第15話 天空世界
「覚醒は、魔光石を使ってもできるんですよ。かつてはダンジョンに入る人間を制限し、決められた者だけを使って魔光石を回収していました。ところが、魔光石を使えばダンジョンに入らずとも覚醒ができる」
「まさしく万能エネルギーだな」
「ええ。それで大規模な反乱につながったんですよ。ダンジョンに侵入されないよう注意していればいい。覚醒させなきゃ問題ない――そう思って油断していたら、手痛い反撃を食らったわけです」
「それで、まずはダンジョンを大量発生させて敵戦力の分析か……」
「相手の戦力を見定め、確実に討ち滅ぼす。そして侵略後の敵戦力も推定して統治するわけです」
「効率的だな。ずいぶん手慣れているようだ」
「長い伝統がありますからね」
肩をすくめる案内人に、蓮は問うた。
「で? そいつらは何者なんだ?」
「天空世界――そう名乗っています。『国』ではなく『世界』であると」
「天空ね……自分たちの世界こそがあらゆる世界の頂点に立つべきという主張?」
一応、と案内人は苦笑する。
「翼ある種族だから、という意味も込められているのでしょうけどね。ただ……自分たちこそ至高の、すべての世界を支配する者である、と思い上がっているのも事実ですよ」
天空世界、天空世界か……つぶやくように言ってから、蓮は疑問を口にした。
「しかしわからないな。そいつらは聖奈の世界を侵略中なんだろ?」
蓮は聖奈を見つつ、
「なんでうちの世界にちょっかいかけてきた? 二正面作戦が当たり前になってるのか? それとも複数世界を同時侵攻するのが普通のやり方……?」
「失敗のリカバーと欲をかいて、の二つですよ」
案内人の口調は小馬鹿にするようなものだった。
「まず、聖奈さんたちの世界が予想以上に手強かったこと――そちらで言うところのS級に分類される強者が思ったよりも出没して、大楽勝で勝てるムードではなくなったことが挙げられます」
「え? そうなのか……?」
蓮は意外に思った。古くから侵攻を繰り返しているのだから、もっとすさまじい戦力を誇っているのだと勘違いしていた。
「もちろん本気を出せば、天空世界が勝ちますよ? ただ、天空世界の領土は広大ですからね。たった一つの世界を攻め落とすのに、あまり大量の戦力を割くことはできないんですよ。反乱の防止はもちろん、実際のところ天空世界自体もしばしば攻め込まれてますから」
「……話だけ聞いてると、なんか古代ローマ帝国の末期みたいだな」
「実際、近いですよ? あちこち際限なく攻め込んで、支配下に置く世界を増やしまくった結果……各地を完璧に統治できているとは言いがたい状況になってますからね」
「だったらなおさら、なんで二正面作戦なんて……」
「単純に戦力補充と、たまたま間近に似たようなパラレルワールドがあったので、せっかくだからここも取ってしまおうと……。天空世界そのものは平和なので、辺境世界の情勢がどうなっているか、危機感を持てていない上層部の方々もそれなりにいらっしゃるようでしてね」
「もう本格的に末期じゃねーか、それ……」
蓮は呆れ果てた。
「一応、危機感を持った方々もいらっしゃるようですがね」
案内人は息をついてから、
「今回の件は、聖奈さんの世界を可及的速やかに攻め落とすため……新たな戦力の増強を狙って、基幹ダンジョンを打ち込んだわけです」
「そこがちょっとよくわからないんだが」
蓮は眉根を寄せる。
「なんで別の世界にダンジョンを打ち込むのが戦力増強につながる?」
「モンスターですよ」
案内人は肩をすくめる。
「先程の話を少しだけ補足すると……実は、設置者側はモンスターを攻撃できないんです。ダンジョンから生まれたモンスターはすべて、ダンジョンを設置した側の戦力となり、彼らに危害を加えることも危害を加えられることもなくなるわけです」
「味方を攻撃することはできないってわけだ」
「そのとおりです。そして、一つのダンジョンが生産できるモンスターの量には限りがあります。強力なモンスターほど生成には時間がかかる……例えば」
と、案内人は蓮の持つゴブリンの魔光石を指さした。
「ゴブリン程度なら数分から数十分もあれば生み出せます。が、ギガント級となるとそうは行かない。蓮さんの撃破したギガント・キュクロープスの場合、生成には四、五ヶ月はかかるんです」
さらに言えば……と案内人はコツコツと指先でカウンターを叩く。
「ギガント級を生成できるダンジョンは限られます。それこそ基幹ダンジョンクラスの超大型ダンジョンでもなければ生み出せない。これはほかのモンスターも同様です。強力なモンスターほど生成に時間がかかり、生産できるダンジョンも限られていく」
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