第42話 黄金のアレと偽ロリの秘密

「ようやくそれなりに街らしくなってきたな」


 王都へおもむいてから約10日後――王様に相談そうだんしたかいもあって建築ギルドの人たちが到着とうちゃくした。

 あまりの荒廃こうはいっぷりに彼らはドン引きした後、ならばと即座そくざに作業にとりかかった。


 おかげで1週間もしないうちに、街の8割方の建物の修復しゅうふくを完了。

 残り2割も順調じゅんちょうで、 3週間目に突入しないうちに仕事は終わるだろう。


 この辺の仕事の速さはさすがファンタジー世界といったところだ。

 魔法の存在しない地球では考えられない。


 俺の家に間借まがりしていた冒険者ギルドサンブリー支部も引っ越しが完了し、ようやくギルドらしくなってきた気がする。


 俺が集めた冒険者たちもそれぞれの仕事をしっかりとこなしてくれており、ダンジョンの情報および、食えそうな魔物の肉が着々ちゃくちゃくと俺の元に集まっている。


 死霊術師ネクロマンサーのピートも自分の仕事をこなすかたわら、他の冒険者達とダンジョンにもぐっているらしい。


 ダンジョン童貞卒業だな。

 これで童貞は俺だけになってしまったわけか……ちょっとさみしい。

 俺も近いうちにひまを見つけて、ダンジョン童貞を卒業するしかない。


 ……

 …………

 ………………


 解体場、夕方――


「……よし、やってくれピート」

たのんだわよピート。あんたしか作れそうな人がいないんだから頑張がんばって! もし作れたら月給金貨2枚じゃなくて、金貨5枚にしてあげるわ! カイトが!」


「俺がかよ! でも、確かにできたらそれくらい払うから気合い入れて!」

「できるかどうかわからないけど、やるだけやってみせますよ。では、行きます!」


 気合いを入れたピートが目の前のタルに向けてつえかまえる。


死屍命名リビング・デス!」


 ピートの放った死霊魔術――死体に仮初かりそめの命を与え、ゾンビをつくり出す魔法がタルをおおう。

 魔法がかけられたタルは小刻こきざみにれ、中からシュワアアァァァという音を発した。


「……成功か?」

「わかりません。開けて調べないことには」

「とりあえず開けてみようよ」


 ミーナがタルのふたに手をかけた。

 シュポン――という小気味こぎみい音とともに蓋ははずれ、中から出てきたのはピートの創り出したゾンビ――なわけがない。


 中身がゾンビだったら、俺とミーナはこうしてこんなところでワクワクしながら見守ったりなんてしない。

 タルの中身は……。


 ――ゴッゴッゴッゴッ……!

 ――プハアアアァァァァッ!


完璧かんぺきだあああぁぁぁぁぁっ! 完璧に黄金のアレだァァァッ! のどしがスッキリで素晴すばらしいし、麦の味もメチャクチャ濃いし、何より魔力回復効果がものすげえ! 期待していたものよりはるかに美味いぞおおおぉぉっ! やったああああぁぁぁっ!」


「マジで!? あたしにも飲ませて! 早く! (ゴッゴッゴッ……!)はああぁぁぁぁぁ……っ! ナニコレ!? 今まで飲んだどのお酒よりも美味しいし気持ちいいんだけど! 冷やしてお風呂上りに飲みたすぎるんだけど!」


「ほ、本当ですか? じゃあ僕も一杯……(ゴッゴッゴッ……!)美ン味あああぁぁっ!? ホントにお酒だ! しかも今まで飲んできたどんなお酒より美味い! 僕の死霊魔術でこんなことができるなんて……」


 俺たちのリアクションを見れば想像がつくだろう。

 俺たちが作っていたのはゾンビではなく黄金のアレビール


 ミーナがダンジョン内で発見したマンイーター(大麦)を刈り取って持ち帰り、水と一緒にタルにけ込んだ後にピートに魔法をかけてもらった。


 ミイラを作る吸命ドレインの魔法でスルメを創り出せるのならば、ゾンビを創る死屍命名リビング・デスで酒を造れるのでは?――と思ったことがきっかけだ。


 ゾンビはくさった死体……つまり、作るためには魔法で腐らせる必要がある。

 腐る……発酵はっこう……魔力……いけるのでは?


 で、やってもらった結果いけた。

 旨味と魔力が凝縮ぎょうしゅくされた魔物産の大麦から作ったビール。

 これが不味いわけがない。


 のど越しといい苦みといい、地球産のどのビールよりも美味いと断言できる!

 超上等な最高級ビールだ!


「やっべええぇぇぇっ! 美っ味! ぬるいままでも無限に行けるぞこれ!」

「そうだ! ねえカイト、これ魔法で冷やしてよ。ロリマスから食らった魔法を利用して氷魔法くらいできるでしょ?」


「ミーナくん、きみ天才。早速さっそく行くぜ! ブリザード(超弱め)!」

「ああぁ“ぁ”ーっ♥♥♥ やっぱり冷やすとさらに美味しいぃ“ぃ”-っ♥♥♥」


「僕の作ったスルメにも最高に合う! これすごい! いけますよ! これ飲むためならいくらでも僕働きますよ! 何ならお金はいいんでこれください!」


「バカヤロウ! いい仕事には正当な報酬ほうしゅうがあってしかるべきなんだよ! ってわけでお前さんの給料は来月から金貨10枚だ! 美味えええぇぇぇっ!」


「っしゃああぁぁぁっ! ありがとうございます! カイトさん最高ですよ! 美味あああぁぁぁい! お酒が美味しいいいいぃぃぃっ!」


「カイトー? おるかー?」


 ――ドタドタドタドタッ!

 ――キュポンッ!

 ――ヒュオッ!(収納した音)


「おお、なんじゃ。ここにおったのか」

「よ、ようロリマス。お忙しいはずのロリババア様がわたくしなんぞに何か御用ごようでしょうか?」


「王都でようやく派遣はけんする部隊が決まったから、通勤つうきんついでに連れてきたのじゃが……ん? 何かいいにおいがするのう。それだけじゃなく芳醇ほうじゅんな魔力の残滓ざんしも」


「し、知らねーよ! 別に俺たちは何もしちゃいねーよ! なあ、2人とも?」

「そ、そうよ! あたしたちは素材の解体でたまたま一緒になっただけだし! ねえ?」

「そ、そうです! 僕もミーナさんと一緒に素材の解体に来ただけで別に何も……」


 この偽ロリにだけはバレてはいけない。

 量産体制りょうさんたいせいととのっていない今、こいつにバレたら一気に広まる。

 結果――俺たちの飲む分がなくなる。


「本当か? あやしいのう? おぬしら、わしにかくれていいことしてない?」

「してねーっつってんだろ! 何か証拠しょうこでもあんのかロリババア!? あぁ“?」


「お主、今日はいつもの10倍くらい口が悪いのう。やっぱり何か隠して……」

「してませんよアミカお嬢様。さあ、わざわざ王都から空間跳躍テレポートしたばかりでお疲れでしょう。お嬢様の大好きなお茶とクッキーを用意しますので大人しくそこでお待ちください」


「わーい♪ クッキーじゃクッキーじゃー♪ わしこのクッキー大好きー♪」


 ふう、どうにか誤魔化ごまかせたようだな。

 2人には他言無用トップシークレットとしっかり言い聞かせて帰らせる。


「で、ロリマス。派遣される部隊が何だって?」

「おお、そうじゃそうじゃ。王都でようやくここに派遣される部隊が決まったんで、わしが連れてきてやったのじゃよ(モグモグ)」


「へえ、そうか。それはお疲れさん。大人数を転送するのは疲れただろうしうなぎパイも食べる?」

「食べるぅ♥ わしこれもだーい好き♥(モグモグ)」


「ああ、ほら。そんな急いで食べなくても誰もらないって。口のはしに食べカスついてるぞ。取ってやる……ほら」

「ありがとうなのじゃ。わし、ここの食べ物も好きじゃけどカイトのことも好きじゃあ♥ もしわしが本来の姿ならば抱かれているところなんじゃが」


「はいはい、お気持ちだけ受け取っておきますよ」

「このままの姿でもいいなら……抱く?」

「抱かねーよ!」


 合法だけど絵面えづらがやばいわ!


「そうかぁ……残念じゃのう。カイトの子なら孕んでも一向に構わんのじゃが。子どもが産めなくなる前に作りたいと思うておるが、このぶんじゃと夢で終わってしまいそうじゃのう……はあ」

「どういう意味だ? あんた実年齢はともかく肉体は若いんだろ? 普通にまだまだ現役なんじゃ?」


「逆じゃよ。現役以前になってしまうのじゃ」

「ごめん、言ってることがわからない。説明よろしく」

「やれやれ、仕方ないのう」


 アミカはちょっと面倒くさそうな表情を作り、事情を語りだした。


「わしが以前、本来の姿はチチもケツもバーンとしてる美の化身けしんと言ったことは覚えておるか?」

「ああ、もちろん。デカい団体運営しているくせに見えいた嘘をつく精神小物なロリババアだなって思ったから」


「相変わらず失礼な物言いじゃのう。じゃが事実じゃ。ほれ、これを見てみい」


 そう言うと、アミカは自身の袋から額縁がくぶちに入った絵を取り出して俺に見せた。


「これを見てお主どう思う?」

「ものすごい美人だなって思う。胸デカいし腰くびれてるし、そこから伸びるヒップラインと太ももが最高にエロス」


「それ、100年くらい前のわしの姿」

「嘘つけええええぇぇぇぇっ!」


「いや本当じゃってマジで。冒険者ギルド発足ほっそく前、3国をまたいで冒険してた頃のわしそんな感じだったんじゃって」

「えぇ~? この美人が~?」


 面影おもかげはしっかりあるけど、本人を見ているとめちゃくちゃ嘘臭く思う。

 せめて絵じゃなくて写真だったらなあ。

 ファンタジー世界にそんなもんあるわけないけど。


「実年齢60になるかそこらの頃じゃったか。ダンジョン攻略中に呪いを受けてしまってのう。そのせいで歳をとる代わりに若返ってしまうようになってしまったのじゃ」

「若返りの呪いだって?」


 この世界、そんなもんがあるのか。

 さすがファンタジー世界だ。

 俺の想像の遥か上を行くなあ。


「初めは老いた肉体が若返ってうれしく思っておった。しかし30年、40年と経過けいかし、美女から美少女、美少女から美幼女になってくるにつれ、恐怖を覚えるようになった」

「どうして?」


「お主バカじゃのう……肉体がどんどん若返るんじゃぞ? 最後は子どもから赤子になり、胎児たいじになって消えてしまう。いわば自分が死ぬ時期が丸わかりなのじゃぞ? 恐ろしいとは思わんのか?」


「…………ッ! それ、めっちゃ怖いな」

「じゃろう?」


 言われて初めてその恐ろしさに気づく。

 年を取るごとに若返る――その結果行きつく先は自身の死期だ。

 鏡を見るたびに「あと何日で死ぬ」と宣告せんこくされているようで、想像するだけで恐ろしい。


「今の姿はおそらく13か14歳くらいのものじゃから、あと5年くらいは意識もたもてるじゃろうけど、それ以降いこうはわからん。精神も子どもに戻ってしまい、今のわしじゃなくなってしまうかもしれん」

「………………」


「わしは金はあっても身寄りはない。だから、まだ子どもを作れるうちに作っておいて、その責任をわしの後始末ごと押し付けようかと」

「責任を投げっぱなしジャーマンするな!」


 とんでもねえこと考えるロリババアだな!

 子どもを一緒に育てようという考えがない。


「作る以上は一緒に育てろよ。それが大人の責任ってもんだろう」

「それができればいいんじゃけどなあ。色々なダンジョンに今までもぐったが、この呪いを解呪できそうなものは何一つなかった」


 見つかったのは強力な魔法と武器防具だけ。

 ため息をつきながらアミカは続ける。


「だからもうほぼあきらめておる。さみしい老人の最後の願いと思って、わしをはらませてくれん?」

「お断りだよロリババア。そんな理由で子ども作ってたまるか」


「わし処女じゃよ? 100年以上純潔を守り通しておるよ?」

「そういう問題じゃねえっつーの! アホなこと言ってないでこれでも食え、全く」

「わーい♪ う巻きじゃ~♥ ふわふわトロトロでめちゃくちゃ美味ぁ~い♪」


 ビール造りに成功した時のために用意しておいた料理を渡す。

 呪いのことなど最初からなかったかのように振る舞うアミカが、なんだかちょっと無理しているように見えた。


「なあ偽ロリよ。あんたのその呪いだけど、まだ数年時間あるんだろ? だったらさ、まだ諦めるのは早いんじゃねえの?」

「うーん、そう思いたいんじゃがのう。もう30年以上探して見つからないし」


「たかが30年じゃねえか。もしかしたら次くらいでポロっと出てくる可能性だって無きにしもあらずだぞ」

「そうなってくれたらわしも嬉しいのじゃが……」


「そうなるって信じろよ。転送役を頼んでいる以上、あんたがいなくなったらすげえ困るし、俺も一緒に探してやるから」

「カイト……いいのか?」


「ああ。ただし、俺の用事のついでだけどな」


 この世界も悪くないけど、やっぱり帰れるもんなら帰りたい。

 世話になっているし、そのついでに解呪方法を探すくらいならいくらでも手伝ってやる。


「お主、口は悪いがやっぱ優しいのう。その優しさにめんじていつでもわしをおそうことを許可しよう。ムラッときたらいつでも押し倒して事におよんでもよいぞ!」

「しねえよ! っていうか、ギリ中学生くらいの肉体にそんな感情いだけるか!」


「まあまあ、そう遠慮えんりょせずともよいではないか♪」

「してねーよ! はなれろロリババア!」


 ふざけて抱きついてきたアミカを必死に引きがす。

 この偽ロリ、どこにそんな力があるんだってくらい力強いな!


「そ、そうだ! 妙にしんみりした話題ですっかり忘れてたけど、お前さんが連れてきた騎士団の人ってどこだ?」

「街の入り口で待たしておるよ?」

「街にすら入れていないのかよ! 遊んでないで早く案内しろよロリババア!」


全くふざけた偽ロリだ。

でも、そんな風にふざけていられるうちはまだ大丈夫だ。


暇を見て俺もできる限り探してみようか、解呪方法。

もちろん、俺の帰還きかん方法のついでだけどな。




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 《あとがき》

 意外に重たいロリマスの設定。

 彼女の呪いが解かれる日はくるのでしょうか?


 《旧Twitter》

 https://twitter.com/USouhei


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