第13話 これまでも大丈夫だったんだから、これからも大丈夫だろう

 ゴブリンの魔光石もお持ちでしょう? と案内人は言う。蓮はバスケットボールよりも大きな魔光石を収納し、かわりにゴブリンの魔光石を出した。


「これだろ――って小さいな……」


 半ば唖然と、蓮は指にはさんだ魔光石を見る。ビー玉……どころか、ビーズと同じくらいしかない。


「そんな小さな魔光石でも」


 と案内人は微笑する。


「一般的なご家庭なら、優に二、三年は電気・ガス・水道をまかなえてしまえるんです。もちろん馬鹿みたいに浪費したら一年持たないでしょうが」


「これ自体が電気やガス……どころか、水なんかも発生させられると?」


「下水の浄化なんかもできますよ。ほかにも土壌を豊かにしたり、植物の成長を早めたり、どんな傷や病気も治せる薬を作り出したり……もちろん」


 と、彼はメガネを手に取り、軽く振ってみせた。


「こういったものを作るのに必要な素材を生み出すことだってできます。やろうと思えば、食材を直接生み出すことさえできる……土から育てるより、だいぶ効率は悪いですがね。言ったでしょう? 万能のエネルギーだと」


「なんでこんなものが……?」


「それがダンジョンの役割ですから」


 案内人は肩をすくめる。


「ただのゲートでは生成できません。ダンジョンという形にして、作り出す必要があるんですよ。世界と世界をつなぐ次元の狭間には厖大なエネルギーがあふれています。それらを、いわば太陽光発電のような形で取り込み、魔光石に変換する――これがダンジョンの持つ役割の一つです」


「モンスターを生み出すことではなく?」


「そちらは副次的なものですね。モンスターという形を取るのは、あくまでも莫大なエネルギーを魔光石という半永久的に保存が効く代物に変換するためです。もっとも、戦闘訓練にもなるので一石二鳥と言われてはいますが。ちょうどいい相手なんですよ、ダンジョンによる覚醒――つまり」


 と、案内人は三本目の指を立て、まっすぐに蓮を見据える。


「潜在能力を強制的に引き出すこと。これについては、説明するまでもないでしょう? 蓮さんはすでに、その身を以て体験しているのですから」


 覚醒……と、蓮はぼやくようにつぶやき、


「つまり――俺の力は全部、俺がもともと持っていたものだったと? てっきり、あんたらがなにかしたのかと……」


「できないから、我々は装備の提供だけで終わったんですよ」


 案内人は吐息を漏らす。


「蓮さんの力は、あくまでも蓮さん個人の才能が目覚めたものです。ちょっと圧倒的すぎてびっくりしましたけれどね。まさかAAやらAAAやらが拝めるとは……。正直、強力な装備の提供は、かえって振り回されて無意味と判断し、最低ランクのものをご用意しましたが」


「そう、それも訊きたかった」


 蓮は聖奈を見やりながら、


「AAとかAAAなんて見たこともないって話だったが……」


「基本的に人間――というより生物としての上限はAなんですよ。A+は、いわば限界突破勢というか、生物の枠組みから外れた力の持ち主を意味します。怪物の領域に片足突っ込んでるといいますか」


「A+の時点で? じゃあAAやAAAって……」


「そこまで行くと、片足どころか全身が化け物の域に入っちゃってますね。少しばかり大雑把にいえば、神の領域です。少なくとも神さま扱いされても問題ない程度には強いということです」


「なんで俺がそんな超パワーを……?」


「単なる偶然ですよ」


 こともなげに案内人は言った。


「サイコロを振り続ければ、いつかは六の目が百回連続で出ることもある……単に彼らが欲をかいて、あるいは失敗をリカバーしようとして状況を悪化させただけです。どれだけ低かろうと確率はゼロじゃないのに、『これまでも大丈夫だったんだから、これからも大丈夫だろう』と慢心してサイコロを振り続けた……結果、蓮さんという大当たりを――」


 そこまで言ってから、案内人は嘲笑するように小さく鼻を鳴らした。


「いえ、彼らにとっては大外れ……絶対に引きたくない最悪のジョーカーを引き当ててしまった状況ですがね」


「俺の存在が予定外だったと?」


 当然でしょう? と、案内人は笑う。


「彼らにしてみれば、想定外もいいところです。どうせ今回も大丈夫だと高をくくって、最悪の結果を引き出したんですから」


「……そいつらは何者で、なんのためにダンジョンを?」


「目的については」


 案内人は意味ありげに聖奈たちを見る。


「そちらのほうがお詳しいのでは? すでに予測がついているでしょう?」


「そうだったのか……?」


 意外に思って訊くと、聖奈たちは顔を見合わせる。

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