第47話 領主最後の1日

「ってわけなんで領主辞めてきた」

「「「「「えええええええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」」」」


 とりでから帰還後、付き合いの古い奴らや、俺が直接スカウトした冒険者を屋敷やしきに集めて報告すると、あんじょう現場は騒然そうぜんとした。

 領主ってこんなバイト感覚で辞めるもんでもないからなあ。


「おいおい、事情はわかったけどよ……お前が辞めちまったら魔物の肉どうすんだよ?」

「一部はすでに店で料理として出してるから、味にハマっているやつはいるはずだ。青空教室とかで調理方法は教えているのもあるから、この街限定だけど経済に乗せれる」


「わしをふくめた、やとった冒険者たちへの給料はどうなるんじゃ?」

「悪いけど今月をもって契約けいやく終了だ。でも不満はそんな出ないだろ」


 もともと冒険者というのは、やることが違うだけで地球で言う日雇ひやとい労働者みたいなものだ。

 もしくはユーバーエイツ。


 定期的な収入がストップしたところで、元の形におさまるだけだから、特に何とも思わないのではないだろうか?


「ダンジョン目録もくろくの作成はギルドが引きいでくれよ。ギルドの仕事的にも必要なことだしいいよな?」

「そりゃまあ、いいけどよ……」


「俺はどうなるんだ? あんたがいなくなったら仕事がゼロだぞ? 備長炭びんちょうたんしか焼けねえ俺じゃあ……」


「それも大丈夫だ。エディの炭はすでに料理に適した炭として、商人ギルドに売り込んでいる。王都じゃ俺の料理が話題沸騰わだいふっとうらしいからな。最大限にそれを利用して売り込んでおいた。むしろ仕事は今より増える。覚悟しとけ」


「あのう、僕の仕事は? ビールのほう……」

「俺からの定期収入はなくなるけど、ほぼ無限にギルドクエスト出るだろ。今さらビールもう飲めませんとかなったら暴動起きるぞ」


 俺が辞めることで問題が起きそうな部分は、すでにしっかりと対策している。

 既存きぞんのものに限られるけど、すでに新しい需要じゅようを開拓してしまっているので、この流通の波は止まることはない。


 なので万事ばんじ問題なし! 領主不在ということ以外は!


「カイト、ちょっと外出ようか?」

「あ、はい……わかりました」

「みんなは適当に休んでて。さ、行くよ」


「……カイトさんずいぶん素直すなおなような? 何かあったんですかね?」

「むぅ、わからん……ただ、ミーナのほうも前と雰囲気ふんいきが変わった気がするのう」


「何だ、お前らアレ見てもわかんねえのかよ? ありゃな、ヤったんだよ」

「ヤったって……何をじゃ?」


「マスター……あんた若くなりすぎて性知識までロリったんじゃねえですかい? 何ってそんなん決まってるでしょ。セッ〇スだよ。セック〇。若い男女が同じ家に住んでて部屋も隣同士。ヤらねえわけが――おごぉっ!?」


「まだヤってない! ゲスい想像すんな! このハゲ!」

「は、ハゲてないだろ俺は! 見ての通りフサフサだ!」


「そうかのう? 最近ちょっと前髪のあたりが以前より後退したような気がするのじゃが……」

「え、嘘……マジで? 妻と子どもに会った時にかわいそうな目で見られたらどうしよう……」


「いっそのこと全部り上げてスキンヘッドにしたらどうじゃ? 頭が涼しくて寝心地ねごこちいらしいぞ。知らぬけど」


「スキンヘッドって結構かっこいいですよね」

「ピッピピィ」


「え? ああ、そうだね。えーと、スーちゃんも『変に抵抗ていこうするより、スパッと全部っちゃったほうがいさぎよくてかっこいいよ。奥さんも子どももギルマスの新たな魅力みりょくに気づくかも。ハゲは性欲が強いらしいし、絶倫ぜつりんアピールできるのでは? 奥さんともう1人子ども作れるのでは?』って言ってます」


「そんな長い会話内容だったのかよ!?」


 ……

 …………

 ………………


「カイト、あたしが言いたいことはわかっていると思うけど、とりあえずあんたの部屋行こっか」

「……ああ、そうだな。あそこなら声届かないだろうし」


 ミーナとならんで移動する。

 みんなのいる大広間おおひろまから階段を上り、俺の部屋まで移動して――ドアを閉める。


「とりあえず――まずは歯ぁ食いしばれ!」


 ――バキッ!


「あんた一体何考えてんの!? 朝さあ、あんたあたしにプロポーズしたわよねぇ? あたしオッケーして婚約成立したよねぇ!? それなのに領主辞める!? これから結婚しようって人間が無職になってどうすんのよ!?」


「お、お怒りはごもっともだと思いますが、できればおさえていただけると……あと、一応料理人で冒険者だから無職ではないのではないかと思うのですがそのあたりどう思われますか? 未来の我が愛する妻よ?」


「未来の……? 今は愛していないって言うのかコラーッ!?」

「ち、違う! そういう意味じゃない!」


「あたしは! 今も! 昔も! 未来も! これからずっとあんたが好きなの! なのに……なのにどうして勝手なことすんのよ、バカ……せめてあたしに相談しろ」

「……ごめん」


 ミーナの頭が、俺のむねにコツンと当たる。

 正直、さっき殴られた時より何倍も痛かった。


「はぁ……もういいわよ。一発殴ったし、言うだけ言ったらスッキリしたし」

「何も言わずに決めて本当にごめんな。でもさ、見捨てられなかったんだよ」


「あんたってそういう奴だよね。無関係な奴なんて見捨てればいいのに。でもさ、そういう優しいとこが好きなんだし、まあしゃーないか」


「じゃあ、許してくれるのか? 婚約破棄こんやくはきとかしない?」

「しないしない。さっき言ったでしょ。あたしは、今も昔も、この先の未来も、ずっとあんたのことが好きなの。だから婚約破棄なんてしない――って、言わせんな! 恥ずかしい――んっ!? んんぅっ!?」


 身体が勝手に動いていた。

 気が付いた時にはミーナのくちびるうばっていた。

 どうやら人は感情が高ぶると、心と身体からだが切りはなされるらしい。


「ん……ぁふぅ(クチュ……ピチャ……)……んんぅ(レロレロ)…………も、もうっ! いつまでキスしてんの!? 終わりっ! おしまいっ!」


 夢中になってキスをしていると、先に我に返ったミーナに突き飛ばされた。

 お、俺は何と言うことをしてしまったんだ……。

 ファーストキスなのにいきなりディープなやつを……。


「いきなりキスしただけでなく舌まで入れて……もうっ! カイトのエッチ!」

「ごめん……歯止めが効かなかった」


 婚約成立したことで、俺の中のセーフラインがかなり甘くなってる気がする。

 結婚するし別にいいよね――って、心のどこかで思ってるのかも。


「みんな待たせてるし、話を戻すわよ。あんたの女として、助けに行くのは認めてあげる。ただし、行くならあたしも連れて行きなさい」


「いいのか? 前の遺跡いせきみたいに軍隊相手にするんだぞ? 命の危険は十分ある」

「カイト、あたしが冒険者だって忘れてない? 危険への覚悟は十分できてるわよ」


「でも……」

「それにさ、軍隊相手だろうが何だろうが、あんたが守ってくれるんでしょ? 初めて一緒に冒険したあの日みたいに」


 だから心配していないよ。

 ミーナはそう言って俺に微笑ほほえみかけた。

 この子と出会えて本当に良かったと思う。


「一緒に行こう。あんたのやりたいこと手伝わせてよ」

「ミーナ、お前って本当にいい女だよ。絶対いい奥さんになる」


「なによそれ? そんなの当たり前でしょ?」

「お前と夫婦になる日が楽しみだよ。子どもは3人じゃきかないから覚悟しとけ」


「……ッ! ば、バカッ! ………………帰ってきたらね」

「ああ、無事帰ってこよう」


 話はまとまった。

 さあ、みんなのところへ戻ろう。


 ……

 …………

 ………………


「話し合いにしてはずいぶんと長かったのう」

「や、ヤったんですか……?」

「ピ……(ゴクリ)」


「聞くまでもねえだろうよ。こりゃ完全にヤってる。40超えてオッサンになるとなあ、雰囲気だけでそういうのわかんだよ」


「ヤってないから!」

「そうよ! キスはしたけどセック〇なんて――」


 あ、バカ……。


「ほう? 何を話しているかと思えばそんなことを……」

「ち、違うの! あたしはするつもりはなかったんだけどカイトがいきなり……」


「お前いきなり唇を奪ったのか? 奥手おくてと思っていたがやるじゃねーか!」

「あああぁぁぁっ! うるせえええぇぇぇっ!」


 話が全然進まねえだろうがよぉ!

 何で人ってこんなに恋バナが好きなんだ!?

 生暖なまあたたかい目で放っといてくれよ! もう!


「話を戻す! 俺は樹族じゅぞくの救出に行く! 領主辞めたから責任問題もなし! 経済基盤きばんととのえたから財政の心配もなし! 引継ぎは十分可能! ってわけでこれから俺と一緒に行くメンバーをつのりたい!」


 俺とミーナはもう決まっている。

 今回の目標は救出と潜入せんにゅう、そして脱出だっしゅつだ。

 ゆえに、あまり大人数で動けないため、少数精鋭せいえいでの行動が求められる。


「ピートとロリマス、一緒に来てくれ」

「ほう、わしをさそうとはお目が高いのぅ♪ いいよ」


「いや、ダメだろ、マスター、あんた冒険者ギルドのトップなんだぞ? 仕事はどうすんだよ?」

「そんなもん、お主が代わりにやってくれるのじゃろ? シュトルテハイムよ」


「はぁ!? ふざけないでくれ! ただでさえ支部ができたてで面倒なのに、その上あんたの仕事を引き継げだなんて――」


「やってくれるなら生えぎわフサフサになる魔法をかけてやる」

「いいよ」

「よしっ! カイト、わしはオッケーじゃ!」


 よし、最高戦力ゲット!

 ロリマスの持つ空間跳躍テレポートは救出作戦に最も適した魔法だ。

 見つけ次第しだい迅速じんそくに救助からの撤退てったいがしたいので外せない。


「僕は……どうして選ばれたのでしょう?」

「お前さんの死霊魔術ネクロマンシーはめちゃめちゃ応用がく。攪乱かくらんするために必要なんだ」


 俺の無限袋の中の食材を動かして偵察ていさつしたり、野営地やえいちを魔物のフリして襲撃しゅうげきさせたりと使い道は多岐たきにわたる。

 本当に有能だよなあ、死霊術師ネクロマンサー


「わ、わかりました。やってみます」


 ピートも快諾かいだくしてくれた。

 これで必要最低限の手札はそろった。

 あとは変なアクシデントが起きて、作戦が失敗しないことをいのるだけだ。


「よし、それじゃ解散! あ、そうだ、クレア、ちょっといいか?」

「はい? 何でしょう?」

「大丈夫だとは思うんだけど、一応保険をかけさせてくれ。俺たちが国を出たら――」


 俺はクレアにやって欲しいことを伝えた。

 使わなければそれに越したことはない。


「わ、わかりました。頑張ります!」

「ああ、頼んだぜ」


 話し合いが終わり、その日は解散した。

 そして夜が明け――、俺は領主じゃなくなった。






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 《あとがき》

 カイトとミーナ、死亡フラグ立ってますねこれ。

 「俺、この戦争から戻ったら結婚するんだ……」的なヤツ。


 第4回次世代ファンタジーカップにエントリーしました!

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