第8話 秋の味覚

 そろそろ秋も深まってくる。

 この秋が過ぎれば寒い冬だ。

 もっとも凍るほどではないので助かる。


「よし、いくぞ」

「おおお」


 オスのうち俺たちのパーティーは狩りをせず、背負い袋を再確認して森に入る。


「あった、ドングリだ」


 みんなでドングリを拾う。

 椎の木なのだろうか、その周りには無数のドングリが落ちている。

 それを一個ずつ拾っては背負い袋に入れていく。

 地味な作業だ。

 ゴブリン。背が低い以外にも手が長いという特徴がある。

 少しかがむと手が地面に届くので、モノを拾って歩くのに向いている。

 人間だったら腰を痛めそうだ。


「ぱぱ、ぱぱあ、ドングリ!」

「おう、いっぱい拾おう」

「うん!」


 グレアはもう五か月くらいか。

 足腰も丈夫になり、小さな体ながらすでに戦力の一部だ。

 もちろん女の子なので狩りにはいかないが、こうしてドングリ拾いには参加している。


「ママっ」

「はーい、遠くへ行っちゃだめだよ」

「分かってるよ」


 本日はママ、リーリア付きだ。

 リーリアが外の仕事についてくることは珍しい。

 もっとも人間なので、暗い洞窟の中でばかりいられない。

 たまに陽に当たったりはしているようだ。


 夜目が利かないリーリアのために、俺は光の魔道具も作った。

 だいぶ前の話だ。

 それで俺たちの部屋は昼間も夜も明かりがついている。

 リーリアにも感謝された。

 魔石は有り余ってるので、コストはほとんどかからないのだ。


 ドングリ拾いを終えた帰り道。


「見ろ、バクラ、ある」

「おう、いいサイズだ」


 バクラとはキノコの一種だ。

 倒木や朽ち木に生える。

 焼いて食べるととても美味しい。

 茶色くて少し大きくなる。シイタケの大きいのくらいだろうか。


「よし、持って帰ろう」


 キノコだけではない。

 木ごと持ち上げて持っていく。

 このキノコ、木陰などを好むため、暗い洞窟の中で育てると大きくて美味しいものがいっぱい生える。

 ひとつの朽ち木でひと月ほど生え続けるので、丸ごと持って帰る。


「ナニコレ、美味しいの、パパ?」

「ああ、めっちゃ美味い」

「やったぁ!」


 きゃっきゃとグレアがよろこんで走り回る。

 ゴブリンの子どもも無駄に体力があって、よく走る。

 人間の子どもと一緒だ。

 体が軽いから身軽なのだろう。


 こうしてルフガルの洞窟に戻ってきた。


「ドングリ♪ バクラ♪ ドングリ♪ バクラ♪」


 適当な節をつけてグレアが歌う。

 みんなはそれを見てニコニコしている。

 美味い飯が食えるのだから、みんな機嫌がいい。


 ドングリは平らな石があり、すりつぶして粉にする。

 それを固めて焼くのだけど、今年は小麦を少し入れてしっかり固まるように改良した。

 以前のはドングリだけだったのでけっこうボロボロとこぼれやすかった。


 他のパーティーがとってきたオオカミ肉も食卓に上る。

 ドングリクッキーに焼きキノコ、骨のスープ。無発酵パン。オオカミ肉。


「うまうま」

「うんうん、美味しいね」


 秋は食べ物が多くて助かる。

 いっぽう反動なのか、冬が問題だが今年は小麦もあるし、ジャーキーも十分あった。

 ジャーキーはいくらか売ってしまったが、在庫は増えている。



 さて五人が行方不明になったことを受けて少し防御体制を見直す。

 今は単に土を盛っただけの土塁になっている。


「土に水を混ぜて日干しレンガにしよう」


 草と土と水を混ぜたものを天日で乾かして何個も作っていく。

 それを土塁の段差の部分に縦に積んでいく。


「どんどんレンガを作るんべ」


 ゴブリンたちもいつになくやる気だ。

 そうしてレンガの壁が出来上がった。

 レンガと土塁の隙間は土で埋めてしまい一体化させる。


 これで外側は垂直な壁になっている。これならオークでも登るのは無理だろう。

 土塁の上にレンガをさらに載せていき、矢間胸壁を作る。

 よくあるお城の凹凸の部分だ。

 これでさらに高さを出して、弓兵側の防御力を上げるのだ。


「すごいな」

「ああ、ドル、よくやった」

「俺たちゴブリンの仕事じゃねえな」

「もはや大ゴブリン様だぜ」

「あははは」


 城壁の上には見張りを立てることにした。

 まだ狩りに参加していない、俺より後に生まれた新人だ。

 今、ルフガルの人口は五人減って、そして新しく十人ほど増えて二十五人ちょっとか。

 普段、弓の練習を散々させている。

 外のところにカカシを立ててターゲットにしている。

 矢は何回も使いまわしさせればいい。銃弾だったらこれっきりだけど、そういう意味では矢は便利だ。


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