異世界追放料理道~店の秘密を知ってしまった俺は店長雇いの暗殺者に誘拐され異世界を食べ歩く~

塀流 通留

第一章 冒険者編

第1話 異世界メロン

 ……店の秘密を知られたからには生かしておけん


 バイト先の店長にそう言われた直後、

 料理人志望の俺、旨味沢海斗うまみざわ かいとは見知らぬ土地に放り出されていた。

 一体ここはどこだろう? 灯り一つ見当たらない。

 だからかだろうか? やけに星が綺麗きれいに見える。


「日本にこんなきれいに星が見えるところなんてあったっけかな?」


 少なくとも俺の記憶にはない空である。

 もしかして俺死んだ? いやいやいやいや!? まだ生きてるだろ! 多分!

 頬をつねればちゃんと痛いし、顔を殴ればちゃんと痛い!

 よし、生きてる! でも何でこうなった?


「まあ、とりあえずゆっくりと思い返してみよう」


 ……

 …………

 ………………


 確かあれは今日のバイト終了後のことだった。

 料理人志望の俺は、マイ包丁をバイト先に忘れてしまい、店に取りに戻ったんだった。

 そしたら店長が明日の仕込みをやっていたんだけど……なんか見たこともない食材を使っていて……。

 俺の記憶が正しければ、あれはドラゴンだったように思える。

 3Mはあろうかというドラゴンの顔を肉切り包丁で店長がいでて…………

 おどろいた俺は、思わず悲鳴ひめいをあげて…………


「みぃ~た~な~ぁ?」

「ひぃっ!? て、店長!? これは……一体!?」

「食材だ。うちの店が三ツ星であり続けるための重要じゅうような食材だよ。門外不出もんがいふしゅつのな。おい」

「え? うわっ!?」


 店長が何者かに合図を出した直後、俺の視界は真っ暗になった。


「店の秘密を知られたからには生かしておけん。こいつを捨てて来てくれ。お前らの世界に」

輸送ゆそうですね? では金貨二枚になります」

「わかった。払おう」

「ありがとうございます。オプションで殺害はいかがでしょうか? お安くしておきますが?」

「必要ない。どうせ野垂のたれ死ぬだろう。ひと気のない場所に捨ててくれればいい」

「そうですか……残念だなー。お得様だから格安でってあげるのに」

「いらん」

「わかりました。それではまた御贔屓ごひいきに」

「ちょ!? 待!? 店長! これは一体――うわああぁぁぁぁっ!?」


 ………………

 …………

 ……


「とか叫んだ直後に気が遠くなって、気づいたらこの場所にいる、と」


 ふむ……つまりはアレかな?

 どうやら俺は誘拐ゆうかいされ、元いた世界から追放を食らったらしい。

 殺害は拒否していたので、間違いなく生きてる。よかった。


「お前らの世界とか言ってたしなあ、あの食材もどっからどうみてもドラゴンだったし、もしかしてここ、異世界だったりする? ネット小説でよくあるあの?」


 いやいやまさか。そんなわけない。

 きっと眠らされてどっかの山奥に捨てられたんだよ。

 ……ってかそれもやばいな。

 俺の格好かっこう、完全にバイト帰りだよ。

 山を降りる装備なんて一個もねーよ。

 ポケットに包丁一本あるだけだよ。


「なんにしても今降りるのは危険だな」


 夜の山道は危険きわまりない。

 田舎で生前猟師りょうしやってたじいちゃんに口をっぱくしてそう教えられた。

 なので、手近にあるそこそこの高さの木に登って一夜を明かすのがベストだ。

 木の上の方が安全だからな。


「お、この木なんかいい感じじゃないか?」


 そこそこ高いし、枝も太いし、山中における一夜の宿にはぴったりだ。


「よい、しょっと」


 こう見えて木登りには自信がある。

 わずかにある木のうろを足場にあっという間に上り終え、枝をまたいでりかかった。


 Grrrrrrrrグルルルルルル……


 野獣やじゅうか!?――と一瞬いっしゅん思ったがどうやら俺の腹の音だったようだ。

 腹が減りすぎて、いつもの3倍叫んだらしい。

 何か食えそうなものないかな?


「お、ちょうどいいのみっけ!」


 枝の先にメロンみたいな大きさの木の実が一個、からまる感じに生えてるじゃないか!

 ……でもメロンって木の上に生えたっけ?

 んな話聞いたことねーし、やっぱりここは異世界なのか?

 確信を持てないままそんな言葉を口にした次の瞬間――。


「キシャアアアァァァァッ!」

「異世界だああああぁぁぁぁっ!?」


 異世界であることが確定した。

 メロンに手を伸ばした直後、そのメロンはごろんと枝の上を転がり俺を威嚇いかくした。

 こんな植物日本に――っていうか地球上にあるわけない!

 やはり俺は誘拐され、異世界に追放されたようだ。


「シャアアアァァァァ!(ガチーン!)」

「うわっ!? 危ねっ!?」


 人食いメロンは大きく口を開け、伸ばした俺の手めがけてみついてきた。

 すんでのところで反応できた俺は、手を引っ込めて後ずさる。


「これ、どっからどう見ても大ピンチだよな……?」


 逃げ場のない木の上、ネット小説にありがちなチート能力もない。

 おまけにバイト帰りの身軽みがる服装ふくそう

 武器ぶきと呼べるものなんて…………お?


「そういやあった! 職業的にあんま武器にカウントしたくないけど!」


 あるにはあった俺の武器――りんごやジャガイモの皮むきをいつでも練習できるように忍ばせておいた包丁こいつで切り抜けるしかない。


「っしゃオラァ! かかってこいやぁ!」

Grrrrrrrグルルルルル……」


 俺の気迫きはくされたのか、お化けメロンはこちらを警戒けいかいしているようだ。

 様子ようすを見る感じで、ジリジリと後ずさりを始めている。

 チャンスだ! びびればその分ちぢこまって動きが硬くなる!


「うおおおおおおぉぉぉっ!」


 ――ザシュッ!


「ピギイイイィィィィッ!」


 高さを恐れずダッシュからの一突き。

 俺の包丁はお化けメロンの脳天のうてんを見事に突き刺しその命をうばった。


「はぁ……びびった。一時はどうなることかと思った」


 たたかってみれば見た目がいかついだけで、強さはそんなでもなさそうだ。

 昔、爺ちゃんと一緒に狩ったイノシシの方が全然強い。


「ところで、これ……食えるのかな?」


 野獣のような牙の生えてる口部分さえのぞけば見た目はメロン。

 突き刺した包丁にしたた果汁かじゅうにおいもほのかに甘い。

 ……食ってみるか。腹減ってるし。


「とりあえず、毒がないかだけチェックして……」


 俺は自分のわきにお化けメロンの果汁を軽くりつけた。

 爺ちゃん曰く、粘膜ねんまくうすい部分にこうやってこすりつけることで、毒があるかを判別できるらしい。


「特にヒリヒリしない……なら、食えるかな?」


 俺は覚悟かくごを決めてお化けメロンを食すことに決めた。

 包丁で口部分を切り落とし、見た目パッ〇マンみたいになった部分を注意深く観察かんさつする。


「へえ、口ん中に三重さんじゅうの牙があんのか。のどおくは細いくきつながっているところを見ると、この三重の牙でかみくだき、すりつぶして、細い茎に流し込んで本体に栄養を送るのかな?」


 牙のするどさはかなりのもの。

 ちょっと触っただけでも指が切れそうなので枝を噛ませてみたが、軽く力を入れただけでちぎれてしまった。


「ピラニアの歯みてーだな……何かに使えるかもしれないし一応とっておこう」


 エプロンのポケットに牙をしまう。


「口の部分以外はメロンだな。硬さといい網目模様あみめもようといい、どっからどうみてもメロンにしか見えん」


 網目模様の外皮が、実全体をおおっている。

 切り取った口分からのぞく果肉の色は――緑ではなくオレンジ。

 昔、爺ちゃんが生きていた頃お取り寄せして食べた、山形県産「庄内砂丘しょうないさきゅうメロン」系の赤肉種、「夕映ゆうばえメロン」を思い出す。

 果汁が豊富ほうふで甘みが深い、高級メロンにカウントされる、あの――。


「見た目は美味うまそうだな……だが問題は味だ」


 見た目が美味そうでも不味まずいものなんていくらでもある。

 俺はこのお化けメロンがそうじゃないことを願い、覚悟を決めて一口目をいただいた。


「未知の味への出会い、興奮こうふん、そして何より俺の悪運と食材に感謝を込めて――いただきます!」


 ――パクッ。


美味うあああああああぁぁぁぁぁぁっ!?」


 ナニコレ!? 何なのこれ!?

 俺が今まで食ってきたどんなメロンよりも味が濃厚のうこうで甘くてクッソ美味いんだけど!?


「口の中に入れた瞬間しゅんかんまとっていた甘い匂いが一気に広がって鼻に突き抜けたぞ!? 軽く噛んだだけで果汁が溢れ出して、一瞬息が止まったんだが!? どんだけ水分溜め込んでたんだコイツ……? そしてきわめつけはこの触感しょっかんだよ! ほどよい弾力だんりょくがあって、まさに「メロン食ってる!」感を脳幹のうかんからダイレクトに全身に伝えやがる……! そしてぷつんと噛みちぎった後! まるでアイスのように口の中で自然にけてなくなっていく……何だコレ!? 何だコレは!? 俺は一体今何を食ってるんだ!? うおおおおぉぉぉぉっ!」


 感動かんどうだ! 感動のあらしが止まらねえ!

 あ、やば……感動しすぎて涙出てきた。


「もしかしてアレか? 人をおそうほど生きが良すぎるレベルで新鮮しんせんで栄養をたくわえているから、地球の果物と比較にならないほど美味いとか何かそーゆーアレなのか?」


 詳しくはわからない。

 だが、絶対にこれだけ美味い決定的な違いがあるはずだ。

 料理人をこころざす者として――とても知りたい。


「一個じゃ足りねえ……他は!? 他はいないのか!? 他は……まてよ? そういえばこのメロン、茎が別のところに伸びてたな」


 それを辿れば……!


「いただきます!」


 俺はその後茎を辿り、三つほど生えていたお化けメロンの実を発見してその命をいただいたのであった。

 ……ごちそうさま。腹減ってたのもあって死ぬほど美味かったよ。






          ――レベルアップしました――


「お?」


 突然頭の中に無機質むきしつな声が聞こえてきた。

 声の調子から察するにシステムメッセージっぽいし、神の啓示けいじのようなものかもしれない?

 普通に考えたらありえないけど、ここ異世界っぽいし、地球の常識じょうしきで考えるのもなあ?


 ――カイト=ウマミザワ――

 LV2 HP17(+2) MP0

 力17(+3) 魔力1(+1) 速さ20(+2) 器用さ25(+4)


「……まるでゲームだな」


 この手のネット小説を読んだ時と同じ感想が口からこぼれる。

 まさか自分の身にネット小説と同じようなことフィクションが起こるとは思わなかった。


「この件に関しては後々考えるとして――」


 とりあえず、体力温存たいりょくおんぞんのために今は寝るべし。

 いつ帰れるかわからないからな……



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《あとがき》

第6回ドラゴンノベルス小説コンテストにエントリー中です!


本好きが高じて書いてしまいました。

初めてのネット小説ですが、読んで行ってくれたら幸いです。


一応話はキリのいいところまでストックがありますので、エタることはないと思います。


私のX(旧ツイッター)アカウントです。

ネット投稿を始めるために新設しました。


https://twitter.com/USouhei


読み終わった後、できれば評価をいただけたらと。

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