第14話 なぜ配信があるのか
「えっとね、蓮くん……」
代表して聖奈が答えた。小さく手を上げている。
「私たちの世界でも、ダンジョンがなんなのかについてはだいぶ議論されてたの。主な説は二つあって」
と、聖奈が二本指を立てる。
「一つ目が神さまからの贈り物と戒め」
「戒め?」
蓮は怪訝な顔をした。
「まぁ魔光石の有用性やら力の覚醒やらを考えれば贈り物はわかるが、戒め……?」
「戦争ができなくなったの」
「は?」
突拍子もない発言に、蓮は思わず呆ける。
「んーとね……戦争が起きた場合、両軍がぶつかって消耗したところに、モンスターたちが襲いかかるようになったの。で、そのまま軍を蹂躙して首都に突撃して占領されちゃって――っていう感じ?」
「あー……ちょっと待ってくれ。モンスターってダンジョンの外に出るのか?」
「普通は出ないよ。ただ、戦争が起きるとダンジョンから大挙して押し寄せてくるの」
聖奈によると、ダンジョンのモンスターは出現する数も決まっていて、通常は増えることも減ることもないという。
たとえば、あるフロアにゴブリンが十体出現するなら、それ以上に多く現れることも少なく現れることもない。十体なら十体、五体なら五体、必ず決まっていて変化しないそうだ。
ところが、どこかの国で戦争やら紛争やらが起きた場合、異常な数のモンスターが大量発生して、ダンジョンから戦場めがけて突撃してくる。
ときには返り討ちに遭うこともあるが、第一陣が敗れれば第二陣が、第二陣もダメなら第三陣が……という具合に、終わることなくモンスターはあふれ出てくる。
この現象はいったいなんなのか? 多くの学者や知識人があれこれ議論した。そして、彼らの出した結論のひとつが神の鉄槌というものだった。
なにを人類同士で争っているのか? そのような不埒な者には天罰を与えねばならない――ダンジョンは恵みであると同時に、人同士で殺し合う者たちへの神からの戒めなのだ、という説である。
「ただ、もう一つあって……」
聖奈は案内人をちらりと見ながら言った。
「これ、どっかからの侵略じゃないかって」
軍を破り、首都を攻め落としたモンスターたちはそのまま都市に居座る。それどころか、今度は国全体に侵略の魔の手を広げていく。
侵略、といっても別に無闇矢鱈と人間を虐殺するわけではない。
むろん、モンスターを討伐しようと抗う者は殺す。
だが、それ以外は我が物顔で町を闊歩し、軍事施設や兵器を徹底的に破壊するくらいで人間に危害を加えることはそうそうない。
ただ、モンスターたちを追い払い、祖国を奪還しようとする者には容赦なく攻撃を加えてくる。
「いや、それ……どう見ても侵略が正解だろ?」
蓮がツッコミを入れた。聖奈も微苦笑する。
「うん、まぁ……わたしも正直、そっちじゃない? って気はしてたんだけど……」
「まぁ侵略と考えれば色々と合点がいくな。ダンジョンになんで『配信』なんて機能があるのか疑問だったが……あれ、監視だろ?」
蓮は案内人に目を向ける。
「ダンジョンでの戦闘を見て、めぼしい戦力を分析してるな? モンスターたちとの戦闘は、いわば警戒すべき腕利きが誰で、そいつらがどういう戦い方をするのか、調べるためのものなんだろう?」
案内人は無言で口元に笑みを浮かべ、うなずいた。蓮はため息交じりに、
「むしろなんで神の鉄槌なんて意見が出てきたんだ?」
「最大の原因は、『なんでわざわざ覚醒させるのか?』って疑問が解消されないから、かな。実際、侵略するだけなら覚醒なんてさせずにそのまま大量のモンスターをぶつけちゃえばいいわけだし」
「力の覚醒については」
と、蓮はゴブリンの魔光石を振ってみせた。
「これが理由じゃないか? 連中はたぶん、魔光石っていう資源を回収するのが目的だろ? 万能エネルギーなんて便利なものがあるのに、今さら石油とかのほかの資源を欲しがるとは思えない。そしておそらくだが、魔光石の回収は……」
「うん。まぁ、普通に考えたら、侵略した世界の人間にやらせるよね、それ」
「ダンジョンに入れば必然的に覚醒するわけだ。あとあと力を持って反乱されるより……最初っから覚醒させて、手の内をきっちり分析して対策を立ててから侵略しよう、ってことじゃないか? ついでにモンスターたちを使って、先んじて占領しておくと」
「ご明察です」
パチパチパチ、と案内人は手を叩く。
「彼らの古くからのやり方ですよ。実は大昔に痛い目を見てから、必ずその世界の戦力をきちっと見定めたうえで侵攻することにしてるんです」
「なんだ? 昔、俺みたいなのが現れたのか?」
「さすがに蓮さんクラスとは遭遇していませんね。ただ」
と、案内人は蓮の持つ魔光石に目を向けた。
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