第52話 デジャヴ

「見えたぞ、到着とうちゃくだ」


 検問所けんもんじょからさらに進むこと15分、俺たちは樹族じゅぞくの村に到着した。

 いや、村『だったもの』と表現するのが正しいか。


 人が住んでいたであろう家は大半が打ちこわされ、その原型をとどめていない。

 中には燃やされているものもある。


ひどいな……自分たちで無理難題むりなんだいけておいてこれかよ」

「ローソニア帝国は人類至上しじょう主義をかかげておる。人間以外の種族など、家畜かちく程度にしか思っておらんのじゃろう」


「話し合うことができるのに、どうしてそんな風に思えるんですかね……」

「知らないし、わかりたくもないわ。そんなクソみたいな思想」


 ここに住んでいた人たちの歴史が、灰となって消えてゆく。

 それはただ命をうばうよりも、さらに残酷なように思える。


「…………あれ、オレの家だったとこです」


 キョウの指さした先――そこには瓦礫がれきの山が見える。

 俺は馬車でそこに近づくと、瓦礫から覗いていたうさぎの人形を拾ってキョウに渡した。


「悪いけど今は耐えてくれ。家を壊されて辛いとは思うが」

「大丈夫、わかってます。村の人たちを助けなきゃいけませんから。泣いてるヒマなんてありません」


 気丈きじょうに振る舞う姿が痛々しい。

 思い出も何もかも壊されて、声を上げて泣きたいだろうに。


「ねえ、さっきから思っていたんだけど変じゃない?」

「ああ、俺も不自然に思っていた」


「え? 何がですか?」

「おぬし……ビール飲みすぎで頭の中にまでアルコールが回ったのか?」

「人の気配が全然しないだろ? だからおかしいんだよ」


 そう、この村の跡地あとちには人の気配が全くないのだ。

 普通こういった場所には、過去の思い出にとらわれた人が何人もいるものだ。


 壊されたものを復旧ふっきゅうさせ、元の暮らしに戻そうと努力する人たち。

 ここにはそれが居ない。


「戦災孤児の姿もないのう」

「こういう場所には食べ物を探している子が何人もいるもんだけど。他の街までの行き方なんてわからないだろうし」


 子どもの行動範囲はんいなんてたかが知れてるからね――とミーナが語る。

 自身の経験に基づいた言葉なので、説得力がちがう。


「検問所の兵士が言っていたことも気になるし、これは絶対何か裏があるな」

「あんたに同じ……よっと」


 ミーナは俺に同意すると、御者台ぎょしゃだいから後ろにあるおり屋根やねによじ登った。


「この先……500mくらいかな? そのあたりから大量のけむりが上がってる。規模きぼ「「からして、間違いなくこれをやった張本人たちね」

「行くしかないな。ここにいても人々の居場所はわからないし」


 俺たちは再び馬車を走らせた。

 煙までの距離きょりは近いので、すぐに目的地へたどり着く。


「止まれ、何者だ!?」

「失礼、私はローソニアの辺境へんきょうで奴隷商をいとなんでおりますカイルという者です。こちらの者はニナ。私の秘書でございます」


「ニナです。どうぞお見知りおきを」

「ここに来た目的は、先の戦闘で身寄みよりと財産を失った樹族たちのスカウトです」


「我々奴隷商にとって、戦場というのはかせぎ場ですので」

「ふむ、なるほど」


 俺たちの話に、兵士は納得したようだった。

 ほかの兵士もこちらを見るが、特にさわぎもせず視線を外す。

 こういうのは、戦場ではありふれた光景なのだろう。


「何者なのかはわかった。我々に接触せっしょくした目的は?」

「ここに来る前、村の跡地を見ましたが誰一人としていませんでした。せっかく遠路えんろはるばるここに来たのに、手ぶらで帰ったら大損です」


「煙が見えたので私が提案しました。軍の皆さんならば、隠れた樹族の居場所を知っているのではないかと思いまして」

「いかがでしょう? 樹族の隠れ場所、もしくはらえた樹族そのものを、私に売っていただけないでしょうか?」


 そう言いながら、こっそりとこの兵士に金貨を渡す。


「それは……私の一存いちぞんでは決められないな。司令官と直接交渉するといい。ついてこい」


 袖の下は効果覿面てきめんだったようだ。

 兵士の案内にしたがいついていくと、ひときわ大きなテントがあった。

 周囲には何かの兵器らしき巨大なものが、布をかけられ鎮座ちんざしている。


「ここで待て、今呼んできてやる」


 兵士がテントに消えたすきを見はからい、俺は檻の中の3人に話す。


「俺は今からお前たちを売り込む。売られた先に村の人たちがいるだろうから、隙を見計らってロリマスの魔法で脱出してくれ」

「わかったのじゃ。まかせとけ」


「情報共有のためにピート、連絡用に手ごろな小動物のゾンビをお願いね」

「わかりました。……死屍命名リビング・デス


 ミーナにうながされ、ピートがゾンビをつくる。

 素材はそこらにあった野ネズミの死体だ。

 これならそう目立たず動き回れる。


「キョウの役目は村人全員の説得だ。できれば夜までに終わらせほしい」

「わかりました。頑張ります」


 出すべき指示を終え、俺はロリマスにお菓子かしを大量に手渡した。

 大人数を引き連れての空間跳躍テレポートは魔力消費がはげしいらしいので、今後のことを考えてうなぎパイや骨煎餅、スライムゼリーなどを各種10個。


「夜、寝静まった頃に目立たず脱出だ。理想はこっそり気づかれずに脱出。次点は気づかれた上でこっそり脱出。最悪、気づかれた上でド派手に脱出だ」


 言うべきことは全部言った。

 後は作戦成功を天にいのるだけ。


「ほう? お前か? 奴隷商人というのは?」


 テントの中から司令官らしき男が現れる。

 金髪の美形で思ったよりも若い。


「は、はい! 私はカイルと申します。司令官様には捕らえた樹族、もしくは彼らの隠れ場所を売っていただきたく。また、私の連れてきた奴隷を買っていただきたく……」

「なるほど。ふむ、随分ずいぶん見目みめうるわしい少女だ。気に入った買おう」


 美形の司令官はアミカを見るなりそう言った。

 この男、どうやらロリコンのようだ。

 美形でモテるだろうにもったいない。


「こっちの男もなかなかいいな。身体は細いわりに腹筋ふっきんも割れている。しっかりきたえているのがわかる良い肉体だ。こいつと夜遊ぶのも楽しそうだ。買おう」


 美形の司令官はピートを見てもそう言った。

 この男、どうやらどっちもいけるらしい。

 ピートがさりげなくケツを手でかくした。


「この子どもは樹族だな? 買おう。樹族はいくらいてもいい。全部でいくらだ?」

「男が金貨50枚、幼女が金貨100枚、樹族が金貨100枚でしめて金貨250枚です」


「少々高いがまあいいだろう。その値段で買ってやる」

「待って、司令」


 交渉成立、今まさに取引が始まる瞬間だった。

 テントの中から若いツインテールの女が現れ、俺たちの交渉こうしょうをストップさせる。


 ……あれ? なんかデジャヴが。

 声は聞き覚えないのに、何というか。

 この子のまとっている雰囲気になんか覚えがあるような……?


「どうしたミズハ? お前から話しかけるなど珍しい」

「買う必要ない。そいつら、奴隷商人じゃない」


「し、失礼な! 私はれっきとした奴隷商人ですよ! おじょうさん! 何を根拠に!?」

「そ、そうよ! いい加減なこと言わないでくれますか!?」


 俺とミーナは抗議をするが、ツインテールの女は無表情のままこう言った。


「こいつら、私の同僚どうりょうを倒した奴ら。ローソニアの人間とか嘘。思いっきりマトファミアの人間」


 同僚……まさかこの女!?


「っていうか、そもそもこっちの男はこの世界の人間でもない。仕事でさらってきた異世界の人間。マトファミアの山奥に誘拐ゆうかいして捨ててきた。ソースは私」


 こいつ……間違いない!

 俺を誘拐した奴らの1人だ!


 3人のうちの2人目!

 女だったのか!


「こいつら全員、ろうにぶち込むべき。それがベスト」

「お前の意見に従おう。おい! 誰かこいつらを連れて行け!」


 敵の最深部まで行ったら速攻で正体がバレた。

 装備そうびと道具は全部没収ぼっしゅうされちまったし、ここからどうやって脱出しよう?






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 《あとがき》

 誘拐犯2人目登場です。

 これから先、どうやって脱出するのでしょうか?


 第6回ドラゴンノベルス小説コンテストにエントリー中です!

 読み終わった後、できれば評価をいただけたらと。。

 作者のやる気に繋がりますので。

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