【KAC20248】めがねかけごはん

猫とホウキ

めがねは食べられません

 とある定食屋さんの看板メニューは『めがねかけごはん』。たまごかけごはんではなく、ごはん。


 私はその謎多きメニューの正体を探るべく、定食屋さんへと突入してみました。



***



 店に入ると早速、案内してくれたイケメン店員さんに『めがねかけごはん』なるものを注文してみました。すると店員さんは「ご指名はございますか?」と聞き返してきました。


 はて、ご指名とは。トッピング、あるいはサイドメニューのことでしょうか。私は勝手が分からず、「特に無し」と答えるしかありませんでした。


「承知しました。フリーでめがねかけ一名様ご案内!」


 伝票を入力するなり、高らかかつハキハキとした声でオーダーをキッチンに伝える店員さん。そして彼は手元の装置から吐き出された紙の伝票をテーブルに置くと、店の奥へと消えていきました。



***



 数分後、先ほどの店員さんがおぼんにごはんをのせて戻ってきました。


 ごはんだけです。お茶碗にふっくらとした白米が山盛りによそわれていますが、漬物も味噌汁もありません。


 まさかこのまま白米だけを食べるのかと思ったところで、店員さんが高らかかつ美しい声で言いました。


「それでは、かけさせていただきます!」


 店員さん。彼は自分のかけていたスクエアタイプの眼鏡を外すと、それを山盛りごはんの中腹ちゅうふくあたりにスッと


 眼鏡をかけたごはん、すなわち『めがねかけごはん』はこうして完成しました。


「それでは、なにかございましたらお声がけください」


 眼鏡を置いて立ち去ろうとする店員さん。でも眼鏡がないと前がよく見えないのか、右に寄ったり、左に寄ったり、とても危なっかしい。そしてついに転んで、キレッキレの受け身でバチィィィンと素晴らしい快音を鳴らしました。


 彼のことはさておき、どうしましょう。

 

 眼鏡は食べられない。眼鏡を取り除いても、衛生的にどうなのかが気になってごはんが食べられない。イケメンさんは素敵ですが、イケメンさんの眼鏡に付着していた雑菌さんまで素敵だとは思えません。


 他のお客さんはどうしているのでしょう。少し離れた席を見ると、サラリーマンふうの男性がめがねかけごはんを食べていました。


「さくらさぁん、さくらさぁぁぁん!」


 高らかかつワイルドな声で女性店員さんの名前を呼びながら、店員さんが置いていった眼鏡をバリボリと食べています。そして彼は食べ終わると、「おかわりお願いします! さくらさんを指名します!」と高らかかつ熱盛な声で追加注文をします。


 なるほど、指名というのはこういうシステムなのですね。好みの店員さんの眼鏡を食べるため、店員さんを指定できると──


 え、この眼鏡って食べられるの?


 私はごはんにかかっている眼鏡を手に取ってみます。しかし硬いし体に悪そうだし、人間が食べるものには思えません。その抵抗感さえ乗り越えてしまえば、好きな眼鏡イケメンさんや眼鏡美少女さんの眼鏡を食べることができて、幸せなのかもしれませんが……。


 しばらくすると、先ほどサラリーマンふうの男性から「さくらさん」と呼ばれていた女性店員さんが現れます。彼女は眼鏡を外すと、それを男性のごはんにぶっ刺して、高らかかつフルートの音色のような声で「おかわりのご指名ありがとうございました。ごゆっくりどうぞ」と告げて立ち去ろうします。でも眼鏡がないと前がよく見えないのか、右に寄ったり、左に寄ったり、とても危なっかしい。そしてついに転んで、キレッキレの受け身でズバァァァンと素晴らしい快音を鳴らしました。



***



 私は家に帰ると、すぐに食レポブログを更新します。もちろん書くのは『めがねかけごはん』についての記事です。



【評価】

星3つ!(満点)


【評価のポイント】

音が素晴らしい。




おわり。

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