしか出てこない。
ゲームの進行中もちらっと名前が出てくるだけ。
どれだけ周回プレイをしても冒頭にしか登場しないことや、死体のスチルがスキップできないという
しかもゲームの後半になってわかるのだが、メルディは学園で起きたとある事件に巻き込まれて
「いっそ入学を辞退しちゃう?」
乱暴だが、一番手っ取り早い方法だ。
メルディが死ぬのは、主人公と同室だったからという単純明快なもの。
だから入学さえしなければ死ぬことはない。
でも。
「あんなに
思い返されるのはプリゾン学園の入学までに
プリゾン学園は、国内
入学したという実績だけでも社交界では最高のステイタスだし、無事に卒業したともなれば、その後の未来は約束されたも同然だ。
国内の貴族子女は全員、この学園に入学することを夢見ていると言っても過言ではない。
しかし
メルディの生家であるフロト家は特に有力な貴族ではないが、建国のころから存在する
財産も
記憶を取り戻す前のメルディは読書好きということもあり勉強は得意だった。
とはいえ、入学試験に合格するためにはそれ相応の努力をしなければならず、試験日までは毎日毎日机にかじり付いていた。
入学許可証が届いた時は、家族全員でメルディの
「うう……」
大喜びしていた両親や兄弟の顔を思い出すと、
いっそ試験に落ちていれば。もっと早くに記憶を取り戻していれば。
今更ながらの
高額な入学金は
かわいいデザインの制服に
だがメルディは知っていた。一週間後、自分はこの制服を着たまま無惨に殺されると。
「何が悲しくて死に
わざわざトルソーまで用意して飾られている制服を見つめながら、メルディは深いため息を
悲しい。しかし現実は非情だ。泣こうがわめこうが時間は
切なげに鳴いたお腹を押さえ、メルディは制服と共にメイドが運んできてくれていたおやつのクッキーを口に運ぶ。
ふんわりとした甘さが
「……さてと」
お腹が満たされたことで少しだけ冷静になれた気がする。
再び制服に目を向けてみれば、やはりとてもかわいい。
メルディはこれを着て
そう簡単に
「そうよ。この世界が本当にあのゲーム通りかなんてわからないじゃない」
もしかしたら名前が同じなだけで、自分はあの死体役令嬢のメルディではないかもしれない。髪の色とか目の色とかがちょっと似ているだけの
「でも、あれが現実になったら」
メルディが
ゲームでは何度も見た凄惨な死体スチルが頭をよぎる。
二次元でもあれほど
それに、きっとめちゃくちゃ痛いに違いない。
「うう……どうにかして
「私が殺されないようにすればいいのよ!」
入学式まで一週間ある。
ゲームの知識をフル活用すれば自分の死を回避することは
善は急げとメルディは机に向かい、自分の記憶にあるかぎりのゲームの情報をメモに書き出した。
「ええと……メルディが殺されるのは主人公と同室だったからなのよね。主人公に会いに来たゲームの黒幕キャラクターが主人公がいないことに腹をたてて
口にしてみるとあまりにもひどい。救いがないどころではない。
思わず遠い目をしてしまう。
「何にも悪くないのに殺されてしまう私、憐れだわ」
今でもはっきりと思い出せるスチルに心の中で
「一番いいのは、主人公との同室回避なんだけど……これはもう難しいわよね」
なぜなら二人が同室になったのは『誕生日が近い』という単純な理由だからだ。
今更、誕生日が間違っていました! と届け出るのはあまりにも不自然だし、両親だって
「と、なると……もう一つの方法はゲーム自体をスタートさせない、ってことよね」
メルディは
前世でファンだったこともあり『はとる。』のゲーム内容はしっかり頭に入っている。
メルディを殺した人物の正体
わかっているからこそ、本当は
でも。
「放置していたら世界が
なんと『はとる。』のバッドエンドは世界の
主人公たちがメルディの死をきっかけに学園で起きる
世界の崩壊を見つめ高笑いする黒幕のスチル。
それを思い出すだけで、胸の奥がきゅっと
「もし私が死を回避しても……主人公たちが
メルディどころかメルディの家族や大切な人たちが全員死んでしまう。
それだけは絶対に
「つまり、私の死亡フラグを完全回避するためには……ゲームをスタートさせないようにするしかないってことか」
本当は考えなくてもわかっていた。
たとえ自分が死ななくても、
「やるしかない、のかも」
このタイミングでメルディが記憶を取り
どうせ記憶が戻らなければ死んでいた命だ。
「よし! そうと決まれば善は急げよ! 絶対にゲームのスタートを
そう
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