第59話 カリバーン
目の前に巨人がいる。
全身すべてを機械の鎧で
数は3体。
ピートのゾンビやミズハの火事で、混乱中の基地内を
――
――司令、今使うと最前線で押しとどめている味方にも当たりますが?
――構わん。出力を
「何か、しているように見えません?」
「
俺たちが群れから
バチバチという音を発しながら、光がそこに
「撃て!」
――バババババババババババ!
――ドオオオオオオォォォォンッ!
司令が
雷撃は群れを直撃し、最前線で支える味方もろとも、生けるゾンビたちの動きを完全に止めた。
「よかった……事前に気づいて」
「ああ、本当にな。しかしなんつー威力だよ」
まるで、胸から
あんなめちゃくちゃな兵器、地球にも存在していないぞ。
この世界の文明はどうなっているんだ?
「あんなもんまともに相手してられるか。このまま
「了解です。僕もあんなの殴りたくない」
「
「熱源反応を確認。人型……例の奴らだ! 攻撃開始!」
「了解! 攻撃を開始します!」
――ダダダダダダダダ!
――ブォン! ドッゴオオオォォォッ!
「な、何で僕たちの位置がわかるんですか!?」
「まさか……サーモグラフィーまで
「何ですそれ!?」
「周囲の熱を感知する
ミミックから
触られたら一発でバレるし、気配や音、体温なんかでも当然バレる。
感触や生命反応まで擬態することはできない。
「そ、そんなの反則でしょ!? なんとかしてくださいよカイトさん!」
「無茶言うな! 俺だってあんなファンタジー世界の
――ドゴッ! ボゴォッ!
――ダダダダダダダダダダッ!
手に持った
とうとう俺の擬態が解除された。
「追い詰めたぞ、ネズミども! さんざんやらかしてくれた貴様らに私からのプレゼントだ! 受け取るがいい……
――バババババババババババ!
――ドオオオオオオォォォォンッ!
「はーっはっは! ネズミはネズミらしく
高笑いをして勝ち誇るイケメン司令官だったが、俺達の無事を確認してその笑いがやんだ。
危ないところだった……。
とっさに
「貴様……どうやって助かった?」
「
「わけのわからないことを……ミズハはどうした?」
「向こうで安眠中だよ。永眠はしていないから安心しろ」
「安心? 帝国貴族たるこの私が、どうしてあんな
「どうしてって……仲間なんじゃないですか?」
「仲間? 私にとって仲間とは同じ組織の同士たちだけだ。
使えるおもちゃが壊れただけだ。
司令官ははっきり言い捨てた。
典型的な『上に立つ者』だな。
ぶっ飛ばしても罪悪感は生まれなさそうだ。
「だがまあ、高い金を払って手に入れた道具だ。それを壊した
巨大槍の切っ先を俺たちに向ける。
「古代ノイン王国の
「……嫌だと言ったら?」
「言わせんさ。ネクタル……貴様らのお目当てのもの、その
そう言って司令官は親指で自分の胸を叩く。
「ここだ。ここにある。ネクタルはな、カリバーンの動力なのだよ」
「は!?」
樹族秘伝のシロップ、その
甘いデザートづくりに使うんじゃないのか!?
「
「お前ら……貴重な食い物をそんなくだらないものに……」
「カイトさん、どっちかっていうと食べ物じゃなくて薬です。
シロップは食い物だろうが!
ホットケーキにかけて食うだろうが!
食い物以外の何物でもないだろうが!
「欲しいのだろう? 我々を倒せば奪えるぞ?」
巨大槍を構えて司令官は続ける。
「最も、そんな可能性は万に一つもないのだがな!」
槍を振りかぶりつつ、一気に
足裏にブーストでもあるのか、青白い光が見える。
残り2機もそれに合わせて、俺たちを左右から
完全に逃げ道を
「食らうがいいネズミども!」
頭上の槍を振り下ろす。
――ドッゴオオォォォッ!
地面が
土と一緒に舞い上がった、辺りに
生暖かい……?
「この……危ないじゃないですか!」
ピートが裏に回り込んで一撃を放つ。
「
生身であればゾンビ化をを
攻撃は見事に背中に命中。
しかし――
「ふふ、今何かしたか?」
「
「はははは! 馬鹿め! このカリバーンは鎧だぞ!? 打撃攻撃なぞ効くものかよ!」
「だったら魔法攻撃はどうだ?」
俺は頭に向けてファイアーボールを放った。
そして見事命中した――が、司令官は無傷のようだった。
「当然だが、対魔法術式も
「じゃあそれを消せば魔法は効くようになるわけですね。スーちゃん!」
「ピィ!」
「何!? 誰だ!?」
司令官たちは完全に
目の前の俺たちしか敵はいない。
いたところで無敵の機械鎧を着こんだ自分たちの相手になどならない。
そう思い込んでいた。
俺が擬態を解除したからといって、サーモグラフィーを解除しなければ気づけたのにな。
足元の水が水じゃなくて、スライムの一部だったってことに。
「う、うわーっ!?」
「司令! 助け――」
「どうした!? むっ!?」
完全な足元からの奇襲が決まり、司令官たちはスーちゃんの全身に飲み込まれた。
「カイトさん、ピートさん、大丈夫ですか?」
「ああ、何とか」
「クレアさーん! 僕、死んじゃうかと思いましたよ! 安心したいので抱きしめていいですか?」
「ダメです……ってかお酒臭っ!? ピートさん、また飲んだんですか!?」
「……えへへ♪」
「えへへじゃないですよ、全くもう!」
お酒を辞めないピートにクレアが説教する。
今回は俺が飲ませたからあんま怒らないであげて欲しい。
「念のため保険をかけておいて良かったよ。サンキュー、クレア」
「全く、聞いた時は
マトファミアを立つ前に、俺が彼女にお願いしたのはそういう内容だった。
もしもっ
スライムは透明だし、イブセブンは森林が多いので、スライムが大きくても見つかりにくい。
だから、いざという時の不意打ち役としても期待してお願いしておいたというわけだ。
そして、それが見事に
「う、があああぁぁぁぁぁっ! こんなもの!
――ボシュウウウゥゥゥッ!?
「嘘っ!? スーちゃんの
「ピィーッ!?」
巨大槍が光を放ち、スーちゃんの身体は一瞬で
もしもコア部分があそこにあったら、スーちゃんはこの世から
「女……ネズミのくせにやるではないか。このカリバーンの装甲をここまでボロボロにしてくれるとは…………絶対に許さんぞネズミどもオオオォォォッ!」
「許さないのはこっちも同じだクソ野郎。こんな
せっかくの甘い物なのに、それを使って作るものが、ケーキじゃなくて兵器だとか許しがたい。
料理人として言おう。
こいつは
食い物で遊ぶどころか、食い物を兵器にするとか絶対に許しちゃいけない。
「ネクタルよこして
「ネズミなぞに頭を下げるものか! みくびるな!」
俺に
ネクタルに謝れって言ってんだよ!
食い物なのに、こんな使われ方してかかわいそうに……
「多少ダメージは
「ふーん、3人と1匹ね」
「なら、5人と1匹ではどうじゃ?」
――ザシッ!
――ドゴォンッ!
会話に集中している隙に、再び不意打ちが
こっそり背後から
空に浮いていたアミカによる攻撃で
司令官の本体が
「お前ら! 樹族の人たちは?」
「移送済み! だから来たの!」
「さすがに魔力切れ寸前じゃから派手な魔法は使えんがの」
でも、あいつを倒すくらいなら問題ない。
ミーナとアミカは自信満々にそう言った。
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《あとがき》
すいません、投稿遅れました。
次回ラストバトルです。
読み終わった後、できれば評価をいただけたらと。
作者のやる気に繋がりますので。
応援よろしくお願いします!
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