第46話 樹族と秘伝のシロップ
「こっちよ、急いで」
馬から
俺はここまで来るために使っていた能力――
三国にまたがる国境線――その近くにある砦は小高い
見張り台から見下ろせば、国境線となっている川を
「何してるの、早く」
「ああ、ごめん」
イブセブンの砦を探していたら、先行するイメリアに怒られた。
ここに来た目的を思い出し、改めて彼女の後に続いた。
訓練所を
「ここよ、入って」
そう
中に入ると窓際のベッドの上――ではなく、日当たりのいい窓際に設置だれた、人間が丸ごと入れそうなくらいの巨大な
「あの、イメリア……これ、何やってんの?」
「見ればわかるでしょ?
すまないイメリア。
俺には
ぐったりとしている中学生くらいの子を首だけ残して
これが治療……そういえば中世の時代、地球でも似たような治療方法があったとどこかで聞いた覚えがある気がする。
体内に入った毒素を
もしやそれを狙っているのか?
「あ……そういえば貴方はこの大陸の人間じゃなかったわね。
「樹族?」
「その様子だと初めてのようね。樹族っていうのは、身体を木に変化することのできる、緑の髪と
「ほう、この子たちが……」
ツリーフォークもドライアドも、ファンタジー世界だとかなりメジャーな種族だ。
この世界では同一の種族の異性体として
「樹族は土の魔力との
「そういうことか。
この巨大な花壇は、この子たち専用の治療ベッドってわけだ。
一瞬、
「うーん……」
「あ、気が付いたみたい」
2人のうちの男の子――っぽい感じの子が目を覚ました。
「あの、ここは?」
「ここはマトファミア王国の国境線にある砦の中。私はこの砦を預かるマトファミア王国第13騎士団団長、イメリア=ルクサーク。こちらはここの領主を務めているカイト=ウマミザワ辺境伯です」
「じゃあ、オレたち無事マトファミア王国にたどり着けたんですね」
「ええ、何があったのか聞かせていただけるかしら?」
イメリアがそう促すと、少年(?)は
「オレ、キョウって言います。こっちは
「小枝?」
「あ、そっか。えーと、人間で言う弟や妹って意味です。オレたち樹族は大人になるまで性別がないから、自分より上の兄弟を大枝、下の兄弟を小枝っていうんです」
なるほど。
確かに性別がないなら、弟とか妹とかだとややこしいし、そのほうがわかりやすいか。
「それでキョウ、
「は、はいっ! あのっ、領主様!」
キョウは突然土の中から飛び起きると、花壇から出て土下座をした。
「お願いです! どうか、どうかオレたちの村を助けてください!」
……予想はしてたけどやっぱりそういうアレかぁ。
じゃなきゃイメリアがわざわざ朝っぱらから呼びに来ないし、そもそも砦の医務室なんかで寝ていないよなぁ。
「オレたち樹族はイブセブン32種族のうちでも、比較的人間に有効な種族なので、国境を挟んで人間とは交流がありました。種族差別の
「ローソニア帝国は首都に近ければ近いほど、人類史上主義が
「もちろんマトファミアの人たちとも……ここら辺の人たちとはあまり交流がなかったけど」
伯爵が
サンブリーの街はほぼ
「2ヶ月くらい前に、ローソニア側からオレたちの村に手紙が来たんです。帝国で新しいスイーツを開発しているから協力してくれって」
「ほう? スイーツとな?」
「……カイト、今は緊急事態よ。
わかってるよ!
でも気になるなあ。いち料理人として。
「オレたち樹族には一族
「キョウくん、その話もっと
イメリアに尻をつねられた。
「そのシロップを買いたい。高値で買うから定期購入させて欲しい。手紙にはそうありました。オレたちの村は小さいから、定期的な
キョウはぐっと
よほど
「定期購入……それが罠だったんです。オレたちのシロップはその
「それで最近、ローソニアの兵士が」
「国境侵犯の理由はわかったな」
樹族の村を攻めていたんだ。
村ってくらいだからそう人がいるわけでもない。
「他の村とか街に助けを求めなかったのか? わざわざ国境を
「しました……けど、ダメなんです。イブセブンでは誰もオレたちを助けてくれません」
「どうして? 同じ国の仲間なんじゃないのか?」
「カイト殿、イブセブン連邦は多種族による連合国家。種族間でのトラブルを
「……はい」
イメリアの
「国内には期待できない。だから国境を越えてウチに来たというわけか……」
「その通りです! お願いします! オレ、できることなら何でもするから! だからどうか! 村のみんなを助けてください!」
俺の心情的には助けてやりたいというのが正直なところだ。
不当な契約により騙されたのだから、クーリングオフはあって
「カイト殿、ちょっと……」
俺が考えていると、イメリアが耳打ちをしてきた。
彼女に
「この願い、かわいそうだけど受けるべきではないわ。国を守る騎士として許可できない」
「どうして? 契約とはいえ、彼らは騙されていたんだぜ? 助けてやりたいって思うのが普通じゃないのか?」
「一般人ならそれでいいでしょう。でもあなたはここの領主なのよ? あなたの行動一つで領民全てが危険にさらされるの。ましてやローソニアとは10年前のこともあって、未だに緊張状態が続いている。下手に
「………………」
厳しい口調でイメリアが語る。
俺は一般人じゃない、領主なのだと。
「心が痛むでしょうけど
「………………」
イメリアの言うことも最もだ。
だけど俺は助けたい。
人情的にも助けたいし、俺の欲望的にも助けたい。
料理人として秘伝のシロップがどうしても気になる・
「イメリア、忠告してくれるのは嬉しいけど、やっぱり俺助けるよ」
「カイト!」
「言いたいことは分かる。領主としての行動を取れっていうんだろ? 明らかに土地を
「わぷっ!? な、何を!?」
俺は着ていた上着を脱いでイメリアに投げつけた。
貴族っぽい上等な服が床に落ちるが気にしない。
「だったら領主なんて辞めてやるよ。悪いけどそういうことだから、王様にそう言っといてくれ」
悪いなイメリア。
俺は領主である前に一人の料理人なんだ。
ここまで発展したから惜しくないわけじゃないけど、貴族の身分に
この世界に来たばかりの頃はもともと
料理があるから何とかなる。
「キョウ、安心してくれ。俺が必ず何とかしてやる」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
「ああ……もう! 私知らないからね!」
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《あとがき》
さあ、物語が動きます。
ちなみに秘伝のシロップはあれです。
ヒントはキン肉マンビッグボディ、
第6回ドラゴンノベルス小説コンテストにエントリー中です!
読み終わった後、できれば評価をいただけたらと。
作者のやる気に繋がりますので。
応援よろしくお願いします!
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