第3話 スライム(後編)
「実は俺にもよく分からないんだよな。気がついたらこの森の中にいた感じで」
結局、話せることだけ正直に話すことにした、
異世界だの何だの変に思われるのもアレだし、
「気がついたらいた?」
「《
「他に覚えていることとかはないわけ?」
「ないなあ、残念ながら。本当に気がついたら山の中で……」
俺のことを気の毒そうに三人が見つめる。
「俺さ、いきなりこんなことになって何もわからないんだ。
「ああ、もちろんだ」
三人は
俺はさっそく持っていた包丁を取り出し、
「おいおい、どこ行くんだ? 飯にするんじゃないのか?」
「そうだけど? なあ、このスライム
「そりゃ、
「あんたまさか……それ食べるつもり?」
「そうだけど? 変か?」
「「「変に決まってるだろおおぉぉぉっ!」」」
おお、三人とも総ツッコミとは。
どうやらこの辺りは魔物を食べるという
……
「魔物を食べるとかお前正気か!?」
「魔物は神の敵が生み出した
「そんなん食べたら僕たちも魔物になっちゃったりしない?」
「ならんて」
話を聞くに、どうも
もう少し詳しく話を聞いたが、
言い伝えから来るゲテモノのイメージというのが一番しっくりくる。
「ここに放り込まれてから三日、散々俺は食ったけど何ともないぜ? それどころかメチャクチャ美味かったんだ。食わないとか馬鹿げてる」
「え? えぇ……?」
「スライムはこの内側の特にぷよぷよしたところがいいんだ。柔らかくて弾力があって、
そう言いながら解体する俺を見て三人はドン引きしている。
気にせず俺は四人分切り取ると、木の実で作った器に移して果物を入れる。
そう、俺を
濃厚な甘みを持ったこいつらなら、
「よーくかき混ぜて……できた!」
魔物+魔物の夢のコラボ商品が完成した。
この世界の人たちにとっては悪夢の商品かもしれないが。
「一応聞くけど……食う?」
「い、いらねえ!」
「せっかくのお誘いだけど僕は……」
「わ、私も……さすがに魔物を食べるのは……」
「だよな。いいよ、いらなきゃ俺が食べるから。食いたくなったら言ってくれ。材料がある限りは作るからさ」
それだけ言うと、俺は食事を開始した。
一目見て美味そうだと感じたこの巨大スライム……果たしてどんだけ美味いのだろう?
では――
「未知の味への出会い、興奮、そして新たな出会いと食材に感謝を込めて――いただきます!」
――パクッ!
「うっっっっまあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!」
「「「っっっ!!!???」」」
俺の絶叫に三人が驚き、持っていた干し肉を落とした。
「何だこれ!? 普通のスライムも
「も、もしかして少しだけ再生したんじゃないかな? コアは
「なるほど! きっとそれだ! じゃあ甘みは!?」
「ス、スライムの好みが関係しているのかもしれないわ。スライムって雑食なんだけど、この巨大スライム、
「
なるほど、それで。
食うものを
ホエー豚に
それを自分でやっていたのか。
ありがとう巨大スライム……きっときみは俺に食われるために生まれてきたんだな。
「おかわりだ! おかわりを食うしかない! 腹いっぱいで動けなくなるまで食うぞ!」
それから俺は食べた。
かき混ぜを甘くしたり、果物を入れず生のまま食べたり、飽きないように色々と調理方法を変えて、この極上のゼリーを楽しみまくる。
すると――
「な、なあ……」
「ん? どうしたフレン?」
「その、それってそんなに美味いのか? 夢中になって食っちゃうほどに」
俺の食事で
「お、俺も
「止めなよフレン!」
「そうよ! カイトはきっと特殊な訓練を受けているから食べられるの! 私たちが食べたら魔物の邪気に当たってお腹壊すわ!」
「壊さんて」
別に特殊な訓練なんて受けて……いる可能性は無きにしも
むしろどちらかといえば腹は弱い方だ。
少しでも古くなった牛乳を飲んだら簡単に腹を壊すレベルだぞ俺は。
「フレン、絶対やめといたほうが良いって……」
「そうよ。お腹を壊してからじゃ遅いのよ?」
「かもしれないな……でもよ、俺たちは冒険者なんだぜ? どんな冒険でも
それっぽいことを言ってフレンは仲間を
この
であれば、最高に美味いものを食ってもらわないとな。
「ほら、できたぞ。お前の分だ」
俺は最初に食べたときのように、果物をたっぷりと入れてしっかりかき混ぜてからフレンに渡した。
「サンキュー。じゃあ……行くぞ?」
ゴクッ――と、はたで見ていた二人が
そして――パクリ。
「は、わわわわわわ……あばばばばばばばば!? うがああぁぁぁぁーーーっ!?」
ゼリーを食べたフレンは変な
「フ、フレン!?」
「やっぱり食べちゃダメだったのよ! お腹じゃなくて頭に……ただでさえフレンは頭が弱かったのに……」
「誰がバカだ!? っていうか言うほど頭悪くねえだろ俺! 村の学校じゃそこそこ
「フレン!?」
「だ、大丈夫なの? その、色々と……」
「大丈夫に決まってんだろ! それより何だコレ
どうやら、スライムで価値があるのは世間的にはあのコアだけのようだ。
何かの材料にでもするのかな?
「おかわりだ! おかわりをくれ! もっと食いたい!」
「はいよ。ただ果物は少な目だぞ? 他の二人の分も一応取っときたいたいし」
「大丈夫だって。シズもライルも気持ち悪いからいらねーって言ってたじゃん。な? 食わないよなお前ら?」
「え。えっとぉ……」
「僕たちもちょーっとだけ食べてみようかなって思ったりなんかして……」
「わ、私たちのも作ってもらえる?」
「ああ、もちろん」
「ちょ、ちょっと待て!? お前ら食わないんじゃなかったのかよ!?」
「それを言ったらアンタもでしょ!」
「そんなぁ……じゃあせめて果物は
「もう帰るだけだし別にいらないよ。味
「街に帰ったら好きなもん
「別にいらないわ。一応聞くけどこの果物も?」
「ああ、元は魔物だ。果物に歯が生えたやつだった」
「マ、マンイーターだったんだ……スライムとマンイーターのコラボか……」
「食べるのにちょっと、いや、かなり
「そうだろ!? 俺は大事な仲間のお前たちにそんな覚悟を決めさせたくない! だから俺が
「ただ食べたいだけでしょ」
「物は言いようだね。それじゃあ――」
「あ、あああぁぁぁぁーーっ! 待ってえええぇぇぇっ! 食っちゃダメエエエェェェェッ!」
「「いただきます」」
「アアアアアアァァァァァァァッッ!?」
――パクッ!
「ふわあああぁぁぁぁっ!? ナニコレナニコレナニコレェェェェェッ!? こんな
「昔王都で食べた高級店のデザートがゴミみたいに思えるよ! 魔物ってこんなに美味しかったんだ!?」
「お、俺が食うはずだったのに……うわあああああぁぁぁぁぁっ!」
幸せそうに食べるシズとライル、そしてその幸せを食べられてしまったフレンという
「こころなしか魔力も回復しているように思えるわ。道具屋の安いマジックポーションなんかより回復力あるかも」
「本当かい? だとしたらものすごい優秀な食材だよ」
「果物抜きでも全然美味いな。いくらでも食えるぞこれ」
もうすっかり魔物食への
さてと、そろそろ
「なあフレン」
「ん? 何だ? おかわり」
「はいよ。さっきも言ったように俺は気がついたらここにいたんだ。だからこのあたりのルールとか知らない」
「おう聞いた。大変だよな。おかわり」
「食うの早いな! だから、そろそろ教えてくれないか? 生活に困らない
「おう、
「まだ食うんかい!」
こうして、俺はこの世界における
彼らがいればよそ者の俺でも街でそこまで浮かないだろうし、その点も安心だ。
「「「おかわり!」」」
「はいよ」
放り出された先での異世界生活、これから本格的に開始となるわけだが。
はたして上手くいくのだろうか?
不安はあるけど、やるだけやってみようと思う。
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《あとがき》
初めてのパーティでの食事会です。
スライムって絶対美味いと思うんですよね。
《旧Twitter》
https://twitter.com/USouhei
読み終わった後、できれば評価をいただけたらと。
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