第3話 … タイムスリップ



 湿っぽい土間で靴を脱ぐと、左側にある居間へと案内される。


 そこで俺は、強烈な違和感を覚えた。



 古いブラウン管テレビに、ビデオデッキ、ラジオカセット。


 座卓やタンスも、デザインが古すぎる。


 田舎の山奥ともなると、今もこんな感じなのだろうか?



 首を捻っていると、健作さんの声がした。


「大したもてなしは出来んが、良かったら食ってくれよ」


 健作さんが、台所があるであろう部屋から、ホカホカのご飯を持って来てくれた。



「これ、サツマイモを入れた、炊き込みご飯だ。朝に採った新鮮な芋だから、美味いぞ」


 家にお邪魔したばかりなのに、もう夕食を用意してくれるとは。



 俺は「ありがとうございます」と、頭を下げ、料理の置かれた座卓に腰を下ろした。


 熱々の湯気と甘い香りに、食欲が掻き立てられた。


 少し焦げているのが、また美味そうだ。



「いやあ、美味しそうですね」


「そうだろ? ほら、ビールも飲みな。枝豆もあるぞ」


 俺は思わぬご馳走に、舌鼓を打った。





 しかし食事を始めて、すぐに異変が起こる。


 炊き込みご飯を口に入れた健作さんが、フガッと唸った後、奇妙な顔のまま固まってしまったのだ。



 もしかして、喉に詰まらせたのか? 


 または、何かの発作か?


「健作さん、どうしたんですか?」



 まるでムンクの叫びのように、口を開いた顔のまま、微動だにしない。


 呼吸をしているのか? と心配になった俺は、健作さんの顔に近づいた。



 その瞬間!


「ぶあっくしぉぉぉい!」



 とてつもない、大きなクシャミを炸裂させた。


「ぎゃあぁぁぁぁぁあ!」


 健作さんの口の中に入っていたご飯粒が、俺の顔面に激しく飛び散った!



「目が! 目がぁ!」


 ご飯粒が目に入ったのだろうか、とても痛い!



 なんて事をするんだ、このクソジジイ!


 俺は顔面を押さえて、のたうち回った。




「すまん、すまん。くしゃみが出そうで出なくて……でも、やっぱり出たんだよ」


「うう……」


 俺は、やり場のない怒りを必死で堪えた。



 見ず知らずの俺を、家に招いてくれて、美味しい夕飯までご馳走までしてくれるのだ。


 確かに面倒臭い人だが、ここで怒ってはいけない。




 俺は平静を装い、健作さんに訊いた。


「あの……ちょっと洗面台、借りれますか?」


「ああ、こっちだよ。タオルも置いてあるから、遠慮なく使ってくれよ」


 健作さんが、申し訳なさそうな声で、俺を洗面所に案内してくれた。


「どうも……」



 俺は時間をかけて、何度も何度も、顔を洗った。


 そして、借りたタオルで顔を拭くと、一つ深呼吸をした。


 鏡の前で目を確認したが、大丈夫そうだ。





 落ち着きを取り戻した俺は、健作さんがいる居間へと戻った。


 そこで胡座をかく健作さんと目が合うと、彼はまた申し訳なさそうに、掌を合わせて謝ってくる。


「本当に、すまん」



「いえ、大丈夫ですよ。いきなりで、ちょっとビックリしただけです」


 俺が微笑むと、健作さんも安心したようだ。


 電気を付けたように、パッと明るさを取り戻した彼は、俺のコップにビールを注いできた。



「まあ飲みなよ! ほら、パアーっと行こう!」


 俺は「どうも」と会釈して、泡立つ黄金水をグビリ、ガブリと喉に流し込んだ。



 その刹那。


 パァーーーン!



 俺の真後ろで銃声のような、けたたましい破裂音がした。


 俺は思わず、ビールを吹き出した。



「おい、コウタ! うるさいぞ! 襖は静かに開けろって言っただろう!」


 健作さんが、誰かを怒っている。


 俺は、ゴホゴホと咳き込みながら、振り向いた。



 そこには、十歳くらいの活発そうな男の子が立っていた。


 さっきの破裂音は、この男の子か。


 襖を勢いよく開いたため、柱に強く当たったのだろう。



 それにしても、本当にビックリした。


 心臓が止まるかと思った。




「父ちゃん、この人だれ?」


 男の子は目を大きく開け、不思議そうな顔で俺を指差す。


「ああ、仕事でこの村に来たんだとさ。でも仲間とはぐれて、迷い子になっとるから、一晩泊めてやろうと思ってな」


「えぇぇ! 馬鹿だね、この人!」



 ムッとしたが、相手は健作さんの子供だ。


 ここも我慢と、無理に笑顔を作った。



「この子が、健作さんのお子さんですね」と、健作さんに訊いてみる。


「ああ。そいつ、コウタって言うんだ」



 俺は、男の子に笑いかけた。


「コウタ君、こんばんは」


 だが、コウタ君は返事をせず、父親に話しかけた。



「父ちゃん! そんな事より、野球が始まるよっ!」


「おおっ、もうそんな時間か!」


 健作さんがテレビを点けると、ちょうど野球中継が始まったところだ。



 その瞬間、俺は「あれ?」と目を見開いた。


 なぜなら、ブラウン管テレビに映し出されたものは『激闘! 1995年、日本シリーズ』の古くさい文字だったからだ。



 何だ、これは?


 DVDか?



 こんな昔の試合を、今から見るのだろうか。


 俺は訝しげに、二人の顔を交互に見た。



 コウタ君は「どっちが勝つかなあ?」と、興奮気味だ。


 健作さんは「さあなぁ」と言いながらも、これから始まる試合を楽しみにしているようだった。



 俺は、健作さんに訊いてみた。


「これ、当時の野球中継を録画してたんですか? こんな古い試合を、今から見るんですか?」


 今度は逆に、親子二人が怪訝な顔で、俺を見てくる。



 健作さんより先に、コウタ君が口を開いた。


「おにぃちゃん、なに言ってるの? 頭、大丈夫?」



 俺は渋い顔で、頭を掻いた。


 おかしいのは、俺なのか……?




 戸惑いながら、何気なく部屋を見渡してみる。


 よく見ると壁に、1995年10月のカレンダーが掛けられているではないか。


 座卓の上に置かれた新聞も、95年10月のものだ。


 その他の雑誌や、週刊少年漫画も、表紙に95年と明記されている。



 俺は、ますます混乱した。


 なぜこの家族は、1995年にこだわるのだろう?



 困惑していると、親子が再び野球の話を始めた。


「ねえ父ちゃん、最近この人、全然打たないね」


 背番号51番の選手が、バッターボックスに入ると、コウタ君がそう言った。


「ああ。この選手、かなり研究されているんだろうな。この打席も、期待出来んなぁ」



 健作さんがそんな事を言うものだから、俺は思わず口を挟んでしまった。


「一回の表ですよね……ホームラン打ちますよ」



 俺がそう言うと、健作さんが不思議そうな顔で俺を見た。


 その顔は、やがて呆れた笑みに変化した。



「ないないない、もし打ってもヒットだよ。ホームランは絶対にない! 断言する!」


 きっぱり言い切って、首を振る。



 コウタ君も、同意見だった。


「そうだよ、ホームランバッターじゃないんだよ。それにこの人、今すごく調子が悪いんだよ。いきなりホームランなんか、打てるわけないよ」


 コウタ君が、そう言い終えた瞬間だった。



 カキーン!


 テレビの実況が叫ぶ。


『いきなり初回に、ホームランが出ました!』



 親子二人が「ええっ?」と驚く。


「にぃちゃん、何で分かったんだ?」


 健作さんが、目をひん剥いた怖い顔を近づけてくる。



 息が臭い。


 俺は約三十度、微妙に顔を逸らして答えた。



「……だってこの試合、最近、動画で見ましたもん」


「ドーガ?」


 眉間に、深い皺を作る健作さん。



「分かった! おにぃちゃんには、予知能力があるんだよ!」


 コウタ君が、座卓に両肘をついて、顔を突き出してきた。


「じゃあさ、この試合って、どっちが勝つの?」


「確か、3対1でY球団が勝って、日本一になるけど……」




 俺は、過去のプロ野球に詳しかった。


 なぜなら、昔の試合を振り返る動画を、友也と二人でネット配信しているからだ。


 それは、友也が野球に詳しかったため始めた、野球動画チャンネルだ。



 過去の有名な試合を見ながら、二人で面白おかしくトークしていく動画配信は、ある一定数の野球ファンが見てくれている。


 とは言え、視聴回数は良くても、500ほどだが。




 とにかく、この95年の日本シリーズについては、二日前に友也と収録し配信したばかり。


 まだしっかりと覚えている。



 しばらく腕を組んで、しきりに首を傾げる健作さん。


 ホームランを言い当てられた事が、よほど腑に落ちないようだ。




 俺はCMに入ったタイミングで、一つ咳をして、立ち上がった。


 ここで、ずっと胸に抱えてきた疑問を、ぶつけてみた。



「あの、健作さん。ちょっと訊きたいんですけど。なんで、テレビもカレンダーも新聞も、全部1995年なんですか?」


 健作さんは、ぽかんと口を開けて、俺を見上げてくる。



「今、2023年ですよね。令和5年ですよね!」


「レイワ?」


 初めて聞いたような顔をしている。



 ふざけているのだろうか? 


「もう、訳わからないですよ。何なんですか?」


 呆れと苛立ちで、顔をしかめていると、ふと健作さんの背後に黒電話が見えた。



 そうだ、事務所に電話してみよう。


 事務所の電話番号は、何だっけ? 


 待てよ、友也の番号なら覚えているぞ。



 俺は黒電話に近づいた。


「健作さん、ちょっと電話を借りていいですか?」


「ああ、いいよ」



 しかし、よく考えると俺は、黒電話を使った事がない。


 ボタンだと思った数字の部分は、実は窪んでいて押せなかった。



「これ、どうやって電話かけるんですか?」


「にぃちゃん、電話した事ないのか?」


「いや、こんな古いのは……」



「数字の所に指を入れて、右端まで持っていくんだよ。こんな感じに」


 健作さんが、顔の前で人差し指を回して、やり方を教えてくれた。


「あ、なるほど」



 俺はジーコ、ジーコとダイヤルを回した。


 だが、耳に当てても何の音もしなかった。


 戸惑っていると「どうした? 」と、健作さんが近づいてくる。



 俺は受話器を手渡した。


「あれ? これ……壊れてるな」


「ええっ、なんで!」



 俺は思わず、しゃがみ込んでしまった。


「うぅむ、この前の嵐で、電話線が切れたのかな?」


 健作さんが、困った顔をした。



 その時、俺は、ある考えが浮かんだ。


 そうだ、近くの住民に訊いてみよう!



 俺は玄関に行き、素早く靴を履いた。


「ちょっと、出かけてきます!」


 振り返り、そう告げると、健作さんとコウタ君の呆然とした顔が一瞬見えた。






 外は暗く、肌寒かった。


 すっかり日が落ち、夕闇が深さを増し始めていた。



 ふと、遠くに家の灯りが見えた。


 俺はその光を目指して、鈴虫の鳴く狭い農道を、小走りに駆け抜けた。


 家に着くと、すぐにドアホンを鳴らす。



 ピンポーン!


 数秒後、玄関の明かりが点き、廊下を歩く足音が近づいてきた。



「はいはい、どちら様?」


 引き戸を開け、出てきたのは四十代の女性だ。


 初めて会う俺を見て、少し警戒しているように見える。



 俺は「あのぅ、突然、すいません……」と、頭を下げた。


「今って、何年ですか? 2023年ですよね」


 女性は無言で、瞬きを繰り返した。



 この人は、何を言っているの?


 そんな心の声が、聴こえてきそうだった。



 息苦しい沈黙が続く。


 女性は何か考えた後「……今は1995年よ。平成七年。これって何かのクイズなの?」と言った。




 ……その言葉に、俺は絶句した。




 戦慄が走るとは、この事だ。


 ジワリと背中に、冷や汗が滲む。



 女性の側に貼ってあるカレンダーがまた、俺に追い討ちをかけた。


 1995年の物だったからだ。




 それでも諦め切れない俺は、人を見つけては、今が何年か尋ねた。


 恐ろしい事に、誰もが「1995年、平成七年」と答えた。


 ついでに日付は、10月26日との事。





 あぁ……。


 俺は血の気が失せて、立ちくらみがした。



 鏡がないので分からないが、そうとう青ざめた顔をしているに違いない。


 とうとう、暗く冷たい畑道に、へたり込んでしまった。




 あり得ない……。


 あり得ない……。


 そんな事、絶対にあり得ない……。




 でも、もしかしたら……本当に28年前にタイムスリップしたのかも……。


 そう言えば、あのアナウンサーが言っていたではないか。


「28年前の1995年、未来からタイムスリップしてきた男が、神社の本堂から現れた」と。


 その男とは、つまり……。






 ◇ ◇ ◇






 ——数時間後。


 フラフラとした足取りで、辿り着いた場所は、元いた健作さんの家だ。


 引き戸が外れた開けっ放しの玄関をくぐると、食器を片付ける健作さんがいた。


 健作さんは、眉毛を釣り上げて、驚いた顔をしている。



「にいちゃん、どこ行ってたんだ? んん? どうした、暗い顔して」


「……え、いや……」


 絶望に打ちひしがれた俺には、まともに返事が出来なかった。



 すると、家の奥からコウタ君が駆けてきた。


 彼は、パジャマに着替えていた。


 頬が赤く紅潮し、髪も濡れている。


 きっと、お風呂に入っていたのだろう。


 ほのかに、石けんの香りもした。



「凄いよ! おにぃちゃんの言った通りだったよ! 3対1で、Y球団が勝ったよ! 予知能力があるんだね!」


「違うよ……未来から来たんだよ……」


 意気消沈で答える。



 認めたくないが、俺はタイムスリップしたのだ。


 なぜなら、そう考えると、全ての合点がいくのだ。



 ガックリ肩を落とす俺とは対照的に、コウタ君は興奮気味だ。


「未来の人なの? ねえねえ、じゃあさ、来年はどこが日本一になるの?」


「……1996年だったら、O球団が日本一になるよ」


「そうなんだ! じゃあさ、今メジャーリーグで活躍しているN投手って何勝するの?」



「……えーと、確か日米通算200勝するよ。でもメジャーって言ったらさ、もの凄い選手が出てくるよ。投げては160キロ以上の球で、バシバシ三振を取って、打ってはガンガンホームラン連発する二刀流選手」


「ええっ、二刀流? 凄い!」



 コウタ君と話をしていると、しぼんでいた気持ちが、幾ばくか和らいだ。


 未来を知っているという事に、優越感を感じたからだ。



「二刀流なんて、凄いね! それって日本人だよね? メジャーで活躍するの?」


「そうだよ。しかも背が高くて、イケメンで……」



 食器を片付けて戻ってきた健作さんが、うんざりした顔をしている。


 俺とコウタ君の話を、ずっと聴いていたようだ。



「おいおいおい、にぃちゃん。デタラメ言うなよ。そんな漫画の主人公みたいな奴、いるわけないだろ。何がメジャーで、二刀流だよ」


「父ちゃんは黙ってて! ねえねえ、もっと教えてよ!」



 子供は無邪気なものだ。


 俺の話に、目をキラキラさせている。



「ねえねえ、未来は何が起こるの?」


「ん、まあ色々あるけど……2011年に大震災が起きるよ。あと2020年に、世界中でウイルスが大流行するよ」


「え? ウイルス? やばいの? 人類が滅びちゃうの?」


「いや、滅びはしないけど。ただ、マスクは沢山買っておいた方が良いよ。ウイルスが日本で広がり始めた時、すぐに完売になったからさ……」



 いつの間にか、焼き芋を食べだした健作さんが、また横槍を入れてくる。


「おいおい、にぃちゃん。世界中でウイルスが流行るとか子供を怖がらせて、からかうなよ」


 だって本当の事だから……と、俺は言いたかったが飲み込んだ。



 さらに、健作さんが小声で呟く。


「みんながみんな、マスクするのか? 夏でもか? そんな訳ないだろ。はははっ」



 この時代に生きる人にとっては、突拍子も無い話だったのかも知れない。


 俺は溜息をついた後、コップに注がれていたビールを飲み干した。


 全く美味しくなかった。



 空になったコップを置くと、俺は座椅子にもたれかかった。


 その時、ポロリとポケットから、何かが落ちた。


 音楽プレーヤーだ。


 そういえば、バスに乗っている間、使っていた物だ。



 掌に収まるくらいの、薄くて小さな音楽プレーヤーを拾い上げると、コウタ君が顔を近づけてくる。


「何それ? ポケベル?」


「いや、音楽が聴けるんだよ」


「え? こんなに小さいのに? CDもカセットテープも入らないよ」


「いや……」



 相変わらずクチャクチャと、不快な咀嚼音をたてる健作さんが、ニョキッと首を伸ばしてきた。


「何だ、この画面。写真みたいに綺麗だな。ボタンは、どこだ?」


「ボタンっていうか……画面で操作するんです」



 俺が液晶画面をタップすると「うわっ、動いた!」と、二人が驚愕の声を出した。


「画面を触って操作するのか? にぃちゃん、本当に未来人みたいだなぁ」


 健作さんが、しばらく慣れない手つきで、画面をタップし始めた。



「ワシな、工場で電化製品とか作っていた事があるんだよ。これは、今の時代には造れないなぁ。にぃちゃんが未来から来たっていう話、案外本当かもしれんな」


 どうやら健作さんが、ほんの少しだけ信じてくれたようだ。


「父ちゃん、僕もやりたい!」と、コウタ君が小さな指で画面をペタペタと触りだした。



 俺は興味津々の二人をよそに、仰け反った。


 ああ……それにしても、どうしたら2023年に戻れるのだろう。


 そればかりが、気がかりだ。



 あてもなく壁を見ていると、神社の絵ハガキが飾られているのに気付いた。


 その時、あの小さな神社の事を思い出した。


 健作さんは、何か知っているのだろうか?


 俺は尋ねてみた。



「健作さん、近くに小さな神社がありますよね? 凄く小さな神社」


「……ああ、あれか。分かるぞ。あんな小さい神社、日本中を探しても無いからな、はははっ。ずっと昔からあるぞ」


「その神社で、なんか時空を越えるとか、タイムスリップしたとか、そんな話を聞いた事かあります?」



 健作さんは顎を掻きながら、斜め上を見つめた。


「そう言えば……ワシが子供の頃、そんな噂があったような気がするな」



 やっぱり!


 俺は、身を乗り出した。


「俺、あの神社の本堂の中で、タイムスリップしたみたいなんですよ!」


 健作さんとコウタ君が「へえ……」と唸った。



 同じ「へえ……」でも、それぞれのトーンは違う。


 健作さんは、半信半疑の目だ。


 コウタ君は、信じているふうだ。



「まあいいや、そろそろ風呂入って寝るか」


 俺の話が面倒臭くなったのか、健作さんは風呂に入るよう促してくる。


「風呂の後、にぃちゃんは俺と寝室で寝なよ」


「あ、はい、どうも……」



 コウタ君は二階に上がろうとして、途中で振り向いた。


「おにぃちゃん、明日も未来の話を訊かせてよ!」


「……ああ、いいよ」


 俺は力なく、返事をした。





つづく……



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