第53話 檻の中の光明
「オラッ! さっさと入れ!」
――ドカッ!
兵士に背中を
そのせいでバランスを崩し、俺は顔面から
「
「全くだぜ。亜人なんかの
「下等種族なんぞ見捨てときゃいいのに」
3人の兵士は俺たちを牢にぶち込むと、1人を見張りとして残し去って行った。
「どうせ明日死ぬお前らのために、俺たちからサービスだ。会いたかった樹族と同じ
誰がするか
テメーには頼まれても俺の飯は食わさん。
店に入った瞬間、塩ぶっかけて追い出してやる。
「そこにいるのは……もしかしてキョウか?」
「その声は……父さん?」
「アヤメは? アヤメもいるの?」
「母さんも! アヤメはいないよ。安全な場所でかくまってもらっている」
「どうやら、同じ牢屋にご両親がいたみたいね」
「感動の再会ですね」
「いや、こんな場所だと感動できないじゃろ」
「何とかして脱出しないとなあ」
天然の
バスケットコート2面分はありそうな広さだ。
その広い
「ミーナ、何とかできない?」
「無理ね。
「ロリマス、魔法で何とかならない?」
「無理じゃな。この牢獄、魔
「ピート、何とかできない?」
「うーん……
「全員、打つ手なしか。何だよもう、使えねえ偽ロリだなあ」
「何でわしだけ言うんじゃい」
いやあ、何となく。
しかし、魔法が使えないとなると、ロリマスはもはやただの偽幼女でしかない。
最強戦力の一角が封じられたのは本当に痛い。
タイムリミットの明日までに、ロリマス抜きで何とか脱出しなくては。
「すいません。助けに来ていただいたのにこんなことになってしまって」
「私たちの子を
仲間たちと
どうやらキョウはお母さん似のようだ。
「いえいえ、こちらこそ助けに来たのに捕まっちゃってすいません。それもこれもここにいるこの偽ロリがですねえ、もうちょっと、こう上手い感じにロリっていれば……」
「なんじゃい。わしの演技に何か不満でもあるのか?」
「いや、演技って。ロリマス完全に
「
みんなから総ツッコミを食らって偽ロリがぐぬぬとなった。
「わ、わしの演技が問題じゃないわい! というか、捕まった原因は明らかにカイトじゃろうが! おぬしが顔バレしていなければ捕まらずに
「しゃーねーだろ! まさか俺を
あれは完全に誤算だった。
あの銀髪ツインテ女さえいなければ、俺たちの計画は
今ごろ救出の準備を始めている頃だったのに、最悪の想定外が起きてしまったものだ。
計画の見直しをしないと。
タイムリミットは明日みたいだから、今夜中になる早で。
「あの、お二人にお聞きしたいんですけど、捕まった人たちはあとどのくらい?」
「ここにいる者で全員です」
「初めはもっと居たのですが……おそらく、もう」
「そうですか……お
予想はしていたことだけど、やはりリアルに
もっと早く助けに来れれば――と、心のどこかで思ってしまう。
「そんなに大勢の人たちを使って、ローソニアは何を?」
「彼らの目的は、おそらく私たちしか作れない
「ああ、キョウから聞きました。秘伝のシロップでしたよね」
「でもさ、たかがシロップで村を
「甘い物で
ミーナとアミカの言う通りだ。
シいくら秘伝とはいえ、たかがシロップ一つで戦争とかありえない。
「奴らの狙いはシロップではありません」
「彼らの狙いは秘伝の
「大地の魔力を凝縮して作るネクタルは生命の
不老不死は権力者が見る最後の夢とも言われる目標の一つだ。
狙われる理由としては、ちょっと
「そのネクタルですけど、本当にそんな効果が?」
「いえ、あくまでそれは当時の
ああ、やっぱりそんなもんだよな。
そう思った次の瞬間、俺の身体に
「でも、それに近い効果はあります。ネクタルは先ほども言ったように生命の塊です。不老不死や死者
「死んでさえいなければ即時復活が可能なので、おそらくこれを利用した
2人の説明は続くが、俺の耳には全く入ってこなかった。
そしておそらく、もう一人の耳にも。
「聞いたか? ロリマス」
「うむ、しかと聞いた」
「よかったな。ギリギリだけど見つかったぞ」
「うむ……うむ! わし、これからも生きれるんじゃな。これからは皆と同じように年を取って、普通に死ぬことができるんじゃな……」
「脱出計画にひと
「ですね。料理はひと手間加えた方が美味しいなんてことは、僕みたいな
「ネクタルも
「でもどうやって?」
「それは……これから考える!」
「「「「ですよねー……」」」」
皆が
そんな顔で俺を見るな。
「とりあえず飯でも食って考えようぜ。おーい、そこの見張り」
「あん?」
俺は見張りに声をかけて手
「何だどうした? ここから出せとでも言いたいのか?」
「そんな無駄なこと言わねえよ。腹が減ったから飯を食いたいんだ」
「はぁ!? 明日死ぬお前らに出すメシなんてあるわけがないだろうが」
「お前らになくても俺にはあるんだよ。俺の袋あるだろ? それ取ってくれないか? 中に食い物や調理器具が大量に入っているんだ。許可を出すから、あんたの手で調理器具と食い物を取り出してくれ」
「何でそんなことを俺がやらなくちゃならん!」
「あんたしか頼める奴がいないからだよ。何? もしかしてビビってんのか? 食い物を武器にして出られちゃうんじゃないかってどんな
「こ、この
「お? 何? 怒ったの?
「言わせておけば……っ! そこに直れ! ぶっ殺してやる!」
いいぞ、こっち来い!
まさかこんな簡単に挑発に乗るとは思わなかった。
牢の中に入った瞬間、一瞬でボコって鍵を
「どうしたの? 何の
「こ、これはミズハ様……」
見張りの兵士がカギを開けようと立ち上がった瞬間、あのツインテ女がやってきた。
チッ……やはりそう簡単に脱出はできないか。
「こ、この劣等人種が私を
「あなたバカ? それが彼の狙い。開けた瞬間、あなたは一瞬でやられる」
「そ、そんなことはありませぬ! 軍人たる私がこんな亜人の仲間の劣等人種などに……」
「能力に人種は関係ない。彼らをなめないほうがいい」
「しかし、奴らは
「武器なしでも私はあなた程度一瞬で殺せる。私の見立てだと彼らの中にも、私と同等の使い手が2人いる。それでも
「い、いえ……失礼しました」
「それが
ツインテ女――ミズハの説得で、怒りの炎は
「あまり挑発しないで。中央の兵士は弱くてバカなくせにプライドだけは高い。あなたたちに逃げられる」
「それを聞いたら
「ダメ。あなたたちの死は決定事項。
「ちぇっ、かわいい顔してるのにケチだなあ」
かわいいと言われた瞬間、ピクっと一瞬だけ反応があった。
おだてればいけるか?
「かわいい……初めて言われた。私、かわいいの?」
「え? うん、まあ、世間一般で考えたら上位1%には入る見た目じゃないか? 顔小さい。髪きれい。スタイルいい」
「……カイト? なーに婚約者の前で敵を
「ちょっ!? ミーナ、これは作戦だって。口説いて出れるならそのほうがいいだろ!」
「そりゃまあそうだけどさ……なら、今の
「いや、心からの本心だが」
「だと思った! だからダメです! これ以上口説くの禁止!」
「何でだよ!? 大体お前、前に嫁は3人までオッケーって言ってたじゃん!」
「いくらなんでも敵はダメーッ!」
そう
ちょ、ミーナさん!
「わ、わかった! もう止める! 止めるから!」
「……約束だからね」
「ああ、わかったよ」
嫁(予定)にお願いされてしまったので、もうこの手は使えない。
また新しい第3の方法を考えるしかない。
「もういい?」
「あ、うん……待ってくれてありがとう」
会話が
見張りの兵士よりは会話ができそうなので、引き続き俺は会話に戻る。
「話は聞こえてた。かわいいって言われたのは嬉しいけど、私は決してあなたたちを出さない。今回の作戦を成功させる。それが私の仕事」
「
「暗殺者だからこそ契約が大事。契約を守らない裏の人間は狂犬と同じ。危なくて使えない」
なるほど。
犯罪者だからこそ、守るべきルールを守る、か。
これはどっちにしても出るのは無理だったかな。
「あんたを説得して出るのは無理そうだってのはわかったよ」
「そう。理解してくれて何より」
「脱出はしないから、簡単なお願いはしてもいいか?」
「何?」
「俺の袋から食材と調理器具を出してくれないか? もちろん、脱出に関わりそうな道具を出さないよう、あんたの手で出してくれ。包丁で変なことしないように。料理している
人生最後の夜になるから料理させてくれ。
美味い飯を食わせてくれ。
俺はそう頼み込んだ。
「わかった。料理させてあげる」
「よし! ありがとう!」
俺は思わずガッツポーズした。
「よかったらあんたも食うか? 味には自信あるぞ」
「いいの? じゃあ食べる。一応言っておく。私、訓練してるから毒
「そんなもん入れねえよ。料理人なめんな」
さあ、料理開始だ。
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《あとがき》
次回、獄中料理回です。
第6回ドラゴンノベルス小説コンテストにエントリー中です!
読み終わった後、できれば評価をいただけたらと。。
作者のやる気に繋がりますので。
応援よろしくお願いします!
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