第31話 はじめの0歩
「わ、私アニーって言います。あ、新しいご
アニーと名乗った少女は落ち着くなり、
常にビクビクと震えており、決して目線を合わせようとしない。
「もう3日も何も食べてなくて……なので与えられたノルマも満たせなくて……だから食料ももらえなくて…………あ、ごめんなさいごめんなさい! ノルマができない言い訳をしてしまい申し訳ありません! ノルマが多すぎるとかそういうわけじゃないんです! 全部私自身のせいです! ごめんなさい!」
普通に話そうとしてもすぐにこの
はっきり言って
会話もまともにできないこの
「はぁ……アニーだっけ? 今3日何も食べていないって言ったな? 本当か?」
「は、はい……私が無能なせいで食糧がもらえなくて……」
「今はこんなもんしかないけど、とりあえずこれ食っとけよ」
俺は無限袋の中から、口さみしくなった時用に作っておいた、ジャイアントレッグの
今の季節はジャイアントレッグは
イナゴは見た目に反して栄養
戦時中、米や
「い、いいのですか? 私、ノルマが……」
「食わなきゃ動けないだろう。いいから食えって」
「は、はい……いただきます…………………………っ!? な、何ですかこれ!? 今まで食べたことがないくらいとんでもなく美味しい……?」
「それが何なのか教える前に、俺に分かる
「わ、わかりました……」
空腹が少し解消され落ち着いたのか、アニーはポツリポツリとここの現状を話してくれた――が、その現状は俺が想像していたよりも、はるかに酷いものだった。
・街の税金は9公1民。
・魔物などのトラブルは基本住民たちで解決。公営施設に発生した時のみ騎士が担当する。
・食料は
・住民たちの仕事は全て領主が管理。住民に選択権はない。
・仕事に休日はなし。休みたければ休んでも
・道の通行はいかなる時も貴族優先。貴族が通る時は、住民は道の両端に
などなど。
例えるなら幕末の
いや、それに輪をかけて酷い。
許せねえ……これから俺の料理を食ってもらう、いわばお客様だぞ。
俺の料理にドハマりして幸せに楽しく過ごしてもらおうっていうその大事なお客様にこの仕打ち、絶対にタダじゃおかねえ。
「なるほど、話はよくわかった。で、聞きたいんだけど、住民たちの仕事を
「えっと……領主様のお屋敷に勤めています。監督官はぶどう畑とワイン加工場のほうに……」
「ありがとう。アニー、お前さん家族は?」
「弟と妹が。両親はもう……」
「そうか。とりあえずこれ持ってって今日は
「え? こ、こんなに!? も、もしかして私、今夜お呼ばれするのでしょうか?」
「お呼ばれ?」
「いわゆる
「いいですね。ちょうどギルド支給品に新型爆弾がありますので、それの試し打ちもしておきましょうか」
「ギルマス、あんたんとこの職員が
「お前こそ嫁が
「ま、まだ嫁じゃねーし!」
っていうか、まだ付き合ってすらいねえよ!
でも何となくだけどお互いいい感じというか、そう思われても悪い気はしないって言うか、そんな気にはなってきてはいる感じではあるけど。
まあ、それはそれとして。
「別に食料をあげたからと言って、そう言ったことをしてもらうつもりはない」
「そ、そうですか……良かったぁ。弟と妹がまだ小さいので、帰れなくなるわけにはいかなかったもので……」
帰れなくなる――か。
ここまで住民のことを考えない酷い統治をする領主に、何も言わないその部下たちだ。
彼女の言ったことは、その言葉の意味通りなのだろう。
とても言葉にできないような、酷い仕打ちをしたに違いない。
「その代わりと言ってはなんだけど、後日ちょっとしたイベントを
「は、はい。わかりました」
「よし、じゃあアニー、俺たちはそろそろ行かなきゃいけないからこれで失礼するよ。弟と妹によろしくな」
別れを伝えると、アニーは何度もお礼を言いながら去って行った。
最初から今の今まで、その間ずっと、他の住人たちは土下座体制のままである。
会話は聞こえているはずなのに、誰も態度を
「さて、みんな」
俺は3人に念押しする。
「俺、これから酷いことをしようと思うんだけどさ、協力してくれない?」
……
…………
………………
その日の夕方、領主の屋敷にて。
「ようこそおいで下さいました新領主
俺が
おべんちゃらばかりで舌が良く回りそうなイエスマン。
「何でも閣下は、
いやあ、長年私どもは
「いやいや、そんなことは。単に運が良かっただけさ。それより、俺はきみたちのほうがすごいと思う。領主の電撃退任後から新領主が来るまで混乱もなく、よく領地を治めてくれている。ぜひお礼を言いたい。ありがとう」
「いえいえ、そんな……私どもは上に立つ者としての義務を果たしているだけでございます」
「それでもだ。皆もありがとう! 今日これまでこの領地が平和なのは、皆が働いてくれているおかげだ!」
――ワアアアアァァァァッ!
俺の言葉に
新領主が
「ところで質問なんだけど、前領主から仕事を命じられていた者たちはこれで全員かな?」
「ええ、皆新領主様の就任を祝おうと、この場に駆けつけております」
そっか。
じゃあ、そろそろ
「よし、じゃあ全員そろっているのなら、今日は俺が腕を振るわせてもらおうかな」
「おお、なんと! 噂に名高い新領主様の料理を味わえるのですかな?」
「そのつもりだ。知っていたとは意外だな」
「少しだけでございます。何でも、この世の物とは思えないほど美味な料理だとか」
「ふふ、そんな風に言われているのか。では、期待に応えるとしよう」
文字通り、「この世の物ではない」料理を味わわせてやるよ。
「それじゃあ
――パタン。
「さて、準備はいいな?」
コクリ――と3つの影が
ミーナ、ギルマス、マールさんである。
「言われた通り屋敷中調べてきたよ。地下牢への階段は西側廊下の突き当り」
「管理者
「仕事内容の報告書なんかも確認したが……こりゃひでえ。人間のやることじゃねえよ」
そうか、人間のやることじゃないか。
じゃあ俺も心置きなく
さあ、
「それじゃあ
俺はその場を離れて厨房へ向かった。
無限袋から食材と調理器具を取り出す。
取り出した調理器具はいつものアイアンスコーピオンの
食材はスライム加工済みの生野菜にとある魔物――ウォッチャー。
「メニューは
会場にいたのは10人。
では、料理開始する。
「ウォッチャーの首を落とし、切り口から一気に皮を剥ぐ。血液はリンゴジュース……はないからぶどうジュースで割ってサーブするために保存。3枚に
次はスープだ。
「残った肉を適度な大きさに刻んで、野菜と一緒にスープにIN! コンソメレベルで旨味が染み出すようにじっくりコトコト煮詰めながら、塩コショウで味を
アクを
以前ウォッチャーを料理した時には使わなかった部位を。
「最後に切り落とした首から上を目玉ごと入れる」
すると、熱でウォッチャーの目玉が溶け始めた。
ブリ大根や三平汁を作る時には見られない、
「錬金術師ギルド曰く、ウォッチャーの目は
溶かして乾燥させたものを、魔物を混乱させる『
この粉は依存性が高いため、魔物以外への使用を禁止している。
だが、俺は使う。
だってあいつら、人間とは思えないことをしていたのだから。
人じゃないことをできるのは、そいつが人じゃないからだ。
以上、
「俺の料理が持つ強烈な美味さに、幻惑の粉の依存性が加わり、さらにそこにウォッチャーの精力剤と
麻薬のような中毒症状の中、快楽&興奮&催淫効果が続き、さらに効果が抜けたところで強烈な依存性が
想像するだけで恐ろしい。
この料理を食ったら最後、脳みそが天国に行ったままになり、戻ってきたら地獄を永遠に味わい続けることになる。
同じ料理を食えればまた天国に行くことができるが、俺は二度とこの料理を作るつもりはない。
「永遠に地獄をさまよい続けろ」
二度と俺の
永遠の退店を領民一同、心より願っております。
……
…………
………………
「あば、あばばばばばばばば…………」
「スープを……あのスープを飲ませてくれぇ!」
「うふふ……うぐっ! うぇぇ~ん! あひゃひゃひゃひゃひゃ!」
就任から一週間後――、
やってきた地方巡回中の騎士たちに、俺の料理を食った元支配者階級どもを引き渡した。
もちろん、今までの悪事の証拠付きでだ。
あわれ奴らは全員逮捕。
しかも、強烈な俺の料理依存症のおまけつきでである。
ウォッチャーの精力剤&催淫剤としての効果も合わさって、中には精神がぶっ壊れてしまった者もちらほら。
騎士たちにはこれから
「エッグいことするわねぇ……」
「それ以上のことやってるしあのくらいはいいだろ。俺の
「私たちには作らないでくださいよ? カイトさん」
「作りませんて。ちゃんとしたお客様なんだから」
「まあ、何はともあれ、ようやくスタートラインに立ったな」
「ええ、もう少ししたらクレアたちも来るでしょうし、そしたらいよいよ始めましょうか」
俺の
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《あとがき》
旧勢力の残りを一掃。
いよいよ次回から新装開店の準備に入ります。
《旧Twitter》
https://twitter.com/USouhei
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