第19話 常連客の行方

「ギルマス、ミーナのことでお話が」

「……あいつらから聞いたか。わかった。できる限りのことは教えてやる」


 3人から話を聞き、俺は店をクレアにまかせて冒険者ギルドへと向かった。

 スライムゼリーしか出せなくなるけど、ほかの料理はまだ浸透しんとうしてないし、値段ねだん的にもそうそう注文が入らないので問題ない。


 それよりも今はミーナのことだ。

 彼女は俺の店の常連の一人であり、この世界で二番目に付き合いが古い冒険者の仲間でもある。

 行方不明ゆくえふめいとなればだまっちゃおけない。


「あいつが行方不明って一体どういうことですか?」


 ミーナはDランクながらも腕のいい斥候スカウトで、他の冒険者仲間からの評価も高い。

 決して無茶むちゃはしない、ダメそうなら逃げる、行けそうな行くを徹底てっていする、石橋を叩いて渡る性格をしていたため、このようなことになっているのはおどろきをきんじえない。


 そして、友人として何よりも心配だ。

 変な事に巻き込まれていなければいいけど。


「お前さんたちが、フレンたちと5人でヴォルナットに向かった日のことだ。あいつは自分も連れて行ってもらえなかったことが不満だったようで、すぐにお前たちを追いかけたよ。道中どうちゅう合流するつもりだったんだろうな」

「俺達を追いかけたって……もう人数まっているのに」

「食いたかったんだろうさ、お前の新作を。一緒に行動していればタダで食えるからな」

「食い意地りすぎだろ……あいつ。でも、すぐに後を追ったなら追いついてもおかしくないんじゃ? 馬車で三時間くらいの距離きょりだし」

「装備を新調しんちょうして金がないとか言ってたから歩きで向かったんだろう。歩きだと倍以上の時間がかかる」

「だとしても、俺たちが出発した時間って午前中ですよ? 歩きでも夕方ぐらいにはヴォルナットについていいはずなのに」


 ミーナの性格上、もしも追い付いていたのならば、俺たちに声をかけないはずがない。

 わざわざ追いかけていたならばなおさらだ。

 それをしていないということは、道中で何かあったに違いない。


「サンクトクルスからヴォルナットまではほぼ一本道だった。地理的にまようはずがない」

「そうだな。それに、あの辺りはあいつの故郷ふるさとだし余計よけいにな」

「故郷って言うと……戦争で消えたって言う?」

「ああ、そうだ」


 ギルマスがこの辺りの地図を広げる。


「サンクトクルスがここで、ヴォルナットがここだ。その2つを結ぶルートがこれだ。ミーナの故郷は大陸中央部に続くルート沿いにあって、イブセブン連邦、ローソニア帝国との国境線こっきょうせんにも比較的近かった」


 ヴォルナットから少しはなれた、黎明れいめいの大地中央部へ向かう道沿いの部分をす。

 ミーナはここで生まれ育ったのか。


「今はもう廃墟はいきょしか残ってねえが、かつては三国間を行き来する行商の街としてさかえていたんだぜ」

「廃墟だけ……って、誰か管理してないんですか?」

「いるわけねーだろ。修繕費しゅうぜんひなんてクソほどかかるし、こわすにしても金がかかる」


 結構デカい街だったって言っただろ――とギルマス。


「今は別の場所に交易路っこうえきろが作られ、この道を通る奴はほとんどいなくなった。廃墟がそのまま残っているから、犯罪者が住みついているってうわさだしな」

「犯罪者が? ……だとするとミーナは?」

「いや、その可能性は低いだろう。あいつの故郷は近いが、ヴォルナットとは反対の方向だ。それにあいつは斥候だぜ? パーティに危険を知らせるのが仕事のやつが、自ら危険に飛び込むと思うか?」


 思わない。

 初めて一緒にクエストに行った時、あいつはオークベアを見て真っ先に逃げを選ぶような奴だった。

 そしてその後、俺が行けそうと見るやいなや、状況じょうきょう見極みきわめて逃げなかった。


 常識にとらわれない的確てきかくな状況判断能力を持つミーナが、いくら自分の故郷とはいえ、そんな場所に飛び込むとは思えない。

 だとすると、原因は他にあると考えたほうが良い。


「カイト、こいつを見てくれ」

「それってクエストボードですよね? これが何か?」


 次にギルマスが見せたのは、冒険者がいつも目にするクエストボードだった。

 一階入り口の横にあり、さまざまなクエストが張り出されている。

 冒険者たちはこの中から自分に合ったクエストを選び、マールさん達が待つ受付に持って行き、仕事として受理じゅりするのだ。


「この中からサンクトクルス――ヴォルナット間で発生しているものをピックアップすると――」


 ・ジャイアントレッグの駆除くじょ(大量発生につき3名から)

 ・ウォッチャーの討伐とうばつ、(2名から)

 ・畑が一夜にして無くなってしまった。原因を探してほしい。(受注条件なし。解決者のみ報酬アリ)


「あ、このクエストって……」

「そうだ、お前に紹介しようとしたクエスト、そのうち3つが該当がいとうするんだ」

「でも、それが何か?」


 正直言ってこれを見てどう思えばいいのか分からない。

 単に魔物の討伐と、不思議なことの解明かいめいをしてくれという依頼いらいにしか俺には見えない。


「はぁ、これを見てピンとこないようなら、まだAランクはやれねえな」


 まあ、俺もさっき見てようやく気付いたんだけどよ。

 ギルマスが恥ずかしそうに頭をかいた。


「別に今のところ欲しくないのでかまわないんですけどね」

「そう言うなって。まずこの討伐依頼だ」


 ギルマスがウォッチャー討伐依頼を指す。

 ウォッチャーとはその名前から想像できるように、巨大な目玉の化け物だ。

 50センチくらいの大きな目玉を持つ一つ目のへびで、目からビームを出して攻撃してくる。

 それに加え、幻惑げんわく魔法も得意としているため、こいつと戦うさいは決して正面から目玉を見るなと言われている。


「ウォッチャーって魔物はな、自然界に生息せいそくしていないダンジョン限定の魔物なんだ。外に出ているのはおかしいんだよ」

「でも、この近くにはダンジョンがありますよね?」


 現場はミーナの故郷の近くだ。

 ならば、絶対にダンジョンが近くにある。


「以前ミーナに聞いたんですよ。ダンジョンが原因で故郷はほろびたって。さっきギルマスが言った戦争の原因はダンジョンの所有権しょゆうけん争いですよね? だったら別におかしくはないんじゃ? ダンジョンの魔物の中には外に出るやつもいるって話を聞きますし」

「確かにそういう奴もいる。だが、ここのダンジョンは警備けいびきびしくて有名なんだ。当然だよな、戦争の火種ひだねになったわけだし。管理をおこたれば、それを理由にいつまたローソニアが難癖なんくせつけてくるかわからん」


 だからこそ、管理不行ふゆとどきにはできない。

 スライム一匹すら出さないほど厳重げんじゅうに管理しているとのこと。


「次にもう一つの討伐だ。ジャイアントレッグだが――」

「デカいイナゴの魔物ですよね?」

「そうだ。強さは大したことないが、繁殖力はんしょくりょくが強く、時期になると農作物のうさくもつを食いらす困った魔物だ」

「それが? 繁殖力が強いならわりとどこにでもいるのでは?」

「まあそうなんだが、まだ時期じゃねえんだよ。例外がないわけじゃねえが、さすがに半年も早いのはちと気になる」

「……なるほど。じゃあ、あと一つは?」

「文字通りクエストそのものが謎だ。原因不明の現象、不自然なクエスト、それが三つも集中している。何か関係あると思わねえか?」


 もちろんただの偶然ぐうぜんの可能性もあるが――と、前置まえおきをした上でギルマスが続ける。


「ミーナはこれら一連いちれんめぐる、何らかの陰謀いんぼうに巻き込まれたんじゃねえかと俺はにらんでいる。でなきゃ、さといあいつが行方不明なんてなるはずがねえ」

「………………」

「カイト、あいつはあれでも優秀な斥候だ。今はまだ未熟だが、将来もっと上を目指せる才能ある冒険者だ。こんな未熟なうちに消えていいはずがねえ」

「……ええ、俺もそう思います」


 ミーナとの思い出が、俺の脳裏のうりよみがえる。

 初めて出会った時のこと。

 ゴブリンを一緒に倒した時のこと。

 オークベアを料理した時のこと。

 店を構えて以降、常連になってくれた時のこと。

 他にも、いくつも。


「ギルドマスターとしてお前に依頼したい。依頼内容はこの三つの不可解な事件の調査と解決だ。これを解決したなら、お前をAランクに昇格させてやる」


 それは別に――と言える雰囲気じゃなさそうだ。

 俺も言う気はない。


「そしてこっちは個人的な俺からのお願いだ。あの生意気だけど愛嬌あいきょうのある小娘を助けてやってくれ。頼む」

「言われるまでもありませんよ。俺に任せてください」


 ミーナはこの世界での俺の友人の一人で、店の数少ない常連客だ。

 絶対に助けてみせる。


「俺の世界には『お客様は神様です』って言葉があるんですよ。神様で友達を見捨てるなんてありえません。必ず助けます」

「頼む。俺の方もできる範囲はんいで協力する。次の被害が出る前に解決してくれ」


 ……

 …………

 ………………


「あ、カイトさんお帰りなさい。もう、今日は大変だったんですよぅ。フレンさんたちが食べていた卵焼きを見て、自分たちにも食べさせろって人が10人くらい来て……私じゃふわトロに作れませんからお断りしたんですけど……あの様子だと食べれるまで通ってきますよ」

「そうか、じゃあ次からは銅貨20枚でいいからお前が作って出してみなよ」

「えぇっ!? 私がですか!? う、上手く作れる自信ないです……」

「何事も練習だよクレア。初めから上手くできる奴なんていない。失敗を繰り返して人は成長するもんだ」

「カイトさんも、そうだったんですか?」

「当たり前だろ? 俺みたいな凡才ぼんさいは他人の3倍は努力したもんさ」


 皮むきのかたわら、店長の作業を盗み見たり。

 回収した皿を洗う前に、ソースをめて味見をしたり。

 家に帰ってそれらを反芻はんすうしイメトレしたり。

 常に試行錯誤しこうさくごだの毎日だった。もちろん今もだが。


「わ、わかりました! 明日から注文が入ったらやってみます! で、でもカイトさんがいる時はお願いしますね!」

「ああ、俺がいる時はな。でも、明日からしばらくいないからその間はやってくれよな」

「えええええぇぇぇぇぇぇっ!? 何ですかそれ!? しばらくってどれくらい……?」

「最低でも一週間、最悪それ以上は帰ってこれないと思う」

「そんなぁ……無理です無理です! 私ひとりじゃ絶対無理ですって!」

「大丈夫だって。器具きぐがいいからいけるいける。良かったな、一週間もあったらたっぷり練習できるぞう」

「そんなあああぁぁぁっ!」


 無理無理! 無理中の無理無理!――とネガるクレアをさとして俺は明日からの準備に入る。

 できるだけ支援しえんするとのことだが、基本的に俺一人の単独行動。

 しっかりと準備をしておかなければ、助けられるものも助けられない。


「上級回復ポーションに毒消し、あとは――」


 道具屋で準備をしている時、ふとあるものが脳裏のうりをよぎった。


「……まだ試作品だけど、アレも持って行こう」


 それは店の厨房ちゅうぼうで現在煮込にこんでいるもの。

 俺とミーナが初めて出会い、クエストに行った時の戦利品だ。

 栄養のあるものを食わせてやりたい。


「待っていろよミーナ。絶対に助けてやるからな」


 そして助かったあかつきには、またいいリアクションを見せてくれ。

 だから絶対、無事でいろよ。




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 《あとがき》

 さあ、ミーナ救出編スタートです。

 果たしてミーナはどうなっているのか?

 カイトは彼女を助けられるのか?

 全てにおいて間に合うのか?

 一体何が起こっているのか?

 乞うご期待……してくれると嬉しいです。

 次もよろしくお願いします。


 《旧Twitter》

 https://twitter.com/USouhei


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