第6話 姫神聖奈のダンジョン配信その4

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名前:来崎蓮(くるさき・れん)

性別:男

年齢:十六歳

職業:メガネマスター


パワー:AA+

スピード:AA

ガード:AAA

スペル:G-

シーク:A-

オーラ:A+


装備:Gランクバランス型メガネ

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「え……? なにこ……え?」


 あまりにも意味不明なステータスに目が点になり、聖奈はぽかんと口を半開きにする。


「Aの上ってAAだったの!? というか――なにこれ!?」


「え? なんかおかしい?」


 少年――ステータスによれば、蓮というこの人物はぎょっとした顔をする。


「いや、おかしいでしょ!? AA+とかAAAってなに!? そんなステータス私、見たことない! あなたもおかしいって思うでしょ!? ほら、私のステータスと見比べてみてよ! めっちゃ変! 色々と!」


「いや、変って言われても――」


「だってこんなステータス見たことないよ!? ほかの人の配信とか、まとめwikiとかの――」


「配信とかまとめwikiってなに? そんなのあんの?」


「え……?」


 ここに至って、聖奈はようやく話が噛み合っていないことに気づいた。


「あの……ちょっとまって? あなた、私のこと……知ってるんだよね? 姫神聖奈のこと――」


「あー……ごめん」


 相手は心底申しわけなさそうな、気まずそうな顔で言った。


「有名な人だったりする? 俺、全然知らなくて……」


 一瞬、頭が真っ白になった。


「いやあのぉ! 私ぃ、ダンジョン配信者っていうか――ダンジョン探索者としてはSランクで有名人でしてぇ!」


 反射的に蓮から離れて、聖奈は真っ赤になりながら両手を忙しくなく動かす。


「その道のプロといいますか――! いや配信者としては微妙、みたいなこと言われてはいるんだけどぉ――!」


 どうにか気を落ち着けようと努力するが、まったくうまくいかない。自分で考えている以上に動揺していた。これまで――相手は、蓮は自分のことを当然知っているものとして行動していた。


 まさか知らないとは思ってもみなかったのだ。


「あの! スマホ! スマホとかで――」


 聖奈がしどろもどろで言い募っていると、蓮は急にハッとした顔でスマホを取り出した。真剣な面持ちで操作している。


「電波、通じてるのか……」


 あまりにも真剣な、深刻な物言いだったので、聖奈は首をかしげてしまった。


「当たり前でしょ?」


「こういう場所だと通じないって勝手に思い込んで、使うの失念してた……いや、使えたところで、どこになんて連絡すれば……」


 蓮は懊悩するように顔をしかめる。


「あ、あの……姫神聖奈のダンジョン配信チャンネルって……」


「え? あ、ああ……検索してみるよ」


 しばし待っていると、蓮はいぶかしそうに画面を見入る。


「あのさ……なんも出ないんだけど」


「え?」


「そもそもダンジョン配信っていうか、ダンジョン自体が――」


「ちょ、ちょっとスマホ見せて! っていうか貸して!」


 ひったくるように蓮の手からスマホを取る。画面には――確かに聖奈のチャンネルがない。彼女は慌てて自分のスマホを取り出し、自分のチャンネルを開く。


「よ、よかった……BANされてない」


 彼女はホッとした。身に覚えはないが、知らないうちにアカウントを削除されていたのかと焦ったのだ。が、同時になぜ検索結果に出てこないのかと不審に思う――思うが、それより行動するほうが早かった。


 自分のスマホにQRコードを表示させ、蓮のスマホで読み取る。聖奈のチャンネルのURLだ。


「これ! 私のチャンネルの――」


 言いかけて、聖奈は絶句した。映っていなかったのだ、聖奈のチャンネルが。表示されたのは、「このページは利用できません」という一言である。


「え!? ちょ――! どういうこと!?」


 焦った聖奈は蓮のスマホをいじる。検索でダンジョン配信の動画を探すが――


「え? なにこれ……」


 出てくるのは見慣れない動画ばかりだ。というより、ダンジョン配信の動画がひとつとして出てこない。アニメやら小説やらの宣伝動画のようなものばかり――


 慌てて自分のスマホで確認すれば、ちゃんと定番の人気動画や人気配信者の動画がぽんぽん出てくる。なのに、蓮のスマホにはそういったものがいっさい表示されなかった。


「あのさ、ここってダンジョンなのか?」


 え? と聖奈は顔を上げる。蓮は困り果てた表情だ、途方に暮れているような。


「俺の知ってる限り、ダンジョンなんて存在しないし、配信してるなんて話も初耳で――いや、そういう小説やら漫画やらが流行ってるのは知ってるんだけど、それらはあくまでもフィクションであって……」


「ちょ、ちょっと待って……なにも知らないってこと?」


 半ば愕然と聖奈は問いかけた。蓮は戸惑いの表情でうなずく。

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