第43話 遅れてきた者たち
アミカとの
建築ギルドが修復中の
物珍しそうに、街のシンボルとなったウォータースネークの絵を
「失礼、あなたがここの領主
その中から一人歩み出て俺に話しかけてきた。
装備の
見た感じ、俺と歳は同じくらい。
長い青髪をポニーテールにした美しい女性である。
「失礼、大変お待たせしました。私が領主のカイト=ウマミザワです」
「マトファミア王国第13騎士団長、イメリア=ルクサーク=マトファミアです」
「家名がマトファミア……ということはあなたは――」
「ええ、現王の妹です。王位
そう言って彼女――イメリアは深々と謝罪した。
王位継承権を捨てたとはいえ王族、謝罪の価値は推して知るべし。
「いえいえ、着ていただけただけで十分です。でも、どうしてこんなに遅れたのでしょうか?」
「……恥ずかしながら、王都の騎士団の中でゴタゴタが起きてしまいまして」
「え? それって内乱?」
「あ、いえ、そういうものではなく、その……どうしてもここに来たいという者が後を絶たず、選抜試験を行っていたので……」
「こんな
「料理です。あなたが
「はあ……」
「どうしても食べてみたいという者が後を絶たず、希望者全員で試験をしたのです。副団長以下、身分関係なく実力重視で」
「それは……時間がかかるでしょうね」
「ええ、わが国には数万の兵士&騎士がいますから。その中から五百名を選ぶのは本当に骨でした」
ということは、ここにいるのはその試験を勝ち抜いた
王様にはやって欲しいことは伝えているし、仕事ができない奴は一人もいないと期待していいだろう。
待っていたかいがあった。
待たされた分、十分にお釣りが来そうだ。
「恥ずかしながら私も……あなたの料理が食べてみたくて
「はは、じゃあ早速振る舞わせてもらいましょうか。ただし……」
「?」
「何が出てきても文句言わないでくださいね?」
「ええ、それは、はい……?」
よし、
王族相手のドッキリができるぞ!
俺は近くで待機していたアミカに声をかける。
「ロリマス、悪いんだけどちょっと手を貸して」
「む? 何じゃ?」
「今から騎士団全員分のメシ作るから手伝ってくれ。500人分」
「できるかーっ! わし料理は
「ああ、大丈夫大丈夫。素材取るの手伝って欲しいだけだから。ウォータースネークを30匹くらい
そもそもウォータースネークはうなぎと同じで、血液に毒があるからな。
骨も多いし、素人に調理なんて
今後のことを見越して、俺はウォータースネークの調理を免許制にした。
王様やここに来た冒険者たちのように、ウォータースネークの味を気に入って訪れる人は今後増えていくだろう。
そんな人に骨がたくさんありすぎて非常に食いにくいウォータースネークを出したり、そもそも毒入りの物を出したりなんてしたら
なので、それらを
現在、希望者を俺の開く青空料理教室で試験を行い、
免許なしで調理した場合、それなりに重い罰を与えると言っているので、勝手に調理している者はいないと思いたい。
「なんじゃ、そんなことか。わかった、行ってくる」
「頼む。終わったら作りたての
「やった♪ わしアレも大好きじゃ♪」
「さて、俺も街の住人に声をかけるか」
……
…………
………………
そして1時間後――冒険者ギルド横の
俺の課した試験を
全員
料理に対する情熱を人一倍持っている面構えをしている。
「お待たせじゃ」
全員
30匹のウォータースネークが
「お帰り。それはそうと、時々
「ああ、それは
この漁法は、日本っていうか地球上では禁止されてるやり方なので、絶対に真似しないでください。
「次そのやり方で
「「「「「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっっっ!」」」」」
「じゃロリマス、とりあえずアレ
「わかったのじゃ。ブリザード」
「オッケー、じゃあ
「凍らせたのにか? おぬしの料理はよくわからんのう? ファイヤーボール(
こうしないと、ウォータースネークが
弱いと言ってもウォータースネークは魔物だ。
まだ生きている個体を調理するなら、絶対に凍らせて冬眠状態にさせてからのほうがいい。
「みんな、
「「「「「おぉ!」」」」」
「釘!? 釘なんて何に使うの!?」
「ハンマーも持ったな!? 行くぞぉ!」
「ハンマー!? ハンマーで何するの!? ねえ何するの!?」
それはなあ、こうするんだよ!
――ガンガンガンガン!
「ギャアアアァァァァッ! 頭に釘とかグロいのじゃああぁぁぁっ!」
「おいおい、あんたS級冒険者なんだから、こんな光景グロのうちに入らないだろ?」
「ま、まあそうなんじゃが、冒険で見るグロ画像と、日常で見るグロ画像は受け取るインパクトが違うと言うか……」
ふーん、そんなもんかな?
俺もここにいる人たちも、もう完全に慣れちゃっているから、その辺の感覚は完全にマヒしているのでよくわからない。
「固定したら三枚に下ろすぞ! 相手は騎士団、つまりお客さんだ! お客さんに骨たっぷりの身なんて
俺の
さすがガンドノフ親方特製の包丁だ。切れ味
骨に
追加で購入して本当に良かった。
「内臓は
小さな定食屋や家庭なら個人プレイもいいだろう。
だが、俺の
多人数での料理はチームプレイだ。一人一人が連携を意識し、きちんと己の仕事をこなすことで、味も効率も何倍にも
「作業が終わった奴は遅れている奴を手伝ってくれ! 特にライス! 500人分だから量が
「まるで戦場じゃな……命のやり取りをする戦場そのものじゃ」
その例えは実に的を得ている。
俺たち料理人の戦場は厨房なのだから。
「ほい、手伝いありがとう。好きなだけ食っていいぞ」
「わーい♪ できたての骨煎餅じゃ~♥ んぅ~♥ このコリコリサクサクがたまらんのぅ♪」
「もうじき終わるし、もうちょい手伝ってく? これを城壁まで運んでほしいんだけど」
「お安い
「騎士団500人の盛大なリアクションが見れる特等席」
「ほほう……それは、lなんとも面白そうな報酬じゃなっ♪」
……
…………
………………
そして完成した料理をサーブする。
俺の料理を求めて選抜試験まで行ってきた者たちだ。
「これだ! これを俺は食ってみたかったんだ!」
「匂いだけで幸せになれそう~♥
「王様をも
みんながみんな、大喜びで飯を食う。
そして口にした瞬間、例外なく色んな意味で吹っ飛ぶ。
ある者は転がり、
またある者は泣き出し、
またある者は食い続け、
またある者は気絶する。
「美味しっ、これ、果てしなく美味しいですっ! 王城で出される料理なんかとは比べ物にならないくらい美味しっ♪ 他の騎士団長全員ぶちのめして無理矢理転属勝ち取れて本当によかったぁ~♪」
試験したのは副団長以下じゃなかったのかよ?
この様子だと、団長以上も独自に試験をしていたっぽいな。
全員ぶちのめしてここに来たって言ってたし、この子、王族なのにワイルドすぎる。
「食後のデザートに骨煎餅もどうぞ。カルシウムと魔力たっぷりで美味しいですよ」
「本当だぁ♪ これも美味しい~♥ これが毎日食べられるとか幸せ~♥」
さて、幸せ気分に
ロリマスも手伝ってくれた他の人たちも、そしてもちろん俺も、みんな意地の悪い
「さて、そろそろ
――おう、いいぞー!
――どんな面白いこと言ってくれんの?
――私は笑いに厳しいわよ。そう簡単には笑いませんから!
おやおや、勘違いしているな?
笑うのはきみたちじゃなくて俺たちだよ。
「あなたたちが美味い美味いと言って食べたたそれ……原材料ウォータースネークです」
――ブフウウウウウウゥゥゥゥッ!?
はははははははは!
汚ねえ
天国と地獄が共存する不思議空間。
これを俺たちは見たかった。
わはははははははは!
--------------------------------------------------------------------------------
《あとがき》
ドッキリ仕掛けるのって楽しいですよね。
もちろん、笑える範囲でですが。
《旧Twitter》
https://twitter.com/USouhei
第6回ドラゴンノベルス小説コンテストにエントリー中です!
読み終わった後、できれば評価をいただけたらと。
作者のやる気に繋がりますので。
応援よろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます