第17話 アイアンスコーピオン
ヴォルナットの重要な
――キュイイイイィィィン!
――ドドドドドドドド!
――キュイイイイィィィン!
――ドドドドドドドド!
まさか異世界でこの音を聞くとことになるとは。
俺たちの世界で言う、道路工事のような音が
舞い落ちる
尻尾で突きさした
バリバリゴリゴリ――石と金属が
「鉄を食うのか……」
「そうだ。名前通りだろ?」
「食べたら食べたぶん
「こいつは相当食べてるね。良い素材が取れそうだ」
アイアンスコーピオンの
硬くて丈夫、生物由来の鋼鉄だからか非常に
硬くて丈夫で錆びにくいのか……なら俺も欲しいな。
「食事に夢中で俺たちにはまだ気づいていない。みんな、準備はいいか?」
フレンの確認で全員が
三人組が無言で配置につく後ろで、俺は最後の確認をする。
「クレア、手順は覚えているか?」
「……はい、大丈夫です」
「そっか、結構落ち着けているな」
「さっきのお茶のおかげですかね? ここまできたらやるしかないって腹をくくれました」
「上出来だ。期待してるぜ」
そう言い俺も配置につく。
俺は前衛でフレンの反対側だ。
攻撃前の最終確認で後ろを向くと、
その横で水魔法の詠唱を開始しているシズの姿も見える。
ライルは中衛に陣取り、二人の安全を確保している。
よし――、
「行くかカイト?」
「ああ、行くぞ」
――っしゃあああああっ!
――オラアアアァァァッ!
「……?」
突然の大声にアイアンスコーピオンが反応し食事を中断した。
突っ込んでいたフレンと目が合う。
「ッ! ゴオオォォォッ!」
アイアンスコーピオンはフレンへと向き直ると、大木さえ断ち切れそうな巨大な
そして
――ドガアアァァァッ!
「クッ! 危ねえなあこのこの野郎!」
「ッ!」
――ガギィン!
フレンの放った斬撃が
傷ひとつついていない。
素材としての強さで完全に負けている。
「くそっ! わかっちゃいたが大して
「応!」
フレンに注意が行ったおかげで、俺は敵の背後に回り込めた。
無防備な胴体――そこの尻尾の付け根に狙いを定めて全力の一撃お見舞いする。
――ガギイィィィンン!
「げ! ナックルが砕け散った!?」
「はぁ!? マジかよ!? どうすんだよ!?」
自分一人で
大丈夫だ、俺にはまだ武器がある。
料理人はいついかなる時も、食材を調理するための
――
俺の意思に反応し、両手の
オークベアを食らい、覚えた
体内の血液を硬質化させ武器とするその能力で、俺は新たな武器を生成する。
武器の強さは本人の強さに
ギルマスに連れられ様々な食材を確保し、強くなった今の俺ならば――、
独自の
「今度こそ、ぶっ飛べええぇぇっ!」
「グオオオオォォォッ!?」
俺の拳が敵の
全身で跳ね上がるアッパーカット。
下から強烈な
カニもエビも、
「準備オッケーだ! やってくれ! 三人とも!」
「任せて! こっちも魔法が完成したわ! 食らいなさい!
――ガイイイィィィンッ!
「グ……ゴ……!?」
胴体へハンマーでの巨大な一撃。
そんなところに強烈な衝撃を受ければ、当然目を回してしまう。
「続けて
「お願いスーちゃん!
「ピィーーッ!」
「任せてくれ! さあ、やってやろうぜスーちゃん!」
シズの放ったニ撃目、魔力で作り上げた
そしてその波に乗ってクレアの相棒――スライムのスーちゃんが
シズの生み出した津波を吸収し、クレアの支援を受けたスーちゃんは、今やその
坑道いっぱいに膨れ上がった巨大スライムがアイアンスコーピオンを飲み込んだ。
がっちり
だが、それはさせない。
スーちゃんに乗ってきたライルが体内を移動し、尻尾の付け根に爆弾を仕掛ける。
硬くて掘れない金属を砕くために作られた、この街特製の爆弾だ。
鋼鉄
「みんな!
そう叫んだライルは
スライムの本体はコア部分だ。
万が一にもコアを傷つけさせるわけにはいかない。
スーちゃんも
――3,2,1……ゼロ!
――ボッゴアアアアアァァァァッ!
「ピィーッ!」
「くうっ!? 思ったより威力が強かった。でも――」
「ああ、最大の
爆弾のおかげで尻尾は見事ちぎれ飛んだ。
俺たちから十メートルほど
「おまけに
尻尾部分はちぎれ飛んだが、胴体部分に傷はない。
覆いかぶさっていたスーちゃんが
素材としての価値も
「ゴ……ガ…………」
身体の一部を失い、窒息寸前になりながらも、アイアンスコーピオンは
だが、俺たちはそれを許さない。許してはいけない。
そして何より――俺が探し求めてやまない未知の食材なのだから。
待っていろ、今トドメを刺してやる。
「獣爪術、
ボクシンググローブのように俺の手甲を覆っていた獣爪術が変形する。
グローブからカタールへ。
「未知の味への出会い、興奮、そして食材の命に感謝を込めて…………いただきます」
――ズブッ
「………………」
アイアンスコーピオンは沈黙した。
もう動かない。
戦闘終了。
「いやー、疲れた! カイトのナックルが砕けた時は一瞬びびったぜ」
「ホントよ。私なんて一瞬魔法の詠唱忘れちゃったもん」
「僕も
「私もこっそりみなさんを見捨ててスーちゃんと逃げちゃおうかと一瞬だけ……」
「何だよそれ? ヒデえなあ……」
「まあいいじゃないですか。勝ったんだし」
「クレアの言う通りだ。さあ、大仕事も終わったことだし飯にしよう」
これだけデカい食材だ。
料理人として、メシの作り
「見れば見るほど大きいですねえ」
「そうだな、たぶん最大サイズじゃないか?」
「こんな大きい魔物を使ってカイトさんは何を作るんですか?」
「色々考えたんだけど、やはりここは天丼にしようと思う。クレア、ライス
「はーい」
……
…………
………………
天丼――と聞いてまず真っ先に連想する形は尻尾だろう。
長くて太いエビの尻尾、それに
エビの何百倍もありそうな大きさを持つアイアンスコーピオン。
こいつを使って天丼を作るにあたって、まず俺がしたことは尻尾の
太さ五十センチはあろうかというそれをさらに六等分にカット。
こうしなければとてもじゃないけど、
「本来の天丼とは全然違う見た目になるなあ、これは」
本来切らないところも切っているため、おそらく食感なんかも全く違うことになるだろう。
一体どんな味になるのか? 一料理人として怖くもあるけど、すごく楽しみでもある。
「そんじゃ始めるか。まずはタレだな」
無限袋から砂糖、
サンクトクルスの地元ソースは魚を使ったソースなので、味がベトナムやローマで作られていた
カニやエビに近いサソリとはきっと相性がいいはずだ。
地元ソースをベースに砂糖を混ぜて甘辛く……そしてその中に赤ワインを少々混ぜて、
「あ、なんかいい
ほんのり香るアルコールの匂いと、その中に交じる
それらが砂糖で結ばれて、
「ソースはこれでよし。次は天ぷらだ」
袋から卵を取り出し、器に入れて、少量の水と混ぜ合わせ良くかき混ぜる。
この時、スーちゃんの体液を少しもらってかき混ぜたので、味により深みと
スライムは超万能な食材。
「続けて
衣は完成、いよいよ具だ。
エビ天っぽく作りたいのだが大きさ的にそれは不可能。
なので、様々な野菜と一緒に揚げてかき揚げっぽく作ろうと思う。
「油をセット。十分な熱が入るまでの時間にもう少し具材を
「おいおい、何だよそれ?」
「木の根っこ? それとも枝?」
「魔物はともかく、そんなの食べれるの?」
「食べれるんじゃないですかね? 私の
ゴボウを料理として提供するのは地球上でも日本と中国の一部地域だけだと聞いたことがある。
見た目がさっきシズが言ったように完全に木の根っこっぽいから、太平洋戦争中に捕まったアメリカ兵が、「日本で木の根っこを食わされた」と言って、
ゴボウは
果たして受け入れてもらえるだろうか?
「「野菜を刻み、衣につける。油もいい感じになってきたし、それそろ行くか」
――ジュワアァァァ~~。
――パチパチッ!
――ジョアアアアアアアァァァッ!
よし、カラッといったな。
続けてサソリ肉も同じように衣につけて――揚げる」
野菜同様、気持ちのいい音が坑道内に
ほんのりと香る天ぷら独特のあの香りが、徐々に食欲を刺激してくる。
ああ、早く食ってみたい。
一体この料理はどんな味になっているのだろう?
「このままじゃまだデカいから適度に刻んで……と」
六等分された尻尾肉をさらに細かく切り分ける。
それらを野菜のかき揚げと一緒に、花びらを意識しながらライスの上に盛りつけ、最後にタレをかけて完成した。
「完成だ。アイアンスコーピオンのかき揚げ天丼。熱いうちに食ってくれ」
「おお……これが天丼ってやつなのか」
「まるで器に花が咲いたみたい……」
「ただの料理なのに芸術品みたいな美しさを感じるよ……」
「なんか、食べるのがもったいなくなっちゃいますね……」
「ピイィ……」
そんなこと言わずに食ってくれよ。
そのために作ったのに食わなかったら料理に対して失礼だ。
アイアンスコーピオンの
「みんなに行きわたったな? それじゃあ」
――いただきます。
――パクッ。
「ふ」
「わ」
「あ」
「あ」
「「「「「ふわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」」」」」
食べた瞬間、俺たちの意識がシンクロした。
極上の料理をもってすれば、人々の意思を一つにすることなどたやすい。
人は一つの意思のもとで幸福に支配される。
「あまじょっぱいタレがライスに染みて良く合う! このかき揚げ? ってやつの衣がサクサクで美味いこと美味いこと!」
「この中にあの木の根が入っているだなんて信じられない……あれってこんなに美味しいんだ…………」
「ゴボウはアクが強いはずなのに一体どうやってここまで美味しく……って、ああっ!もうっ! サソリが美味しすぎて考えがまとまりませんっ!」
「すごい! すごいよこの味! 僕、昔エビを食べたことあるけど、エビなんかより何百倍も美味しいよこれ! 旨味だけがひたすら
「日本の天つゆとはまた違った味になっているけどこれはこれで美味いな! 特にサソリ肉やべえ! デカすぎて味や食感が大味になるかもって心配してたけど完全に
例えるならエビ天の尻尾の先だ。
あそこって食べる派と捨てる派に分かれているけど、俺は食べる派だ。
硬いけどエビの味の最も濃い部分があそこに集中しているのだ。食わない理由がない。
「まるでエビの尻尾の先をぷりっぷりのまま食っているみたいだ! かき揚げもサクサクだし美味いぞサソリ天! ありがとうアイアンスコーピオン! お前の味は忘れない!」
こんな旨味の
胴体部分の味も気になるなあ。
次は何を作ろうか?
鍋……寿司……しゃぶしゃぶ……パエリアっていう手も……。
「「「「「ごちそうさまでした」」」」」
アイアンスコーピオン……本当に美味かったよ。
「なあカイト」
「うん?」
「今回の報酬って俺たちが7割でお前たちが3割って話だったじゃん?」
「ああ、外殻1割ぶんと肉全部が俺たちで、残りの外殻9割がフレンたちって決めたよな」
「僕たちで話し合ったんだけど、やっぱり全員で五等分にしない?」
「どうして? 素材の取り分減るぞ?」
「私たちももっと肉食べたいのよ。市場価値としては今のところ無価値だけど、こんなに美味しいって知っちゃったら……ねえ?」
「みんながそれでいいなら俺は構わない。でも、三人とも料理できるのか?」
「いや、できねえ」
「私は普通のはできるけど……」
「僕も。でもさすがに魔物はね……」
「そこでだ、俺たちの肉はお前に
「今回の報酬を
「私たちが行ったときに、その肉で料理を出してほしいの……ダメ?」
ああ、なるほど。
三人はボトルキープみたいなことをしたいということか。
店に自分の肉を置いておいて、食いたくなったら行って料理してもらう。
地球でも一部の店ではやっているサービスだ。
三人はうちの常連だし、断る理由はない。
「構わないぞ。でも、料理する
「それってどれくらいだ?」
「そうだなあ……三人なら銀貨一枚でいいよ」
「っしゃあああっ!」
「これで私たちもっ極上料理を食べれる身分よ!」
「あの時カイトと知り合ってよかったあああぁぁぁぁっ!」
喜びの声を上げる三人。
ずっとスライムゼリーばっかだったもんなあ。
ギルマスがステーキを食う姿をずっと見ていただけに、喜びもひとしおなんだろう。
「ちなみにカイトさん、さっきの料理をお店で出すならいくらになります?」
「そうだなあ……結構一匹から取れるし、銀貨七枚ってところか?」
「な、七枚……日常的に食べるのは無理だけど特別な日なら食べれるお値段…………うぅ! 週一なら何とか……」
思い思いのことを話しながら出口を目指す。
みんなの楽しそうな表情を見て俺は確信する。
今回のクエスト――大成功だった。
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《あとがき》
初のパーティ戦も終了です。
次回は日常回です。
いい素材で調理器具作るとやっぱ違うんですよ。
私もテフロン加工済みのフライパンで目玉焼き作ったら全然違いました。
《旧Twitter》
https://twitter.com/USouhei
読み終わった後、できれば評価をいただけたらと。
作者のやる気に繋がりますので。
応援よろしくお願いします!
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