序章 特別な夜に出会い③
メノムの言ったとおり、二日後の昼間、二人の女官と四人の男が離宮にやってきた。女官は、リザにおざなりに
女官たちは
しかし、痩せっぽちのリザには大きすぎる。女官は無言で
リザの黒い髪は貴婦人のように長くはない。それを無理やりきつく結い上げられ、生まれて初めての化粧をされた。
「結構です。こちらへ」
女官に連れられて外に出ると、さっきの男たちが立派な
「ひ、一人で行かなきゃならないの?」
心細さの
「嫌! やっぱり結婚やめます! おります、おろしてください! ニーケ、オジー!」
リザは
高さに
「怖いわ! 助けて! 兄上なんか
やがて
リザは物言わぬ女官たちに先導されて
中は豪華だったが誰もいない。古ぼけた花嫁衣装のままのリザが一人立ち
兄王、ヴェセルだった。
「久しいな、カラス」
ヴェセルは横柄に言った。中背だが、小さなリザからすれば、見上げる
「おい、挨拶もできんのか。さすがにカラスだけのことはある」
「……あ、兄上様……お久しゅう、ございま……す」
慌ててリザが頭を下げる。兄王は十七歳年が離れたリザのことを、いつもカラスと呼んだ。
「兄ではない、陛下と呼べ。カラスの分際で」
返事の代わりにリザは、ますます深く頭を下げたが、乱暴に上を向かされてしまう。
「ふむ……
何がいけるのか、リザは聞かなかった。小さい
この兄が現ミッドラーン国王なのだ。
「先日聞いたであろう。そなたは、この国一番の働きをした戦士に嫁ぐことになった。わかるな?」
「……」
「聞かれたら返事をしろ! そのくらいの
「は、はい」
リザはなんとか声を
「その戦士は、一応貴族の出だが
「……はい」
あれから何度も
名前と地位以外、顔も過去も知らない男が、今日これから自分の夫となる。それがリザの現実なのだ。
「言っておくが、お前の育ちを、あやつに言ってはならんぞ。今のように大人しくして、敬ってやるのだ。そうすれば田舎者のことだ、王家の血くらい尊重してくれるだろう」
「はい」
素直な返事に、ヴェセルは満足したようだった。
「しばらくこの部屋で待て。
そう言って、ヴェセルは
「お前の
ヴェールは一部糸が切れて破れている。姉のナンシーもまた、いらないものを
「そういえばお前、名はなんだった?」
立ち去りかけたヴェセルは、ふと思いついたように振り返った。
「な?」
「名前だよ、このぐずが! 名を言えなくては、儀式の格好がつかぬではないか!」
「リザです」
「リザ? それだけか? そんなだったような気もするな。まぁ覚えやすくてよいわ」
そう言い捨てて、ヴェセルは部屋を出て行き、再びリザは一人きりになった。
体が震えるのは寒さのためか、これから起きる事のためか。
「……エルランド・ヴァン・キーフェル」
リザは
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