【KAC2024】拾った眼鏡は九十九神の彼女
白鷺雨月
第1話拾った眼鏡は九十九神の彼女
終電を降り、僕は自宅に向かって歩く。
駅前に商店街があるのだが、ほとんどの店はしまっている。
毎日始発の電車で出勤し、終電で帰る生活を繰り返している。
僕の勤める会社はいわゆるブラック企業だと思う。こんなに毎日長時間働いているのに、給料はたいしたことはない。
僕はいったいなんのために生きているのだろうか?
そんな疑問が頭をよぎる。
ふらつく体を引きずりながら、コンビニにより、唐揚げ弁当を買う。
時間がないので、毎日こんなのばかり食べている。もちろん、健康状態はよくない。
目の下にできたくまはとれないし、肌荒れもしているし、抜け毛も増えてきた。
このまま僕は過労死するのだろうか。
ぼんやりと歩いていると足になにかが引っかかる感触がした。
足元を見ると銀縁の眼鏡が落ちていた。
僕はそれを手に取り、眺める。
この眼鏡はどうしてここにあるのだろうか。
きっと落とし主は困っているだろう。
当然だけど眼鏡は視力が弱い人がそれを補強擦るためにかけるものだ。
警察に届けないと。
そうは思ったけど今から交番に行く気に離れない。
結局僕はその眼鏡を鞄に入れて、帰宅した。
帰宅した僕はコンビニ弁当を食べ、シャワーを浴びて、ベッドにもぐりこんだ。
次の日も僕は始発の電車で出勤し、夜遅くまで働き、終電に乗って帰宅した。
僕はコンビニ弁当を発泡酒で流し込む。
ふと僕は拾った眼鏡のことを思いだし、それを鞄から取り出し、かけてみた。
眼鏡越しに見えたのは黒髪の美少女だった。花柄のワンピースを着ていて、腕を組み、仁王立ちで僕をにらんでいる。
「ようやく私を見てくれたわね」
ふふっと黒髪の美少女は微笑む。
どうして僕の部屋に美少女がいるのだろうか?
僕は軽くパニックになった。
眼鏡を外すとその美少女は消えてしまった。眼鏡をかけなおすと黒髪の美少女はまた姿をあらわした。
「私はその眼鏡の九十九神なのよ。ねえ、あなた私に名前をくださらないかしら?」
黒髪の美少女は僕の前に座り、手を握った。柔らかな手だったけどひんやりとして冷たかった。
「じゃ、じゃあ眼鏡だから鏡まなこなんてどうだい……」
僕は適当に答えた。
「いいわね、私は今日から鏡まなこね。ねえ、あなたお礼に何か願いをきいてあげるけど何がある?」
まなこが僕の瞳をじっとみつめる。
思わず、頬が赤くなる。
「彼女になって、何てね」
僕は思ったことをそのまま言う。
社畜の僕は彼女なんていない。
「いいわよ、じゃあこれから私はあなたの彼女になるわ。よろしくね」
まなこは端正な顔を僕に近づけ、キスをした。
【KAC2024】拾った眼鏡は九十九神の彼女 白鷺雨月 @sirasagiugethu
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