第7話 宝石探し

 オオカミからほとんど逃げていた頃にくらべて、オオカミも倒せるようになり狩り時間が大幅に減った。

 余った時間を有効活用したい。

 今は時間を持て余しており、オスゴブリンは昼寝までしている。

 メスたちは以前と同じように草を編んでいるが、これも輸入の綿の服を買うことになり、仕事がない。

 後は食事の支度くらいだが、リーリアが張り切っており、調味料を使ったゴブリンよりは凝った料理を作るようになった。


「うまうま」

「おいち」

「飯、旨くなった」


 鍋を購入したので、オオカミの骨の出汁に野草と塩胡椒で味をつけたスープも作るようになった。

 元人間である俺もお気に入りのスープだ。


 小麦粉も水と練って無発酵パンを作っている。

 このパンは固くて食べづらいが、少し保存が効くので、夕方に焼いて数日間のうちに食べるようにしている。


 おかげで雨の日まで無理して狩りをしなくなった。

 そういう日はジャーキーとパンとスープで済ます。


「川、綺麗な石、落ちてる」


 誰が言い出したか不明なのだけど、綺麗な石があるという。

 確かに見せてもらうと宝石の一種のようだった。

 青い鮮やかな石だった。


「赤いのもあった」

「ふむ、そうか」


 暇になった俺たちはメルセ川に行き、河原を見る。

 確かに小さないろいろな種類の石がたくさんある。

 この中に宝石があるらしい。

 上から眺めるがよく分からない。

 大きな皿に小石をすくい、ちょっとずつ捨てていき、選別していく。


「ん、これか」


 それは綺麗な緑色の翡翠だった。

 ここの辺りには様々な鉱石が混ざっているようで、宝石でなくても結構カラフルだ。


 みんなで夢中になって石を拾う。

 普通のゴブリンなら、あまり生産性のある行動でないが、俺たちは交易によって金にして様々なものを買えるのだ。


「あーあー、グレアもやりたい」

「んーん、まぁいいか」

「やった、グレア宝石探す」


 グレアがガッツポーズをして踊りだす。

 まったく好奇心旺盛なんだから。


 グレアを連れてメルセ川で宝石を探す。

 最初はちまちま一個ずつ捨てていたが、だんだん慣れてきたのか、次々とポイポイと選別していく。

 子どもは適応力が高いのか直ぐ上達するな。大人も目を見張る。


「あった」


 小さな赤い半透明の石だった。おそらルビーだろうか。


「きれい! ぱぱ、きれい!」

「おう、よくやった!」

「きゃっきゃ、ほめられたあ!」



 さていいことばかりは続かない。


「ガルたち帰ってこない」

「ああ、心配だ」

「もうご飯になる」

「だよな」


 狩りに出かけたパーティーのうち、ガルのパーティーが帰ってこないのだ。

 メンバーはオス五人。


 ゴブリンは律儀に待っていたりはしない。

 残りのメンバーで食事をする。

 暗い雰囲気の中、違うパーティーが狩ってきたウサギ肉を食べる。

 オオカミを食べることも多くなったが、もちろんウサギ狩りもしている。


 夕方、西日がオレンジに染まるのを合図に戻ってくるはずなのだ。

 何かに夢中になっているということはさすがにないだろう。


 結局その日は、夜みんな待っていたのだが戻ってこなかった。


 それから数日して。

 俺たちが狩りに出かけて森を歩いていたところ、荒れた場所があった。

 そこに火魔法の棒が折れたものが落ちていたのだ。


「これ、火魔法の棒」

「だな」

「ガルたちだ」


 周辺には他にもゴブリンの所有物だった槍の一部、服が引き裂かれたモノなどが散乱している。


「オオカミに食われた跡だ」

「誰にやられたかは不明だが、食ったのはオオカミだろうな」


 オオカミには勝てる。

 しかし群れだった場合は五分五分だ。

 オークに倒されて、残った死体をオオカミが食べた可能性もあった。


「無念」

「ああ」


 狩りはそのまま続ける。

 夕方、ルフガルに戻り、状況を説明した。


「ガル……」


 ガルの奥さん、ベリアが泣き崩れている。

 ゴブリンにも恋愛感情とかあるらしい。

 俺はあまりゴブリンに関心がないが、愛情くらいはある。

 犠牲者の中にはまだ若い、奥さんがいない独り身のゴブリンも二人いたはずだ。

 まともな死体もなかったので、痕跡だけの報告となった。


 ゴブリンは病気などには強いが、物理的防御力が低い。

 背が低く手足が細いので、こればかりは仕方がない。

 人間よりよっぽどひ弱だ。


 今回の事件はこれを見せつけられた。


 この日の夜ご飯は、弔いの宴になったが、酒は持っていないので出ない。

 食事内容もいつもと違わない。

 歓迎の宴のように、火を囲んで歌いながら踊るのが習わしとなっていた。


 グレアはそれを不思議そうな顔をして見ていた。

 遊んでもらっていたガルたちがいないことは理解しているのだろう。

 ただ死ということがどういうことかはまだグレアには早いかもしれない。

 きょとんとした顔で変な踊りをじっと見つめていた。


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