第58話 チートvsチート

 ――ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン!

   ――カカカカカカカカカカカカッ!

      ――ドゴオオオォォォッ!


 あらしのような射撃しゃげきまない。

 ミズハの職業ジョブ――運び屋キャリー


 冒険者の袋と同じく、物体を収納しゅうのうするその能力を応用して、異空間から収納したものを射出しゃしゅつしてくる。


 剣、やり、カタール、粗大そだいゴミ、丸太、大砲のたま、タンス、ボロ小屋ごやなんてものもあった。


 もしかしたら彼女の能力は、俺の持っている無限袋と同じく、収納に限界がないのかもしれない。

 それでいて生物も収納できて、高速射出が可能とかチートがぎる。


「カ、カイトさん、これどうします!? 弾幕だんまくすごくて全然近づけませんよ!?」


 飛んできた2本のショーテルを回し受けで受け止め、投げ返しながらピートが言う。


「と、とりあえず森の中に逃げるぞ!」


 まずはターゲットをはずさないことにはどうにもなりそうにない。

 俺たちはけつつ受けつつ距離きょりを取り、森林しんりん地帯ちたいへと逃げ込んだ。


「逃がさない。ここで殺す」


 ミズハは虚空こくうからつぼを取り出すと、射出した自分の武器たちに中の液体を振りかけた。

 そして再び異空間に収納し、俺たちの逃げた方向にねらいを定める。


「これで……終わり」


 ミズハの声に反応し、異界のとびらが開かれた。


 ――ボボボボボボボボボボッ!


 超高速で武器たちが射出され――周囲の火事で爆炎をまとう。

 さかる炎の小型ミサイルが次々に森へと着弾ちゃくだんしてゆく。


 あいつ、俺たちを森ごとはらうつもりだ!


「カイトさんどうします? このままだと僕たちの居場所いばしょそのうちバレますよ?」

「そうなる前に決めちゃいたいところだけど……」


 さすがは一流の暗殺者アサシンともいうべきか、全くすきがない。


「カイトさんの能力を使って何とか……」

「できるといいな……それ」


「バレちゃいましたもんね、さっき。見えていないはずなのに」


 長年暗殺者として生きてきた経験からか、ミズハは見えなくても俺たちの位置をある程度ていど割り出してくる。


 見えないと言うだけで完全に隙を作るのは難しい。

 かといって、見えている状態で隙を作るのはもっと難しい。


 俺の能力を使うのは確定かくてい事項じこう

 その上で当てるためのもう一工夫ひとくふうが欲しい。


「ピート、なんかアイデアないか?」


「え~? それ僕に聞きますぅ~? 普段の僕ならまだしも、今の僕完全に酔っ払ってますよ? 頭の中アルコールでヒタヒタですよ? アイデアなんか出るわけないじゃないですか、もう♪ 出るのは汚物おぶつだけですオロロロロロロロロロ……! あ、血も出ちゃった。そういえばおなか刺されていたっけ……」


はら刺されたのを忘れるな、アホ」


 俺は袋の中から包帯ほうたいとポーションけのスライムゼリー、そして酒を取り出し手当てをした。


 スライムゼリーを食べたピートの傷が見る見るうちにふさがっていく。

 念のため治りかけの傷口に酒をぶっかけて消毒しておく。


「ああっ! お酒……お酒が! もったいない! ぶっかけるくらいなら僕に飲ませてくださいよ!」

「こんな状況なのにまだ飲みたいとかホント酒クズだね、お前」


「いーんですかそんなこと言って? さっきいたから少し酔いがめてきちゃいましたよ? 酔いが覚めた僕は使い物になりませんよ!? ビビりのただの足手まといですよー? いいんですかー!?」


 よくないので飲ませた。

 クズい方向に頭が回るようになったなーこいつ。


「ぷはあぁぁぁーっ! あー美味い! 本当に美味しい! やっぱ酒ですよ酒。戦争や殺し合い何て下らねえ! 僕の酒を飲めえええぇぇぇっ!」


「そう言って突っ込んで行ったらあいつが飲むと思う?」

「思いませんね。それに僕の酒は僕だけのものです。誰にもあげない」


 予想通りの答えが返ってきて安心した。

 こんな酒クズは放っておいて、何とかする方法を考えないと。


「僕らの場所、まだわかってないですよね? だったら逃げたらどうです?」

「それも考えたんだけど……」


 居場所がわかっていない今、逃げることはできる。

 ミズハとのけも今この場で勝つことが条件ではなく、俺が今日を生き抜くことが条件なので、俺側の勝利条件も満たせる。


 でも――、


「それをやっちゃうと俺たちの帰りを待っているみんなが危険になる」


 俺たちがいなくなれば、当然ここの戦闘は終了。

 そうすると次に狙われるのはミーナやアミカ、樹族じゅぞくの人たちだ。


 目的はわからないが、ローソニア帝国は樹族の人たちを使ってネクタルを作らせていた。

 捜索隊そうさくたいを組んで追跡ついせきするだろう。


「俺たちを見捨てて、先に逃げてくれればその手も使えるんだけど」

「ミーナさんあたりがゴネそうですよね。ロリマスもなんだかんだでギリギリまで待ちそうですし。待機たいき場所、近すぎましたかね」

「かもな」


 でも、あそこ以外場所がなかった。

 森の中である程度場所が開けた上に、敵基地からある程度はなれていて安全性がそこそこ確保できている場所が。


 ――ドゴォッ!


「うわっ!?」

「移動しましょう! ここもやばい!」


 能力で透明化し、2人そろって再び逃げる。

 途中、縄張なわばりをらされ怒ったオークベア数体とすれちがった。

 狙いは元凶げんきょうであるミズハだ。


「邪魔」


 ――シュパッ!


 持っていた双剣そうけん一閃いっせん

 オークベアは真っ二つに、袈裟けさ斬りに、心臓を一突きに――それぞれ一瞬で絶命ぜつめいした。


「くっ……オークベアの死体が目の前にあるのに肉を取れないなんて……!」

「カイトさんもこんな時に大概たいがいですよ。僕の酒といい勝負です」


 いや、実際料理を始めないあたりマシだと思う。

 一緒にするな。


 いや、待てよ?

 料理……俺とピート……これだ!


「おいピート、料理するぞ」

「お、何です? 新鮮な食材を目の前にして我慢がまんできなくなったんですか? やっぱカイトさんも僕の同類ですね♪ よっ、料理クズ♪」


「アホなこと言ってないでお前もやるんだよ。協力しろ」


 そう、これからする料理はピート抜きでは成立しない。

 メニューは女暗殺者のタタキ――と言ったところか。


「つまみが欲しいんだよな? これ食ってしっかり魔力回復させとけ」


 袋の中からスルメとクッキーを取り出し、ピートに食わせる。

 さあ、暗殺者退治だ。

 決着をつけよう。


 ……

 …………

 ………………


 俺たちが準備を終えてもなお、ミズハはあきらめていなかった。

 ところかまわず絨毯じゅうたん爆撃ばくげきを行い、居場所をあぶり出そうとしている。


 炎に巻かれ、あるいはミズハ自身に切り殺され、森の動物や魔物が次々と転がって行く。

 そんな動物と魔物の亡骸なきがらこそが、俺たちの起死回生きしかいせいの一手だった。


死屍命名リビング・デス


 ピートの死霊術ネクロマンシーによって、よみがえった動物&魔物たちがゆっくりと起き上がた。

 直後、それらのゾンビたちは生前と同じ速度でミズハへとおそかる。


「こんなもの、足止めにもならない」


 そう言ってミズハは切り捨てるが相手はゾンビ。

 斬られたくらいじゃ動きを止めない。


 腕や足を失おうと、はたまた首を失おうと、ゾンビ軍団はミズハに向かって攻撃を続ける。


「……っ! めんどくさい! 燃えて!」


 ――ボボボボッ!


 例の弾幕をゾンビに向ける。

 ゾンビたちは燃え上り、その動きを徐々じょじょに弱めていく。


 だから、そうなる前に魔法をかけ直す。

 肉ではなく、骨に。


死屍命名リビング・デス


 燃え落ちる肉のよろいを脱ぎ捨て、スケルトンとなった動物と魔物は歩みを止めない。


 粉々になっても再構築こうちくされる不死の軍団に合わせ、隠れていた俺たちも能力を解く。

 ミズハまでの距離、5メートル。


「……! 射出……!」


 ――ズドン!


 狙いは大きく外れて明後日あさっての方向に飛んで行った。

 やはりいくら彼女でも、これだけの物量の前では正確に狙いはつけれないらしい。

 距離をめる俺たちの足が加速していく。


「射出……射出……! く……」

「さすがにそんなわちゃわちゃしてたら当たらないよな?」

「もし当たるようなのが来たとしても、僕が全てね返します」


 戦争の基本は、相手より戦力をととのえること。

 いくら一人が強くてもできることが限られるのが戦争だ。


 数の暴力。

 これに勝る戦術などない。


 森を焼いてくれたおかげで、こちらは戦力を大量に補充ほじゅうすることができた。

 決着まであと――3メートル


「射出! 射出!  当たらない……こんな、私が、こんな……」

「一人じゃなければお前にも勝てる。言ったよな?」


 あと2メートル


「射出! 射出!」

「もう諦めてくれ。今までの自分を捨てるのは怖いだろうけど」


 あと1メートル。


「射出……! 私は、私……本当は、でも、他に生き方を知らない……」

「俺んとこに来い。約束しただろ? 新しい生き方を教えてやる、だから今は眠れ」


 ――ドッ!

 ――ゴッ!


「か……」


 俺とピートの一撃が決まり、ミズハの意識を刈り取った。

 女暗殺者ミズハは今ここで死んだ。


 彼女の新しい人生に幸あることを願おう。

 安全な場所に彼女を置いて、改めて俺たちは逃げ始める。

 そして基地出入口まで来た時、それを見た。


「な……」

「何ですか……あれ?」


 俺たちが見たのは小型のロボット――いや、パワードスーツだった。

 地球にすら存在しないような超技術を元に作られた全身機械鎧ウルオートメイル

 それを着込み指揮しきる――司令官の姿がそこにあった。





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 《あとがき》

 ミズハは実は中ボスでした。

 2章のラストバトルはここからです。


 読み終わった後、できれば評価をいただけたらと。

 作者のやる気に繋がりますので。

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