めがね
菜の花のおしたし
第1話 誰だかわからないのも仕方ない
今日の勤務は日勤、深夜。
どうか、お願い!残業無しで帰れますように。
必ずながら、メイクして、前髪を立ち上げて
スプレーで固める。
ロングの髪の毛にブラシをかけて。
よーし、やりーーっ。
病院までは歩いても7分。
ジーパンにTシャツ、スニーカー。
近道だから公園を突っ切る。
「おーい!ねぇちゃーん!
今何時だぁー?」
公園にテント暮らしのおっちゃんが声をかける。
「7時45分だよー。急ぐから行くよー!」
「おう、仕事がんばれよ!」
別にテント暮らししてたって、悪い人じゃない。
ここを通る時に、何故だか時間を聞いてくるだけ。
病院の更衣室は八階。
エレベーターは職員は使ってはならないと言う暗黙の了解があった。
階段をみんな駆け上がる。
「おはよー。」
「おはよーございます。」
自分のロッカーで急いで着替える。
髪の毛は黒のゴムできっちりと結ぶ。
耳のところは黒のピンで髪の毛が落ちてこないようにする。
そしてナースキャップ。
これは、白いピンでとめる。
白衣、白いストッキング、白のナースジュース。
白のナースキャップ。
これが私の戦いの服。
一日中バタバタ。
髪の毛はほつれ髪が出てるし、汗でメイクなんかとれてる。
白衣も汚れちゃったし、ストッキングは伝線してるじゃないの?
残業だ、やっぱり。
何とか21時には終わった。
とにかく、家に帰ってお風呂に入りたい。
深夜のお弁当も何か持って来たいし。
急いで着替えて、家に帰りお風呂に入る。
ふーっ。
あれ、もう22時!
とにかく、サンドイッチくらいは作って
みんなで食べよう。
あとおやつも。
気がつけば23時。
あー、仮眠とれなかった、、。
もう行かなきゃ。
早めに行って、勤務に入る前にできることはやっておかなきゃ。
業務が回らないもん。
顔なんかすっぴん。
髪の毛なんかまだ乾いてもないけど。
夜勤の夜は自転車。
夜道はやっぱり怖いから。
正面玄関は空いてないから、救急外来のある
裏から入る。
真っ暗な
エレベーターの前。
夜は乗ってもいいから。
待ってると各病棟の仲間がやってくる。
みんな、眠そう。
ロッカーで着替える。
朝と同じなんだけど、夜勤の時には
ナースキャップは付けない。
邪魔だから。
病室のカーテンに引っかかってしまうのね。
「おつかれー!
あれ?準夜勤者いないじゃん!
うわー、ナースステーション、ごちゃごちゃだ、こりぁ、忙しかったんだわ。
深夜にもくるなぁ。
早めに動き出そう。」
深夜の相方と勤務は始まってないけど、
やれる事はやり始める。
0時半。
引き継ぎの始まり。
結局、緊急の入院もあったりで、休憩なんかとれない。
こんな時は、とにかく、何か食べなきゃって
ナースステーションで立ちながら、
お互いに持って来た物を詰め込む。
味なんかわかんない。
そうしてたってナースコールはなるもの。
ようやく朝日が出てきた。
終わりが見えてきたと思うとほっとする。
朝の検温に回る。
「おはよーございますーー!
田辺さん、お変わりありませんか?」
「はい。お変わりありませんです。」
あれ?田辺さん、おかしいぞ。
もっと気さくな人なのに、、。
「田辺さん、気分悪いんですか?」
「そんな事は全くありませんです。」
おっかしい?
絶対に変!!
「あー、青木ちゃん、腰が痛くてよー。
湿布貼ってくんねぇーか?」
「あ、はい。
打ったとか転んだとかじゃないですよね?
ここですか?
じゃあ、ひやっとしますけど、貼りますよー。」
「ひーっ、つめてぇなぁ。あんがとよ。」
これでよし。
田辺さんだわ。
「田辺さん、なんでも教えて下さいね。
どこか具合がおかしいですか?」
「あのう、、、。
あんた青木さん??」
「ええ、そうですよ、青木です。」
「いやーーー。なーんだ、青木さんだったのかぁ。メガネ掛けてて、ブッサイクな看護婦さん誰なんだろ?って思ってたんだよ。
しかし、昼間と別人だねぇ。」
「あーーあ。
それね、昼間はコンタクト。
夜勤はメガネなの。」
「そうか、それならいいんだ。」
私はなにがいいんだか?
確かに、近眼だからね、メガネは瓶坂だよ。
でもさ、雰囲気とかさ声なんかでわかんないのかしら?
そう思いながら、患者さん用の洗面所の鏡を見た。
うーーん。
ゴムで結んだ髪の毛はほつれ過ぎてボッサボサ。静電気で逆立ってるじゃん。
黒縁の瓶底めがねは汗でずり落ちてる。
目の周りはクマがくっきり。
唇なんかカサカサ。
こりぁ、わかんなくても仕方ないっか、、。
めがね 菜の花のおしたし @kumi4920
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