第2話 スライム(前編)

「いただきます!」


 俺がこの世界に追放されてから3日が経過けいかした。

 この3日間、数種類すうしゅるいのモンスターを狩って食べてみた。

 初日に食べたお化けメロンの亜種あしゅっぽい、リンゴやミカン、桃、それにスライムなど、いけそうな魔物を食べてみたのだが、そのどれもが美味うますぎる。

 地球の果物と比較ひかくにならないレベルで味も甘みも濃厚のうこうだった。


「そりゃあこんだけ美味いんだから、店長も輸入ゆにゅうするし、秘密にするよなあ」


 それだけこの世界のモンスターは暴力的ぼうりょくてきかつ犯罪レベルで美味い。


「食事の過程かていでレベル?も上がったし、食い物の心配も今のところ大丈夫だし、

 そろそろこの世界の情報が欲しいところだよな」


 というわけで、現在俺は人里を目指して移動中。

 木登りした時に見つけた川に沿って、下流へ下流へと歩いている。

 人の生活に水は必要不可欠ひつようふかけつ

 川沿いに移動すれば、必ずどこかに集落しゅうらくがあるはず。


「しかしこの山――っていうか森? 随分ずいぶんと広いな。もう数日間歩いているけれど、一向に誰にも会わないんだが」


 それでも川の流れはゆるやかになってきているので、下流の方にきたのは分かる。

 人が住むとすれば流れの緩やかな下流だ。

 だからきっともう少し――


 ――ドゴオオオオォォォン!――


爆発音ばくはつおん!?」


 この世界に来てから最大級の音がひびき渡り、周囲の空気がふるえる。

 音の大きさからして発信源はっしんげんはそう遠くない。


「人か? ちょっと怖いけど確認に行ってみるか? あ、でも言葉通じるのかな? いや、システムメッセージっぽいあれは日本語音声だったし、俺を誘拐ゆうかいしたあいつらも店長と日本語で話していたし大丈夫か?」


 原理げんりはわからないがたぶんそんな気がしないでもない。


「とりあえず情報が欲しい。行ってみよう」


 もし好戦的こうせんてきなやつだったらまずいので、俺は爺ちゃん仕込みの方法で気配を消し、物陰ものかげに隠れながら、慎重しんちょう爆心地ばくしんちへと移動した、


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「ファイアーボール!」

水属性みずぞくせいモンスターに火は効果こうかうすいぞ!」

つなら雷系魔法撃ってよ!」

「まだ雷系覚えてないから無理―っ!」

「この前魔導書まどうしょ買ってただろ! アレの中見何だったんだよ!?」

治癒ちゆ魔法に決まってるでしょ! アンタが無茶するから覚えざるを得なかったの!」

「そ、そうか……俺のために、その……ありがとう……」

「べ、別にいいわよ……私だってアンタに怪我けがしてほしくないし……」

「イチャつくのは終わってからにしてくれない!? 僕一人でおさえるのキツイんだけど!?」

「あ、ごめん。ファイアーボール! こうなったら熱で蒸発じょうはつさせてやるんだから!」

「なら、それまで俺が守ってやるよ!」


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「おお……もしかして冒険者ぼうけんしゃってやつか?」


 爆心地にいたのは男2,女1の三人組だった。

 恰好かっこうはファンタジー系RPGにいそうな戦士、盗賊、魔法使いと言ったところ。

 三人組が戦っているのは五メートルはあろうかという巨大なスライム。

 一目でただのスライムじゃないと俺にも分かった。

 この世界に来てスライムは何匹も食ったが、あそこまでデカいのは初めてだったからだ。


「…………美味そうだな」


 三人組と戦っている巨大スライムを見た俺の最初の感想ファーストインプレッションはそれだった。

 あのツヤ、あの透明とうめい感、そしてあの生きの良さ。

 間違まちがいなく絶対美味いヤツに違いない。

 スライムならこの三日間で何度もしょくし、その生態せいたいや弱点をすでに理解している。

 冒険者をふくめたあの場にいる全員の動きもしっかり見えるし、たぶんいける! 狩れる!


「苦戦しているっぽいし……乱入してもいいよな?」


 以前食べたスライムの味を思い出し、舌なめずりをしながらそう呟くと、俺は巨大スライムの死角に回り込みゆっくりと近づく。

 狙うは中心の赤いコア――

 三人の攻撃から守るために、前面の防御を厚くしたぶん後ろが薄くなっている。

 届く――


「く……ファイアーボール!」

「威力が小さい……も、もしかして?」

「……ごめん、魔力尽きそう」

「くそっ! 撤退てったいだ! 魔力を回復して体制を立て直す!」

「で、でも逃げられる……? なんか、逃がしてくれそうにないんだけど……?」

「そんなん気合いで何とかするさ! 足止め頼む!」

「えーい! わかったよ! うおおおぉぉぉ…………お?」


 ――ドスッ!


 三人が撤退戦を始めようとした瞬間、俺の包丁がスライムコアを背後はいごからつらぬいた。

 スライムの意識いしきは完全に三人に集中していたため、俺は苦も無く獲物えものをしとめることができたのであった。



          ――レベルアップしました――



 あ、レベル上がった。


「あー、えーと、俺の言葉わかる? なんかピンチっぽかったから助けに入ったけど、倒しちゃってよかったかな?」

「た――」

「た?」

「「「助かったー……」」」

「……そりゃよかった」


 ……

 …………

 ………………


「助けてくれてサンキュー! 俺はフレン! 職業ジョブはDランクの戦士ウォーリアだ!」

「私はシズ。見ての通り魔術師マジシャンよ。Dランクでこいつとは幼なじみなの」

「僕はライル、斥候スカウトさ。ランクは二人と同じD。で、きみは?」

「俺は海斗かいと旨味沢海斗うまみざわ かいとだ。職業は……料理人りょうりにんかな?」


 一応料理人で名乗ってもいいよな? 三ツ星店で働いていたし。

 たぶんクビになったけど。


「名前の後に家名――ってことは貴族?」

「よ、呼び捨てにしちゃまずい感じ?」

「いや、そういうんじゃないから安心して普通ふつうに話してくれ。俺の国では貴族だろうとそうでなかろうと全員に家名があるんだ。あと家名が前に来るからウマミザワが家名でカイトが名前な」

「へえ、そんな国があるのか」

「随分と変わった国ね」


 どうやらこの世界は苗字みょうじが基本ないようだ。

 貴族制があるところを見ると、ますます異世界ファンタジーっぽい。


「で、カイト。そんな外国人のきみがどうしてこんなところに? 見た感じ冒険者でもなさそうだし」

随分ずいぶん軽装けいそうだよな。そんな恰好で魔の山に入るとか自殺行為じさつこういだぜ?」

「よく生きてたわよね。助けられた私たちが言うことじゃないけど」


 あ、そんなやばい感じなのか。

 考えてみれば魔物がポンポン出るし、口封くちふうじしたいはずの俺にとどめを刺さずに放置ほうちだけっていうのもおかしい。

 きっとそれなりに危険な場所なんだろう。

 だがまあ、それはそれとして――


「うーん、どう説明したもんかな?」


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《あとがき》

今回は前哨戦なので短め。

次回はスライムを食べる話です。

食事がメインなので食事描写頑張ります!


読み終わった後、できれば評価をいただけたらと。

作者のやる気に繋がりますので。

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