第49話 森の〇〇さん

 国境を出てから1時間後――俺たちはイブセブン連邦れんぽうの国境線に到着とうちゃくした。

 マトファミアやローソニアと違って、イブセブンにはとりでがない。

 ただ、国境線をしめす看板があるだけで、特に兵士とかも置いていないようだ。


「イブセブン連邦は国土の7割以上が自然におおわれていて魔力が濃厚なんです。その魔力を利用して、国全体に結界を張っているので、わざわざ砦とか作る必要ないんですよ」


「それに、イブセブンは1つの国家とはいえ、種族間同士の仲間意識がうすい。国全体をみんなで守るという概念がいねんはほぼ存在しないのじゃ」

「自分の仲間は自分で守れってことか」


「冷たく思えるが、イブセブンのような他種族国家にとっては、非常に理にかなった考え方なんじゃぞ。何せ32種族もおるからのう。それらを全て一緒くたにしてしまうと、生活習慣せいかつしゅうかんやら色々な面でトラブルが発生してしまう。だから、唯一の国是こくぜを定めた後は、それぞれ勝手にやってもらうほうが問題が起きないのじゃよ」

「なるほどなあ」


 まとまった法律を作って、あとは生活けんかぶる地域の住民同士でまとまった方が、確かに問題って起きにくいもんな。


 地球で言うアメリカみたいなもんかな?

 州ごとに決められた法律とかあるし。


「キョウ、ここからあとどのくらいだ?」

「えっと、馬車で半日くらいだと思います」


「それまではヒマってわけね」

「ミーナ、だからって気を抜くなよ? いつ誰に出会うか分からないんだからな。自分の役割を忘れないように」


「わかってるわよ。あたしはあんたの秘書で護衛ごえいで愛人……でしょ? ご主人サマ♥」

「……そ、そうそう。その設定を忘れないでくれよ?」


「なんか、カイトさんとミーナさん、設定にかこつけてイチャついてませんか?」

「ピートもそう思うかや? アレ絶対公私混同こうしこんどうしとるよな。キョウもそう思うじゃろ?」


「えっと……オレはそういうのまだあんまりわからなくて」

「何じゃお主? もうそろそろ大人の身体になるというのに、まったくそのあたりの知識がないのか? お主それでもチ〇コついとるのか?」


「つ、ついてないです! オレまだ大人じゃないですよぉ!」

「ババア……子ども相手にセクハラはやめろ」


 地球だったら裁判沙汰ざただぞ。


「それにしてもヒマじゃのう。カイト、何か面白いことしゃべれ。森林風景ばっかでつまらぬ」

「無茶言うな」


 こちとら料理人であって芸人じゃねーんだぞ。

 話のプロでもないのにそんな無茶ぶりをされて、すぐに面白いことなんて言えるわけねーだろ。


「あ、じゃあさカイト、何か歌ってよ。あんたの故郷こきょうの歌」

「お、それいいのう。わしも聞きたいのじゃ」

「歌ぁ? まあいいけど……」


 俺、料理一筋ひとすじでそんなに歌って知らないんだよな。

 それに基本音痴おんちだから、複雑ふくざつなメロディーを歌いきる自信がない。

 となると、やはりここは簡単で馴染なじみ深い子ども向けの歌でいくとするか。


「じゃあ、そうだな……ちょうど今木々きぎかこまれた街道かいどうにいるし、『森のくまさん』でも歌うとしようか」


 俺は森のくまさんの1番をみんなに教えた。


「ん、覚えた」

「簡単じゃのう」


「覚えやすくていいですね」

「オレも一回で覚えられました」


 だろうな。

 森のくまさんは1番1番が短いからな。

 ストーリー性もわかりやすくて非常に覚えやすい。


「じゃあ歌うぞ。せーの」


 ――あるー日♪(あるー日)

 ――森のーなーか♪(森のーなーか)

 ――くまさーんに♪(くまさーんに)

 ――出会―った♪(出会―った)

 ――花咲っくもーりーのーみーちー♪

 ――くまさーんにーでーあーあったー♪


「あはは、歌はいいのう。歌っているとなんだか楽しくなるのう」

「でもさロリマス。この歌って内容が今のあたしたちと一緒じゃない?」


「歌った俺たちも熊さんに会っちゃうって? はっはっは、そんなバカな」

「そうですよミーナさん。いくらなんでもそんなこと――」

「………………みなさん、アレ」


 キョウが前方の森の中を指さした。


「「「「「熊さん発見-ッ!」」」」」


 なんということだろう。

 異世界で森のくまさんを歌っていたら、本当に森で熊さん(オークベア)に出会ってしまった。

 しかも4匹。


 森のくまさんは異世界の熊を呼びせる効果でもあるのだろうか。

 結構なレアモンスターのような気がするんだけど、オークベアって。


「み、みなさんっ! オークベアです! 逃げましょう! 4体とか危険すぎます!」

「逃げる? バカ言っちゃいけないわよ、キョウ」


一人一殺ひとりいっさつに決まっとるじゃろ。この場合」

「ああ、いいですねえ。僕、ちょうどポークジャーキーが食べたいって思っていたんですよ」


「スパイスのストックは常にキープしてるからなぁ……安心しろ熊公くまこうども。お前ら全員、俺が美味しいカレーにしてやる」


 ジュルリとした視線をオークベアたちに送る俺たち一行。

 4匹のオークベアが全員一歩後ずさりをした。


 野生の本能ほんのう危機ききを感じ取ったのかもしれない。

 こいつらはヤバい。今すぐ逃げろと。

 まあ……逃がさないが。


「ロリマス! やるぞ! 合わせろ! 超重力ギガ・グラビトン!」

おうとも! 超重力! 術のコントロールはわしにまかせるのじゃ!」


 俺とアミカ、2人の超重力が合わさり、疑似的ぎじてきなブラックホールを形成けいせいする。

 俺は魔法のコントロールを彼女へと渡し、ミーナと一緒に馬車から飛んだ。


 オークベアたちをはさみ込むよう、左右に。

 射線しゃせんが通った中央に向けて、アミカがブラックホールを放つ。


 放たれたブラックホールは周囲からあらゆるものを吸い込みつつ、4匹のオークベアに命中した。

 全身の骨がくだける音が、少し離れた位置にいる俺の耳にもよどいた。


 ロリマスがブラックホールを使うとこういう感じになるのか……恐ろしい。


 しかし相手はA級の危険生物。

 そんな状態になってもまだ動ける元気があるようで、足を引きずりながらも森の深くへ逃げだそうとしている。


「逃がさないって言っただろ! ピート!」

「はい! 吸命ドレインライフ!」


 わずかに残っていた逃げるだけの力を、ピートの吸命がおそい、根こそぎうばい取った。

 オークベアたちはもうほぼ動けない。


「ミーナ、トドメを!」

「うん! カイトも一緒に!」


 出会ったオークベアたちの命に感謝かんしゃを込めて――


「いただき――」

「――ます!」



 ……

 …………

 ………………


「やったねカイト! オークベア4匹とか大漁たいりょうだよ、大漁!」

「カイト! カレーじゃ! カレーにするのじゃ! あ、わしからいの苦手じゃから甘口で」


「ポークジャーキーにもするから残しといてくださいよ。ビールのつまみに最適なんです」

「み、みなさんメチャクチャお強いんですね……オークベア4匹を瞬殺しゅんさつ……」


 まあ、俺が選んだメンバーだしそれくらいは。

 ミーナは俺式オークベアの戦い方を目の前で見て知っているし、アミカはS級冒険者だからそもそも生物としての格が違う。


 ピートも暇なタイミングで、俺とギルマスが酒のおつまみ開発で色々連れだしたから、つまみになりそうな魔物の戦い方を熟知じゅくちしている。


 あと単純に普通にみんな強い。

 冒険者になりたてだった頃ならともかく、倒し方も確立かくりつされている相手など、今さら物の数ではない。


 オークベアですら、今の俺たちにとってはただの捕食対象ほしょくたいしょうである。


「キョウ、この近くに川とかないか? オークベアを解体したいんだけど」

「それならもう少し先の開けた場所に……」


「ありがとう。それじゃあついでにそこで朝飯にでもしようか」

「そうね、ちょうどお腹もすいてきたし」


「それじゃあミーナ、俺先に行って準備しておくから、馬車の運転頼んでいいか?」

「うん、了解。カイト、行ってらっしゃい♪」

「う、うん! 行ってきます……!」


 ミーナに見送られて仕事場へ。

 なんかいいな、こういうの。


 なんていうか、新婚さんっぽくて!

 世の新婚ご夫婦は毎日こんななんとも甘酸っぱい時間を過ごしているのか。


 両想いになれて本当に良かった。

 好きな子の有能美少女エロメイド姿でいってらっしゃい――正直最高すぎた。


「ここか。キョウの言っていた川って」


 教えられた川はそこそこ広めの川だった。

 わかりやすく例えると、キャンプ場に隣接りんせつしていそうなレベルの大きさだ。


 ここならみんな座ってゆっくり飯が食えるな。

 石畳いしだたみの上に調理器具を並べ、燃料石を使ってライスをこう――と、無限袋をあさっていた時だった。


 ――ニョロニョロ……

     ――ニョロニョロ……


「………………」


 川の対岸にニョロニョロとうねっている魔物の大群たいぐんを発見した。

 魔物たちは俺を襲うつもりなのか、水の中に入ってじりじりとこちらへ近づいてきている。


 魔物の大群に狙われた俺の頭に逃走の文字が……浮かび上がるわけがなかった。

 浮かび上がったのは別のことである。


「あいつら……食えるかな?」





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 《あとがき》

 カイトが川で出合った魔物とは?

 ニョロニョロくねくねといえば……そう、あいつです。


 第6回ドラゴンノベルス小説コンテストにエントリー中です!

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