誰かの意思は誰かのノン・プレイヤー・キャラクターだった

@yoshinaka555

第1話神様現れこんにちは

 仄暗く深い霧の中、前触れもなくただの現象として刹那に捉えられたかのようにごつごつとした岩場に少女たちは立ち尽くしていた。それぞれの存在を視認しても知覚することはなく、今そこにある危機も分からずに只々そこに存在していた。

「お!?来たな」

少女たちより一段高い岩場に腰を下ろしている老人が独り言のように話した。

その場に立っていた少女たちは、ようやくその声に生まれたての赤ん坊が産声を上げるような反応で一斉に悲鳴をあげた。

「キャー!?え!?何?なに?え!?なに?何処?イヤー!」

少女たちは混乱し、その場で悲鳴を上げるもの腰が抜けたように地べたに座るもの同じ場所でうろうろと動き回るもの、それぞれ理解の範疇を超えた何かを戦きながらも精神と身体で理解しようと務めている。

一瞬なのか数分なのか数時間なのか、どのくらいの時が経過したのであろうか、混乱していた彼女たちはようやくそれぞの存在に気が付き恐る恐る戸惑いながらもそれぞれがそれぞれを視認、観察、確認をし始めた。

「あのーすいません、どなたか私の喋っている言葉分かりますか?」

1人の少女が意を決して控えめな声で残りの3人に喋りかけた。少女の言葉を皮切りに残りの少女たちも慌てて話始めた。

「分かります、分かりますよ、大丈夫です」

「私も分かるよ」

「全然通じるよ。大丈夫!」

呼吸をすることも忘れていたかのような状態から彼女たちは堰を切って我先にと話し始めた。

それぞれが発する言葉を聞いた少女は胸をなで下ろした。

「よかったー、話が通じなかったらとどうしようかと思ったよー」

4人はこの危機たる状況は理解しつつも1人ではなかったことに安堵している様子で、理解しきれない状況や恐怖、今いる場所への不安よりも同じ状況下に置かれている他の存在を優先し相互理解を図ることで個から集へ移行し、仲間意識と安定、安心感を得たいと心理的な行動がお互いの状況をより打開に向けた次なる理解、フェーズへと無意識に移行させたようである。

4人はお互いの顔を確かめ合いつつ恐る恐る辺りを視野に入れ、脳がこれ以上混乱しないように努めながら視界に入ってくる情報を処理していった。

「どう?何か見える?」」

「うーん?空は暗いし家や明かりも特に見えないよ」

「そうだね暗い割には地面が光っているのか、近くのごつごつとした岩や割と遠くの岩までは薄っすらと分かる」

「息苦しくないし酸素は十分に有りそうよ」

「あ!ほんとうだ~息き吸える、息き吸えるかどうか考えていなかったよー」

程度はどうあれ状況を少しずつ把握し始めた彼女たちではあるが、謎はさらに深まってゆくばかりで、この状況を理解できる情報や打破する材料には依然乏しかった。それでも彼女たちは、自身の精神状態をコントロールしつつ更に情報を集め、それぞれがおかしい?!ひっかかる!と思うことをここにいる全員と共有することにした。

「私からいいかしら?」

長い髪を一度かき上げそのまま中指でメガネのブリッジを押し上げながら彼女なりの状況分析とそれに基づいた理解と推論を話始めた。

「今分かるかることについてだけれども、私を含めあなた達が先程話したことの他に気になる事がいくつかあるわ」

3人は彼女の“気になること”について注視しながら聴く体制をとった。

「まず、ここは何処で何なのか?何の目的でここにいるのか?他の人たちは見当たらず何故私たち4人だけなのか?また、なぜ4人だけがここにいなくてはならないのか?そもそも私があなたたちに気付く前からこの空間にいたのか、それとも私と同時ここに存在したのか?という事」

一人は彼女の話す言葉に頷き、一人は半分理解したのか首を少し傾けながら頷いた。最後の一人は理解まではいたらなかったようで口を半ばまで開けて首を前に突き出し“はっは~?”と言葉を出しながら聞いていた。

「ここは何処で何なのかを突き止めることは最重要であることは間違いないけれど、私が気付いた時にはみんながいたのは確かだよ」

べっ甲のメガネを掛けている少女の話をある程度理解したのか、ワンレンボブの少女が答えた。

「そうそう、私も気が付いた時には3人共いたよ!」

「うんうん、いたいた」

ん?ん?ん?を出していたストレートミディアムヘアの少女は、話の内容は理解したかは定かではないが、他の3人がいたかどうかははっきりと覚えていたようで話に入ってきた。

「なぜ私たちだけなのかな?ほかに誰かいないのかな?」

改めて周りをキョロキョロ見渡すと岩の上にぼんやりと人らしきものが見え始める。

「えっ?!あっ!何?きゃぁー!?」そのらしきもを視認したと同時に身の毛がよだったのを感じながら叫び声を上げた。

それに答えるかのように後の3人も全身を強張らせながらも悲鳴を上げた少女の方に振り向き、そのまま少女の視線の先に目線を向けると何かがいるのに気がついた。

「なに?何?うそ?え?きゃー!きゃーきゃーきゃーー!」

少女たちはそのものの影らしき存在に一斉に声をあげた。

何秒間か彼女たちの悲鳴が辺りに響き渡り切った時、長髪のメガネ少女が震えながらも大きな声でみんなを制した。

「み、みんな、おっ落ち着いてー!」

メガネ少女の言葉が耳から入って脳に到達し理解に至るまで数秒かかったようだが、徐々に悲鳴が止んでいく。

「みんなよく見て!ただの人よ!人に見えるわ。猛獣やUMAやお化けでもはないわ!それが良いのか悪いのかは置いておいても、私たちと同様に今ここに現れたのかもしれない存在よ!」

少女が人という何かに指をさして言い切ると、他の少女たちは改めて指の先が捉えている方向を目視し始める。

「た、確かに灰色のローブに杖を持ち、眼鏡を掛け白く伸びた髭につるつの頭をしているおじいちゃん?」

ストレートミディアムヘアの少女がその存在を言葉に置き換えて容姿を形容した

「やっと気が付いたか?!もっとも視界に取り込めないようだから、わしが気づかせたのじゃがの」

杖を突き白く長い髭をさすりながら少女たちを見下ろした。

「あのーすみません、どなたですか?もし知ってたらでよいのですが、ここはどこか知っていますか?」

一人の少女が岩の上にいる老人に話しかけた。

「わし?わしはわしじゃ!ここはどっかって?何を言っているのじゃ?ここはここじゃよ」

「あのそういうことを聞いてるのではなくてですね、私たち気づいたら見渡す限りの岩だらけの場所にいたというか、全然意味が分かっていないんですよ」

「ですから、もし何かわかるようでしたら教えていただきたいなと思いまして」

少女たちは突然視界に飛び込んできた得体の知れない老人に、ただ不安を拭い去りたい一心で深く考えずにとびついた。

「は?あーそういうことね。お前たちはここに来るときに場所や理由も知らされないままに来たのか?」

白い髭の老人はさも今気が付いたような口調で少女たちに話始めた

「おかしいの~?わし、ここにおぬしらを呼ぶとき、理解できるように綺麗なねーちゃんをそれぞれ傍らにおいて説明するように組んだのじゃがの~」

老人は髭を何度も撫でながら頭を少し傾け視線を空に向けて考え始める。

「は?え?え?え~?」

「そっれって、なにかよく思い出せませんけれど、薄っすらと記憶の片隅に残っているような感じのことですか?」

「???あ~?!はいはい。それってもしかしたら、天使様のこと?知らない言葉をダラダラ言っていて何言っているか全然分からなかったやつだ~」

「そうそうその天使?ってやつ?!あれ?お前たちの言語に変換されなかった?おかしいの~?」

白い髭の老人は手元に何かを映し出し、それをいじくった後に視線を少女たちに戻しながら下あごの長い髭をなでおろしながら首を横に傾けた。

「処理がうまくいかなかったのかの~?う~ん、まだ初心者だからしょうがない」

老人は言葉に発して自分を納得させているようだった。その様子と発言に理不尽を感じた全員が片足を半んぽ前に出し、一段高い岩の上に偉そうにしている座している老人に一斉に白髭の老人に突っ込みを入れた。

「おいおい!?ダメでしょ!その程度で私たちのことを好き勝手にするなんて」

「いや~ごめんごめん!いい加減な気持ちで操作したつもりはないじゃが、うまくいかなくての。お前さんたちを呼んだのはもちろん目的があってのことじゃ!」

よっこらしょ!痛たたたたと言いながら、ようやく老人が立ち上がった。老人は両手をこすり合わせながら聞き取れない程度に呟き始め、突然目を見開きその場を仕切り直すかのように少女たちにカーッ!と奇声なような声で一喝した。

「きゃ?!なに?なに?」

少女たちは身体を一瞬強張らせ、奇声を発した老人を見た。

「あ!?ごめんごめん。痰がね絡むのよこの年になると。カーッ!っぺ」

老人は少女たちに見えないように痰を吐き出したのち少女たちの方に向きなおした。

「じじぃー!間際らしいことしやがって、わざとらしいんだよ。このつるピカはげ丸髭じじぃが!いったい私たちをどうするつもりだよ!」

気持ちいいほどみんなの代弁をしたのは、先ほどから両腕を胸の前に組んでいた少女だった。

「いいね。いいね。その調子、その調子」

「その通り!どうするつもり?」

その呼応に他の少女たちも言葉を発しながら両腕を組み一歩前進した。

「そんなに怒らんでもいいじゃろ!目的があってのことなんじゃ!取敢えず話すから落ち着いて聞いてくれんかの」

老人は少女たちの凄みに一瞬戦きながらも負けじと愚痴をこぼした。

「まったく少しは、年長者を敬うということしてもよいと思うのじゃがのう」

白く長く伸びた眉から少女たちの方を覗くと怒りでわなわなと震えている少女が目に入り、いけないものを見てしまったかのようにすぐさま本題に入り始めた。

「うすうす気づいておるじゃろうが、お前たち4人を今この時に呼んだのはわしじゃ。というか必然としてここに現れたともいうかのぅ。お前たちはどうやら特別な存在らしい」

チラッと少女たちの反応を確認したが、一人以外は特に驚いていないようなので、話を続けた。

「お前たちが知る宇宙の広さや構造は知っているかの?」

「ハイハイ!知ってる~!水金地火木土天海冥でーす」

老人はすぐさま答えた少女に正解と言わんばかりに指をさした。

「それは太陽系だけですね。私たちが住んでいる地球は太陽を中心に構成された恒星で天の川銀河に属しています。銀河をいくつかをまとめたのが銀河群ですね。その銀河群をいくつかまとめたものを銀河団と呼んでいます。宇宙は星、系、河、群、団、超、等で大きさを表しています」

老人は髭を撫でうなずき、少女の話を感心しながら聞いている

「ほほう!よく知っておるの~。そこまで分かるのなら理解できるじゃろうて」

岩の上に座していた老人が改めて姿勢を正して座りなおした。

「お前さん方の文化圏ではそこまでの理解がされておるのか。なるほどのう。じゃが、宇宙はもっと広くそして深く単純にできているんじゃ」

「知っていますよ、超銀河や超々銀河ですよね。そして宇宙にはダークマターと呼ばれる物質も存在することも」

「あっそ!じゃ~お前さんの言う超銀河超々銀河の先には何があるのじゃ?また超々超々銀河か?」

「そっそれは…分りません」

メガネの少女は少し俯き言葉を発することをやめ両手を軽く握った。

「お前さんたちの世界はまだ未熟といえ、探究心は素晴らしい。じゃが考えすぎていることも多々あるようじゃな。気づているものはもちろんいるじゃろうが、より理解を深めるために、先ずはこの宇宙は1つの生命(身体)だと捉えて感じてみてくれんかの。その身体という宇宙の中には何垓何京何兆の星がある。更にその星々の何千兆何百兆の更に何百兆の中に一部として我々はその存在するんじゃ。構造は複雑ではあるがいたって単純、自身の中に答えはあるということじゃ。つまり宇宙は人間、人間は宇宙ということ。ここまでの説明で何か気づいた者はいるかの?」

老人は四人の表情を確認し観察しながら問いかけた。

「ということは、私たち自身の中にも宇宙があるということですか?」

「お!するどい、理解が早いのう。まぁ概念的にはそうゆうことになるかのう」

「お前さんたちの言葉をかりて言うのなら、意味は違えぞ深淵を覗くものはまたこちらを覗いているということになるのう」

「なるほど!理解できましたわ」

何が何がと先程から二人の周りをグルグルと回っていた少女が更に???を連発しながら問いかけてきた。

「つまり何なの?人間が宇宙で宇宙が人間?どういうこと?」

「私も理解には程遠い感じなのだけれども、もう少し肉付けして私たちにも理解でいるように話を聞かせてくれないかな?」

蚊帳の外のようにただ聞かせれていたもう一人の少女が、老人と話をして理解を深めている少女とグルグル回っている少女の間に割って入ってきた。

「ごめんなさい。他意はなかったのだけれど、私たちの理解している宇宙の話は皆で最初に話したから分かっていると思うけれど、人類にとって観測できる宇宙はごくわずかで、望遠鏡でみることにはまだまだ限界があるの。分からないことは取り合えずの名称をつけて一度置いといて、理解できるところから解明していこうとしている感じかしら」

「うんうん、それからそれから?」

理解しているとは到底感じられないが、グルグル周っていた少女が目を輝かせてうなずきながら熱心に聞いている。

「そっそうね、続けましょう」

両手を胸元で握りながらウルウルしている少女に少し戸惑いながらも話を再開した。

「先ほど老人が話していた人間の身体が宇宙であると言っていたのは、私たちの世界では概念や過程で話されていることは度々あったの。でも、学術的には何も証明はされてはいないわ。だって身体の中に宇宙があるなんて到底信じられないでしょ」

「確かに信じられない。宇宙は宇宙、身体は身体だもの」

理解を深めようと努めてはいるが、話の全体を捉えるまでは至っていない様子だった。

「身体の中には約60兆個程の細胞があると言われていて、その細胞が身体を構成しているの。細胞1つが私たちで、その細胞が集まったのが社会であったり国家であったり、地球であったりと。その集まったいくつかの惑星が細胞組織として働きを示し、それを個体として捉えたのが銀河といったように考えたいくと身体と宇宙の働きや構成は似ているなのではないかという考えに至るのよ。私たちが身体の体内構造を知ろうとするとき、身体をスキャンしたり電子顕微鏡で調べたりとあらゆる方法で解明しようと試みるでしょ。人間を1つの軸として考えた場合、地球という小さな惑星から宇宙を解明しようと宇宙空間を観察している行為は、私たちの体内構造を解明しようとしている行為と同義であるということになるわ。だから先ほど老人が私たちの知識を引用して例えにした、深淵を覗くものはまたこちらを覗いているという事になるの」

「なるほど、なんとなくだけど理解できたような気がする」

少女のぼんやりとしていた視界がハッキリと世界を捉えたようだった。

「私も理解した!?」

時折寝ているのではないかと思われた少女だが、大きな声で自分も分かっているよと、この場所にいる全員に理解していることをアピールした。

「宇宙は人間ってことでしょ!えへへ、分かりやすい!私の説明!」」

少女の発言にべっ甲メガネを掛けている少女は納得いかない様子だったが、気を取り直し老人の方に目をやるった。

「いいねいいね。その捉え方。一部の理を理解できたということにすると、我々の存在は如何に小さきものであることが分かるじゃろ。と同時にその我々が存在しないと宇宙(人間)も生きてはいけないというのもわかるかの」

理を理解し始めた少女の事か奔放爛漫な少女を指しているのか、べっ甲メガネ少女に言っているのか、はたまた無関心を装っている少女に言っているのかは分からなかったが、老人は満足そうに髭を撫でおろしている。

「で?爺さんそれがどうしたんだ!?え!」

最初は他の少女と同様に悲鳴をあげていたが、状況をある程度把握したのか自身を取り戻した少女は怒りを抑えながら髭を撫でている老人に対し言葉を発した。

「へ?!」

老人はすっとんきょの声をあげた老人に対して少女が捲くし立てる。

「何がへ?!だ!爺さん一体全体どうゆうつもりなんだよ?さっきわしが呼んだとか言っていたよな!どうでもいい話をさっきからダラダラとしやがって、こっちは全然理解も納得もできないんだよ!お前が神かどうかなんて知らないが、私たちをこんなところに勝手に呼んどいて、何がいいねだよ!この後どうすんだ!どうしてくれるんだよ!あ?」

すごみながら老人の肩を掴み長身から発する言葉に思考が追い付かなにのか、まさかそのようなことを言われるとは思いもしなかったのか、思考が停止し地蔵のように固まっている。

「落ち着いてください。この状況を少しでも打開すればと私がご老人の質問に考えを巡らせ時間を費やすしたのですから、この時間はご老人1人のせいではありません。私ももう少し皆さんの気持ちを理解していればもっと堅実的な話が出来たのかもしれませんでした。申し訳ありません」

べっ甲メガネを掛けた少女が頭を下げるのを見た少女は興がそがれたのか落ち着きを取り戻し老人の肩から手を放し一歩出た足を下げ元の位置に戻した後一言発した。

「悪かったな爺さん。でも私たちの意思に関係なくこの場所に連れ込んだのはあんただ!責任はとれよ」

すごみに圧され発する言葉も見つからないまま只々地蔵になっていた老人はハッ?!と

我に返り何事もなかったように話始める

「じじぃてめー」

少女はその老人の態度に少し怒りが戻ったが、先ほどの頭を下げた少女のことが頭によぎり、握りそうになった拳を納めた。

「まぁ色々あったが取り敢えず少し理解が出来たようだから、話を先に進めようかの。改めて言おう!お前達をこの場に呼んだのはわしじゃ、どうしてかと言うとこれからお前たちに行ってもらうことがあるからじゃ。」

「行うこと?な~に?」

いつの間にか老人の足元に体育座りをしていた少女が老人を見上げながら言った

「そうじゃ!行ってもらうことじゃ!それはなぁそれは~……とその前にお前たち今の今まで不思議に思わなかったか?お互い名前もまだ知らんじゃろ?」

老人が少女たちに問いかける。

「あれ?そういえばそうだね?今まだ気が付かなかったよ。ふしぎだね~?」

老人の足元で体育座りしていた少女がふしぎそうに他の少女に向かって、なぁぜなぁぜ?と人差し指を唇につけて説いてきた。

「そうだね!そうだよね?!」

「確かにそうですね」

「よく考えたら皆初めて会ったみたいだったし、私含めて何故普通にしゃべっていたんだ?」

「気が動転していたのだとしても、みんなの存在が普通になっていてしまって鈍感になっていたのかな?」

「それもあると思いますが、意図的に意識を向かないようにしていたということも考えられます」

老人は少女たちが話している様子を相変わらず髭を撫でながら頷き良きかなとみている。

「ひょっとしておじいさんですか?私たちの部分的意識をスルーさせたのは?」

少女たちが一斉に老人をみると、髭を撫でていた老人は杖を地面に一突きして少女たちに言い放つ。

「せーかーい!よくわかったの。わしがお前たちの意識の中から、それぞれの認識を一時的に麻痺させ疑問に思わないようにしたんじゃ、どうじゃ、すごいじゃろ~」

「何のために麻痺させたの?しなければならない理由でもあるということですか?」

「あると言えばあるのう。今から行ってもらうことに関係しているからのう。じゃが、先ずは自己紹介してからのほうが話を進めやすいじゃろうて、ほれ、それぞれ紹介せい」

ほれほれと顎を動かし少女たちに自己紹介をするよう催促した。

「そうだね、それじゃあ私から。名前は瑞原紫音(みずはらしおん)です。16歳です。好きな色は水色、6月生まれ、ふたご座です。よろしくお願いします」

少し気恥しそうにしながらも大きな声で言葉を発した。

「つぎ、次、わたしわたし~」

体育座りをしていた少女がぴょんと立ち上がり両手を振りながら喋りだす。

「え~っと、私は麻生かなめ(あそうかなめ)で~す。歳は15、うお座、好きな色は瑠璃色、それから、3月11日うまれで~、あとは~あ!?そだ!好きな言葉は、いつまでもあると思うな菓子と金です」

「菓子と金?ん?誰かの言葉なの?」

かなめが発した分かるような分からないような言葉に思わず反応してしまった紫音は、その疑問をかなめに聞き直した。

「うん、そうだよ。えらーい、私の言葉なのだ!えーっとね、意味は、お菓子を食べているといつの間にかなくなっていて、お菓子を買って食べているとまたなくなっているのだ。すると不思議なことにお菓子を買うお金が無くなっているのだ。つまりお菓子を食べるとお金が無くなっているのか、お菓子を買ってお菓子を食べるからお金がなくなるのか?ひじょーに難し問題なのだ。つまるところ、お菓子とお金はずーっとはないぞということです。はい。」

話を振ってしまった紫音と二人の少女たちは、かなめが何を言っているのか理解できずにキョトンとしてしまい、その言葉を右から左へと聞き流し何事もなかったように次へと進めてしまった。

「つ、次は私で良いかな?と、その前に良かったよ今の言葉。意味は分からなかったけど耳に残るいいフレーズだった。では、改めまして私の名前は矢次原蓮(ヤツギハラレン)。AB型。生まれは8月25日、星座は、えー、お、おと、おと、おとめ座…です」

蓮は自分の性格からして、おとめ座であることを皆に言う事に抵抗があるらしく、言った言葉にどもってしまい、それがさらに恥ずかしさを増したようで、少し頬を赤らめながら俯いている。

「かっかわいい~!」

三人は一斉に声をそろえて蓮の仕草に反応した。

「かっかわいい?!そんなこと、ないないないない!」

蓮は頬を更に赤らめて両手をうちわ代わりにしてパタパタと扇いでいる。

「そうそう!かわいいのではないのだ!かっこかわいいのだ!略してかっか!今日から蓮ちゃんはかっかね」

かなめが連の周りをかっか!かっか!と蓮の顔を見ながらクルクルと周りはじめる。

「や、やめて~!や、やめろー!]

両手を顔に押し当てながら恥ずかしそうに内またで立ちすくむ。

「かなめその辺で終わりにしてあげて蓮が困っているから」

「え?!なんでなんで?かわいいかっかのこともっと見ていたいのに?」

蓮の周りをクルクルと回っているかなめが少しふしぎそうに紫音を見る。

「だってそんなに見られたら蓮だって恥ずかしいし、自己紹介もまだ済んでいなさそうだから」

「そうなのか~ごめんね気がつかなくて、ごめんちゃぃ」

お座りの格好をしたまま蓮の足先に右手をポンと置いた。蓮はうろたえつつも自分の足元にじゃれている小型犬のような小さいかなめをかわいい、抱きしめたいと思ったが、気が付かれるとまたじゃれてくるのはわかっていたので、グッと堪え自己紹介を再開することにした。

「え~話の続きだけど、趣味は音楽でベースを弾いているよ。地元では少しだけ名前を知ってくれている人もいます。あ?!自慢じゃなくて、音楽が好きってことを分かってほしくて、今度学園祭でライブをやる予定なので良かったら来てください。以上!です。次どうぞ」

蓮は話が終わったことに少しホットしながら、最後の一人へと話を振った。

「4人目は私ですね。先ほどは話を勝手に進めてしまい申し訳ありませんでした。改めて初めましてグレーバー海藤(グレーバーカイドウ)です。10月15日生まれ、星座はてんびん座、A型です。私は癖でついつい物事を考えすぎるきらいあります。突然無口になったり、突然しゃべりだしたりとするようで、知人からはよくない習慣だと注意されています。なので初見の方は、変な人、嫌われているのかな、意味わからないなどと思われがちなようですが、決してそのようなことはなく、私自身は皆さんと仲良く友達になりたいと思っています。あと、よく名前のことで聞かれるので、一応付け加えておくと祖父が外国籍なのでクォーターになります。どうぞよろしくお願い致します」

「かっけ~!いや変な意味ではなくてごめん。純粋に憧れから出てしまったよ。生まれは選べないけどうらやましいよ」

蓮の言葉が終わるや否やかなめが言葉を続けざまに重ねてきた

「グレーバーだからグレープちゃん?フルーツちゃん?グレーちゃんかな?」

かなめのあだ名付けにぞっとしたグレーバーは静かに大丈夫、グレーバーでとかなめをなだめた。

「そう?気に入らない?じゃぁ~もう少し考えて、イイのが浮かんだらグレーバーちゃんに話すね」

かなめは少し不満そうだったが、グレーバーはもし良いあだ名があって私が気に入ったらと提案者のかなめに答えた。

「これで全の紹介が終わったのぅ、おっと!?その前に主役の紹介が終とらんかった」

「しゅやくって、だれだれ?どこにいるの?あ!?わたしたちのことかな?でも、みんなおわったよ?」

かなめは頭をふるふると左右に振り老人が言っている主役を探している。

「わしじゃわし!主役は最後に登場するもんじゃろ!ということはわしはまだ語っておらんからな、ばばんとわしの存在を皆に理解させ、やっぱり私たちとレベルが違うなってことを肌で感じとってもらわんとの」

分かるかな?みんな!と言わんばかりに頷きながら手を腰に当て偉そうに少しのけぞって見せた。

蓮はわなわなと身体を震わせ開いていた手の平をぐっと握り拳に変え、じじーと言いかけたところで、グレーバーは素早く言葉を滑らせ蓮が行動に出る前に二人の間に入り込んだ。

「はいはい分かりました。ある意味私たちの今の状況を作った本人なのですから、この際きちんと紹介を含めすべてを是非さらけ出していただきましょう」

「ほっほっほ、良い心がけじゃ!わしの事が知りたいだろう。さぞそう願っておるのじゃろう!よしよし、いい子たちじゃな。先ほどは少し呼んだことを後悔するところじゃったが、ではでは」

蓮は握った拳にさらに力込めグレーバーをキッと睨みつける。それを見たグレーバーは肝を冷やしながら、まあまあ、ね、ね、とここは私に任せてと蓮をなんとかなだめ、取り敢えず話が進むように取り繕った

「え~わしは、お前たちが言うところの神じゃ!厳密には神的な存在じゃがの」

「へ~神様だったのかぁ?なら一瞬の内に私たちをこんなへんぴなところに連れて来たのも納得だね」

かなめは上半身を屈め人差し指を下唇に当てながらフムフムといった感じで納得しているようであった。

「フムフムじゃなーい!納得してどうする。私はどうしてここにいるのかを聞くためにじじーの戯言を含めひじょーに納得はしていないが我慢しているんだ。ここで神様かーって終わらせられないでしょ」

「た、たしかに!?だまされそうになったよ~。あぶない、あぶない。じーじ、はなしを続けるのだー」

「あーはいはい。先ほどメガネっちゃが話をしたように宇宙は1つの生命体なのじゃよ。もっと言えば、お前さんやお前さん、メガネっちゃの中にも宇宙が存在し、その身体の内側から宇宙を見て、わぁー宇宙ってどんだけ広いんだろうと見上げているのじゃ」

メガネっちゃと言われたグレーバーは、ネジが一本ん飛んだ魔法使いの様な呼ばれ方に不服であったが、そのことを言い始めてしまうと話が進まないことは分かっていたので、言いたい気持ちをグッと抑えて、神と名乗る老人の話の続きを黙って聞くことにした。

「それって、宇宙は1つじゃないってこで、神様はこの宇宙どころか沢山ある宇宙のすべての神ってことなの?」

今まで話を静観していた紫音が神の言葉に反応した。

「そ、それな~、せ~か~い~ではない。惜しい及第点じゃな。お前たちがクエクトより更に小さな存在なんじゃが、ワシは臓器の中でいうところの心臓という存在になるかのう。つまり宇宙という生命体の中では脳の次ぐ第2位の存在ということになる」

「クエクト?なにそれ?」

「なんじゃそんなことも学んでいないのか?うーん、メガネっちゃは分かるか?説明できる範囲でいいから話をしてやれ」

「理解している範囲でいいんですね。分かりました。クエクトとは単位の事ですね。私たちが学んだもので㎝とかは長さを測るときに使っているでしょ。クエクトはそれと一緒で大きさ小ささを用いるときに使うものですね。私たちが肉眼で見えるものは、せいぜいミリぐらいまでで、それ以上小さいものは電子顕微鏡などを用いて確認しています。神様が言われたクエクトは確認されている限りで一番小さい単位としての名称になりますね。つまり、神様が言いたいことは、私たちは目で見えないほど小さい存在であるということが言いたいのだと思います」

「まあそうじゃの、その小さきものが心臓や他の器官、身体自体を想像してみぃ途方もなく大きな存在で、お前さんたちの小さな眼から見たらもう何かわからんじゃろ。まさに宇宙を見ているよじゃとな。この宇宙において、ワシの上にはさらなる上位種が存在しており、わしらの宇宙の他にもまた宇宙が存在している。ワシはそんな宇宙の一つを管理している存在にすぎんのじゃ」

「私たちが見ているこの宇宙は、沢山ある宇宙の一つに過ぎないということなの?それは凄いということを通り越して凄すぎて、何だかワクワクしてくるような話ですね」

紫音は神様が話した事を妙に納得した様で、内から湧き上がる感情をどう抑えようかと考えている。かなめの方はやっぱり何を言っているのか分からず目をパチクリして、それでそれでを繰り返している。

「ワクワクではなくて、真実で理なんじゃがのぅ。まぁともかく、お前たちは宇宙という身体の中に存在している気にも留めない存在から、注視していかないといけない存在に変わろうとしておる。お前たち人類が観測できている限りで言うと、ワシやお前たちがこの宇宙に誕生してからおおよそ138億年が経ち、お前たちが存在している星は約46億年ほど経つのじゃが、この度お前たちはこの宇宙に強い影響を及ぼす癌であるのではないかという疑念が生じておるのじゃ」

「癌ってあの癌細胞のことですか?」

「そうそう、総称としてのじゃが、癌細胞と同じぐらい厄介な存在ということじゃな。宇宙からしてみればでみじんも感じないものなのに、宇宙を蝕む非常に厄介で憎むべき害になろうとしているのがお前たちという訳じゃ」

「私たちがその癌細胞で宇宙に何かをするようなことになるってことなの?」

「うーん、ちょと違うがお前の理解ではそうじゃのう合っているかのう」

紫音は即座に神の言葉に反応した。

「そんな、そんな厄介な存在じゃないよ。だって私たちはただの一人の人間だよ。こんなに広い宇宙なら、私たちが及ぼす影響なんてな考えられないし、ここにいるみんなが何か悪いこと考えているなんて到底思えないよ。私たちは善行しかしないとは言わないけれど、さっき自己紹介をしたとき皆いい人だったよ。1人1人が正しいと思うことを日々しているはずだよ。きちんと立っているよ」

神が言う癌細胞自体が何なのかを理解はしていないが、自分を含めここにいる四人を否定されているように感じた紫音は表情を少し硬くしながら、熱の入った言葉で神が話していることを否定しようとした。

「私たちが悪行をするかしないかは別として、神様が言うことには一概に間違っているということはないと思います」

腕を組み左手の指を顎の下にあて思考しながら聞いていたグレーバーが話始めた。

「どういうこと?!先ほどお髭の神様は私たちは非常に小さい存在と言っていたよ。そんな存在が無限に広がる宇宙に影響を及ぼすなんてあるわけないじゃない」

神の言葉を肯定しようとしてきているように感じた紫音はグレーバーの発した言葉にかぶせるように自分たちはそのような存在ではないと強く主張した。

「紫音や私、ほかの2人を否定しようなんて思ってはいないわ。ただ、仮説の話をさせてほいいの。私たちの身体の中では、癌細胞と言われているものは日々作られているの。正常に身体の流れが作れている人なら、その必要のない細胞は体外へと排出することができるわ。でも身体の中に不必要な細胞が残ってしまうと、やがてその細胞が身体への影響を及ぼす細胞へと変化してゆくの。それが分裂を繰り返して増殖していき、やがて癌細胞と呼ばれるものに変化していってしまうの。私たち人間の身体の中でそのような悪いものが毎日毎日何年と作られていっているなんて知識があれば別として、そのようなものを感じることできる?死に刻々と近づいていているなんて実感して生きている人間なんていないわ。先ほど神が言っていたこの宇宙が1つの身体として捉えるならば、私たち小さき存在が癌細胞のように増殖して、宇宙にとって弊害になるようなもであると認定されたってことになるわ」

「まぁメガネっちゃが言うことがほぼほぼ正しいかのう。お前たちが直接宇宙を壊すということではないが、少しずつ宇宙を蝕むような存在が増殖していることは視認しておる。これから先、ビックバン並みに増殖する可能性を秘めているんじゃが、そのトリガーになるかもしれないのがお前たちの存在なんじゃよ。1つ1つは微々たるものでも、それが何千億何千兆と分裂、増殖され続けられては流石に宇宙もダメージを受けるのじゃよ」

二人の話を聞いていた紫音は無言になり、一瞬静寂が生まれ時が止まったかかのようだったが、かなめがそれを打ち破り明るく大きな声で話始めた。

「138億年?46億年?癌?う~ん???わからないのだ。でもそうなのかー。そうなんだね。あたしたちが意識しようが意識しなかろうが、うちゅうっちに迷惑を掛けてしまうのかー。でも、でも、なら何故神様は私たちをここに呼んでいるの?あれ?あれあれあれ?!ひょっとして私たちを消すために呼んだのか!いやだ~消されたくはないのだ~!」

かなめは神に向かい両手両足を上下させバタバタしながらぷんぷんと怒った。

「ワシはお前たちを無に帰するとは言っておらんじゃろ。ただ、厄介なものだとは思っておるが。いいかよく聞け、お前たちが言う宇宙が誕生したときから92億年程経ったとき、宇宙が腹を下してのぅ、ワシは良かれと思って下痢止めを作ったんじゃが、それがそもそもの始まりじゃ。今までも何度となく作っておったから大丈夫だと思ってたんじゃがそれがいけなかった。慢心しておったんじゃなー。それがお前たちの星でいう処のアダムとイブじゃ」

「うそーうそうそうそー!?うそでしょー!」

神の話を黙って聞いていた蓮が突然大声を出し、両肩強張らせ両腕をピーンと伸ばし、信じられないといった形相で顔の可動域すべてを引きつらせ、これ以上できないだろうと思えるほどおでこにしわを寄せている。

「お、おい、それは真実なのか?じじー!嘘なんだよな?神と言ってもお前みたいなじじーが言うことは戯言になるんだよな?そうだろ?じじー!」

「じじーじじーいうな!戯け者が!じじーじゃない!神じゃ神様じゃ、まったくふてぶてしい奴じゃ。本当じゃ、お前たちが言う処の神が言っておるんだから真実に決まっておろうが」

神は目を見開き持っている杖を岩に何度も突きながらプンプンと怒っている。

「嘘だろ、このじじーが創造主でその創造主が作った下痢止め薬がアダムとイブ?」

あまりにもショックだったのか膝から地面に倒れながらうなだれ、両腕を頭のこめかみに付けブツブツと言い始めた。蓮の家庭は敬虔なクリスチャンとまでとは言わなまでも信仰心は持っていた。幼少期の頃は寝入りばなに父母が聖書の話をしてくれていた。そのこともあり、神の存在も旧約聖書も信じていたし、これからもその教えに恥じない生き方ができればと思っていた。だがしかし、こともあろうか今ここにいるじじーが神であり、そのクソ神が言うことが真実であるということを聞かされては信仰心が揺らぐ衝撃を受けてしまう。嘘だとは思いたいが、今いる状況を鑑みて、それを否定できるようなものも存在しない。やはりそれは本当なのだろうと心の中の自分がつぶやいているがわかる。蓮の中でただただ己の信仰が瓦解していく音だけが心の中に響いている。

「ま、まあ、信じる対象は人それぞれですし、すぐに受けいられなくともいいと思うの。蓮は落ち着いたら話に参加して頂ければいいですから」

神様も何もこのタイミングで信仰心を疑わせるような話を入れてこなくてもないいのにと思いつつ軽く咳ばらいをし、ショックを受けている蓮をかばいながらも神に話を続けるように促した。

「腹下しはまぁ治まったようじゃが。アダムとイブの効果のおかげじゃろうて、よくやったというべきかのう」

神はブツブツと呟きながら、結果よくやったと自分自身を肯定しているようである。

「自分を賞賛しているところ申し訳ないのですが、天地創造と私たちがここにいることとの関係はどう繋がっているのですか?」

「おお!そうじゃったの。お前さん達の惑星のそばにブラックホールがあるんじゃが、それがごみを外に出す役割を果たしておるんじゃがのう、どうも異物が残ってしまいアダムとイブとともに惑星に留まってしまったんじゃ。ワシはそれを一掃してしまおうかと思たんじゃが、アダムとイブが偉く気に入ってしまってのう、腹下し成功の褒美としてその惑星をテラフォーミングしたのじゃ。先ほども言ったがそれがお前たち人類になるのじゃ。

しかしそれがいけなかったのかもしれん。人類は次々と進化していき、その種を瞬く間に増やしていってのう。アダムもイブも望んだことでもあるし喜ばしいことではあった。だからワシは管理者としてお前たちを観測することにしたんじゃ。そしてある時ふと気づいたんじゃが、人類の遺伝子情報の中でお前たち四人だけが元始と変わらない魂を持ち続け存在していたんじゃよ。人間は生を得、活動し、やがて新たなる生命を育み老いて死という概念で身体は土に還る。魂は宇宙意識の集合体に吸収され、やがて誰かの意識として生を得るという循環を繰り返しておる。生を受けた人間は環境や生き方など少しずつ魂の記憶としてDNAを引き継づけ進化し続けるんじゃ。だが、お前たちはまったく同じ魂の根源を引継ぎ13333333回生まれ変わっておるんじゃ。そんなことあってはいかんのよ。

「どうして?どうして?あたしはあたしだし、生まれ変わってもずっとあたしなのは当然なのだ。おかしいことはぜんぜんないのだ。頭だいじょうぶか神様?それにどうして褒美?あたしもおなか痛くなるのだ。ぽんぽん下してご褒美くれるか?ずるいぞそんなんで。だったらあたしもたくさん痛くするからご褒美いーっぱいほしいのだー!」

「宇宙が腹こわしたら巨大なブラックホールが形成され予想外に周りのものをすべて排出してしまうんじゃ!こちらも排出されたあちらも大忙しなるじゃろ!ええい!お前と話しておると頭が変になってくる。その辺はメガネっちゃが話をしてくれるから大丈夫じゃ!お前はワシの膝にでも座っておれ」

神は石段に腰をおろし、ほれほれとかなめを膝の上に乗せた。かなめはほっぺたをこれ以上膨らませられないだろうというぐらいに大きくし、ブーと言いながら納得していないようだった。

「うーん、でもまぁいっか。じーじー膝の上しっくりくるし気持ちいいから、これがご褒美として今回は我慢するのだ。でも、まだまだ沢山もらうからね」

とりあえずは納得したようで神の膝で猫のように丸まり始めた。

「も、もう話を進めてもいいかしら。2度目ですが私の理解した範囲で話させていただきますと、神様がここで言う人間の遺伝子情報とは、私たちが知るようなそれぞれの種が持つ設計図とは少し違うように感じました。人間は人間のハエにはハエの遺伝子情報があります。私が勉強した程度で申し訳ないのですが、遺伝子情報が大きく何かに変わるというのは今のところありません。ですので、多くの人間は死という概念を持っています。生きとし生けるものが持っている細胞が終わりを迎えることで死が確定します。

そのことを踏まえて神様の言葉を聞いている限り、私たち文明での死とは異なり、書物や考え方、価値観などで存在する生まれ変わり、つまり輪廻転生があると聞こえてくるのです。拙い知識で言うのもあれですが、もし生まれ変わりがあったとしても生まれ変りで同じ人間にはなりません。某国がクローン技術を用いり遺伝子クローンを作ったそうですが、それはあくまで同じ生体を作ったにすぎず、環境や体験などから得られる経験値、成功や失敗から学ぶ成長力、回避力、人間としての感情、喜怒哀楽などを学んでいないからです。つまり記憶、性格まではコピーできないので、同一の人間にはなりえないのです。

「って言うことは、一卵性の双子は同じ遺伝子を持っているなんて言うけど、それも違う遺伝子ってことになるの?もちろん性格や経験を足すことなどは別として」

「そうですね。一卵性と言っても百パーセント同じではありませんね。似ているということにはなります。人間という遺伝子情報は変わりませんが、おじいちゃんやおばあちゃん、お父さんお母さんなどの情報を受け継いだ子孫はDNAのどこかに影響をうけ、生活して行くうちに似てくることはあると思います。つまり似ているのです」

「なるほど、似ている人はたくさんいるけど、どれも同じではないんだね。それが育った環境によってそれぞれ形成された性格が加わって一人の人格者になるとということだね」

「正解です。私たちの価値観からしてみれば、同じ人間は存在せず、血を受け継いだ人、一族が脈略と続く子孫達へのその思い、血を引き継いでいくとなります。それが概念で言うところの生まれ変わりになるのかもしれません。神様が言う魂が回りまわって人間に生まれ変わり、進化していくとうことと私たちの一般的な概念のものとは違うということになります」

「魂が意識の集合体に吸収され誰かの意識として生を得るって神様が言ってた。私のあったらいいなーと思っている生まれ変わりと違っていたからよく覚えているよ。ちなみに私が生まれ変わるときは、やっぱり一番好きな人が空飛ぶ馬で迎えに来てくれて、一緒に飛んでいくんだ~。それでそれでね。てへへ~」

紫音は赤らんだ頬に両手を当て身体をくねくねしながら、声は徐々に小さくなっていく。

「そ、そうですね。ゴホン、それぞれ生まれ変わりはの考え方は違うと思いますが、ここで問題なのは私達の世界の創造主が魂の昇華、生まれ変わる過程までも述べているということです。アダムとイブの話やブラックホールの話などが神が話すそのことが事実であり全てということになります」

「そうすると私もだけど、疑っている神様はやはり私たちのイメージの中に存在する神様であるということだよねグレーバーが言うには」

「そうです。この宇宙において第2位の存在の神様が言うのであれば、宇宙自体は生命で、成長し続け、この宇宙の外にも宇宙が存在し、その宇宙もまた他の宇宙にも宇宙があり、私たちの想像もできないくらい無限につながっているのでしょう。その神様が今回、私たち四人をこのどこかに呼び出し、存在を証しこのような話をしなければならないのは、よほどのことなのだと思います」

「あー?!さっき言っていた一千万回以上も元始と変わらず存在しているという話だね」

「そう、あってはならない想定外の事が起きた。例えば因果律、輪廻の外側の存在になっているとかかしら。神様と対話していて気づいたというか思ったことがあるの。この世界は神によって予定調和があり、ルールが存在しており、そのルールに基づいて神様は動いている様な気がするわ」

グレーバーは自分の考えを言い終えると神様の方へ視線を向けた。

「確かにワシはワシ以上の存在のルールにしたがっておる。そのルールにそぐわないことが起きた場合は、修正して破損個所は修復しなければならなんのよ」

「やはり私たちは因果の外側の存在になっているということですか?」

「まぁそうじゃの。その言い方が正しいかは別として、お前たちはこの宇宙にとって異質な存在であることは確かじゃな。なので、ワシはお前たちをここへ呼び出し、今から意識、魂の統合統一を測らねばならん」

「統合統一とは?」

「お前たちはどうやら一つの魂でのう、先ほども話したが、そのようなことはあってはならんのよ。今はまだお前たち4人だけだが、今後同じ魂が無数に存在してしてしまうと、この宇宙に同じ宇宙が存在してしまっても良いことになってしまう。そういうイレギュラーは退場してもらわんといかんのじゃ」

先ほどまで絶望していた蓮が神の座っている石段に片足を“どん”と乗せ怒りに任せ神に食って掛かってくる。

「じゃあ何か?宇宙のために俺たちを全員殺して“ウ〇コ”をピーとやって、はーっとか言ってすっきりってことか?このやろー!」

「話をよく聞けバカ者が!お前たちをウ〇コにしてやるとは言っとらんし、消すとも言ってらんじゃろ。統合統一じゃ」

「東郷東一?ハー!?何言ってんだじーさん!意味の分からねーこと言いやがって、ボケが進んでるんだろ?はいはい、おじーちゃん、トイレはあっちだよー」

「何じゃと!ワシを愚弄するのか!」

「愚弄だって。はっ?!いつの時代だよ。今時そんな言葉使わねってーの!」

「ぐぬぬぬぬ!」

「ぎゃははは!ぐぬぬぬっだって」

「ワシを怒らせると、凄いことが起きるぞ!」

「あー?ハイハイ分かった分かった。すごいすごい。じじーは早く墓に入って眠って起きてくんなってーの」

口喧嘩では勝てぬ神は、次何か発したら泣いてしまうと思わんばかりに身体をプルプルと震わせている。

「だいたい神だなんて他の三人が信じても俺はみとめねーから!じじいが!」

「すとーっぷ!蓮、その辺でやめておいて!神様をもう少し労わってあげて。かわいそうでしょ、高齢者をいじめたら」

紫音が二人の間に割って入る。

「そうじゃそうじゃ、少しは年長者を敬え、でもワシ、老人じゃなくて神様なんじゃがのぅぅ」

高齢者という言葉に反応したのか、神様が消え入りそうな声で蓮に抵抗する。

「あ!?なんだウ〇コ!」

「ワシはウ〇コじゃぁ~な~い」

蓮と神が怒鳴りあいをしているその脇で、静観していたグレーバーが少し恥ずかしそうに咳払いをした後に訂正するように話し出す。

「蓮、あ、あのね、た、多分だけど、神様は私たちを殺すようなまねはしないと思うの。

もし神様が私たちを消してしまおうと思っているのなら、何も4人をこのような訳の分からない場所に呼んだりしないわ。そもそも殺すのならすぐできるでしょ」

「あ?分かんないだろ、この質の悪いじじーならやりかねねーよ」

「質がわるかろーとやらないのものはやらないわ」

「け!?そんなもんかね」

連は納得はせず怪訝そうに答える。

「そうじゃそうじゃ、そんな野蛮なことやらんもんね」

「なんだと!じじー」

「まぁまぁそのくらいにしておいて話を進めましょう」

犬猿の仲の二人をグレーバーがなだめる。

「とにかく、物騒な話ですが私たちを殺すなんてことはしません。その前提条件の上で話を進めると、私たちでなければ出来ないことがあるということになります。統合統一というのは魂のことを指しているのだと思います。そういった意味で私たちは一つの存在にならなければならず、魂の共有化を図り私が他の3人、他の3人が私といったように並列化がなされるべきと神様は考えたのだと思います」

「なぜそんなことしないといけないの?」

「先ほど同じ人は1人として存在しないというお話をしましたが、そのルールがないと宇宙が壊れてしまうということです。ひいては生きとし生けるものが存在できなくなってしますので、みーんな死んでしまうということになるからです」

「でもよ、俺たちがいる宇宙の他にも沢山宇宙はあるんだろ?なら大したことじゃないじゃん。1つ宇宙が増えるだけなんだし?」

「例えばだけど、蓮が目の前にある饅頭を食べました、食べた饅頭はなくなるでしょ?」

「うん」

「でも、饅頭を食べたその瞬間に饅頭が当たり前のようにそこにいあり、その饅頭を食べる蓮が存在し、その饅頭を食べる蓮と食べた蓮が同時に存在し、食べた蓮と食べる蓮が沢山その場所に出現し続けてしまうとしたらどう?」

「おいおい、それは困るだろ!俺が沢山いるのは」

「そうでしょ、それをどうにかするために神様が出した答えが私たちの魂を1人の人間にしようということなの」

グレーバーが話を言い終えると神は丸くなっているかなめを膝からおろし、スッと立ち上がった。

「しかしめがねっちゃは神以上に神らしい言葉を発するのがうまいのう。みんなが理解できるように話す、なかなか出来ないことじゃ。さて、お前たちをなかったことにすることは簡単じゃ。だが、何度滅ぼそうとも再び再生して生存し続けるじゃろう。なので、ワシはめがねっちゃが言うようにお前たちを1つに統合することに決めたのじゃ。ただ、ワシも鬼ではない。統合先をお前たちで競わせ納得した形で魂の統合をすることにしたんじゃ」

「おいおい、したんじゃ!じゃねーだろじじー。結局は同じじゃんかよ。俺たちの誰かを残して後は殺すってことだろ?」

「神様が言うことはなんとなくわかるけど、宇宙が生まれてから神様が管理者として色々見てきていた中で私たちみたいな存在は何度もあったんでしょ?」

「もちろんあったよ。バグというものがな」

「バグ?何かのいきものか食べるもの?」

「ちょっと違うかな。バグとは不具合という意味でよく使われるのですが、神様が度々修復してきたと言ってきたものがバグということになるのでないかしら」

「そうなんだね。修復できるんだ。なら、神様の力で私達を正常なものに修正だってできるでしょ」

「確かにな。できるものならそうしてやりたいが、そうはいかんのじゃ。宇宙には常にバグが発生しておってのぅ、それをプチプチーとなワシの凄い力で皆に頼んで処理してもらっているのよ。しかしお前たちはバグとは違いその外側にいる存在。神の言葉、処理がが届かないんじゃ。なのでワシはお前たちを癌と表してアプローチを変えることにしたんじゃ。理解してくれとは無論言わん。これは決定事項であり、神、宇宙の意思、変えることはできん」

「そうか~決定か~。この世界と私たちを天秤に掛けるなんて神様もずるいね。素直に頼むと言ってくれれば喜んで私はその試練を受け入れるのに…。でも、私は私も世界もかなめも蓮もグレーバーも皆がいる世界を望むよ。そのために神様のいう決定事項に抗いながら神様が作ろうとしている世界に挑むよ」

紫音は強い意志を改めて確認して神の前に一歩躍り出た。

「いいよ分かったよ。四の五の言っても仕方がない。受け入れてやる。ただし、じじーお前のためにじゃねぇ、生きとし生けるもののためだ。あと、お前が決めたんじゃねー私が私の意思で決めたことだ。そのことを忘れるなよ」

「私であって私ではなく、誰かであって誰でもない存在…。全ての人類を守れるのなら私は神様の案に抗わないことにしたいと思うわ」

蓮もグレーバーも強い意志で一歩前に出た。

「ここに在ってここになく、ここになくてここにあるかぁなるほど!よくわからないけど、人の体に入ってみたいと思っていのだ。僕はぜんぜんいいのだ」

かなめはよくわからないと言いつつも深い理解をしているようで、瞳の奥には全てを見通している意思を感じとれる。

「ありがとうのう。皆良い目をしておるわ。良いかお前たち、ワシは管理者としてただ静観するだけじゃ。ここから先はお前たちの人生、ワシは関与できん。次ワシと会う時は統合統一されたときになる。では、これから新しく生まれ変わるお前たちに性別や年齢、容姿、職業など希望があればそのように整えてやろう。何か希望はあるか?」

「そうと決まったら、切り替えて行こうじゃねーか。私は男になってみたい。女も魅力的だが、生まれ変われるのなら一度は経験したいもんな。筋肉質でキュッとしまった身体のカッコいいのがいいな」

「はいはい、はーい!僕はボンキュッボンな身体で特におっぱいが大きい魔法使い!」

「はいはい、グラマラスな魔法使いね。お前が想像しているような魔法はないんじゃが分かった」

「私はお姫様がいいな。もちろん容姿端麗ね」

「ちょっと書くから。容姿端麗っと。最後はお前じゃな」

「私は今の私が良いです。容姿はほどほどであれば良いです。性別は問いません。あまり興味ありませんので」

「つまり、今まで得てきた知見つまり知識が欲しいということじゃな」

四人それぞれの意向を聞いた神はきちんと生まれ変わりノートに書き込んだ。

「このくらいでよいじゃろ。それぞれの希望を聞いていると無限に湧いてきそうじゃからの」

神はノートを閉じると四人の前に緑色の地面が透けて見えるモニターを開いた。

「これがお前たちが運ばれる世界じゃ」

モニターには世界地図が開いており、中央には巨大な柱のようなものがあり、その柱を囲むように六つの大陸が記されている。

「なにこれ?面白い。モニターなのに地面が透けて見えるよ」

「未来もにたーだ」

「私達の世界でも同じような技術は存在するけれど、ここまで薄く作られているモニターはまだ世に発表されてはいませんね」

「注目するのはそこじゃないんだけどね。そのようなことより、モニターに映し出されている世界地図を見るのじゃ」

「あーはいはい、ごめんなさい」

もう一度モニターに映し出されている地図に注目するよう神が言うと四人は不思議そうに神に質問を投げかける。

「この地図は私達の知っている世界地図と違いますね」

「うむ、見たこともないのだ。この柱はなんなのだ?」

かなめが地図に映し出されてる塔のような部分を指さす。

「これはな、お前たちの誰かが到達せねばならぬ中央大陸リヒトの塔じゃ。この塔に最初に到達したものが魂の統合統一者ということになる」

「つまり俺たちの目指すゴールって事になるのか」

「そうだね…。私達がいなくなる場所ということだね……」

紫音は少し暗い顔をしながら言葉を発した。

「別に私達の意識が消されるわけではなく1つにまとまるという事ですし、新しい感覚の共有が始まるのですし、今この瞬間に感じる感覚が失われることは残念、ですが…」

話をしているグレーバー自身の言葉のトーンも徐々に鈍ってくる

「ははは、君たちは何か勘違いをしてないか?僕たちはこれから世界を守るために自らの意思で苦難を受け入れ乗り越えていこうとしているのだ。何も死に行くわけではないのだ。僕たちが特別な人間で神様さえも殺せない存在なら僕たちが世界を救いここにいる僕を含め四人の生存理由も見つかるかもしれないのだ」

かなめがえらくまともなことを言っていることに少し驚いたが、その振り幅がみんなを勇気づけた。

「そうだよね。そうだよ、私達が生きる理由を見つけるために、これからの世界に生まれ変わるんだもね」

「そうですよね。私達、私達ではならいものがあるのなら、そこに向かっていけば良いのですものね」

「お前たち、やっと分かったか。俺は最初から知っていたけどな」

蓮の最後の言葉に皆がはい、はい、分かりましたと安堵交じりのため息をついたところで、神からの言葉が発せられた。

「色々と思うこともあるだろうが、ここに映し出されている大陸がお前たちを送る世界じゃ。今から六つの大陸を1人ずつ選んでいき、選定が終わったらお前たちとはこれが最後になるじゃろう」

「六つ大陸のどれを選んでもいいの?」

「うむ、ただし一度選んだものものは変更が効かんぞ。それと選んだ大陸は他の者は選択できないから順番をきちんと決めたほうが良いぞ」

「それぞれの大陸の特徴はありますか?」

「それは教えられん。ひいきになるからな」

「では、大陸は構いません。地図上に無数の大小さい粒のようなものがありますがこれは島か何かですか?」

「そうじゃ。中央大陸にそびえ立つリヒトの塔と六大陸の周りには数万にも及ぶ島が点在しておる。また、この世界は海に囲まれておるのじゃが、それぞれ、無数の炎柱が乱立している炎の海、強烈な酸で出来ている酸の海、巨大な竜巻がうねりを挙げている嵐の海、入ったものは抗うこともできない底なしの泥の海、数万度にもなるレーザーの雨が降り注ぐ光の海、光さえも飲み込み大気も存在しない闇の海で出来ておる」

「ひぇーそれじゃあ、大陸からは出られないのかよ」

「そうとも限らないかもしれません。数万もの大小の島々が存在するのならば、他の大陸にも行き交うことのできる方法があると思います」

「おおう、よう分かったのう。これは中央大陸リヒトの塔攻略のためのヒントの一つとして伝えようと思っておったことじゃが、一定のルールをクリアすると、それぞれの大陸から大小の島に行き交うことは可能じゃ。渡った島に得られる意味のあるものがあったり、ただの通過点にしかならぬ島があったりと様々じゃ。ただし、六大陸から中央大陸へ渡ることのできるルートは一つだけじゃ」

「なんだ渡れんのかよじじー。まどろっこしいことすんなよ。そんなのお前の力でどーにでも出来るんじゃねーのかよ。わかった?!いじめだろいじめ!やらしーな最近のじじはよー」

「なんじゃと!試練じゃ試練!最近の若いもんは苦労を買ってでもしようとはしない。そんなんじゃ喜びを得られんじゃろが!」

「なんだと、じじー!」

「ストーップ!いい加減にしてください2人とも」

「なんで、わしが」

「なんで、俺もなんだよ」

「わし、神様なん」

「いいから、終わり!」

グレーバーからお叱りを受けた二人は“なんで?!”と思いつつ怒られてしゅんとしている。

「最後に2つ程質問があるのですが」

「なんじゃ、答えられる質問であれば構わんよ」

「では最初の質問です。生物が接種することができる水や酸素、大気はこの世界にあるのですか?」

「何故そう思う?」

「東西南北と、これだけ気候変動が激しい世界は私が理解してきた大気構造とは明らかに違います。宇宙は広いのですから私達が知らないだけで、このような惑星はあるのかもしれません。ですが、神様が私達を送りだし争いさせる世界にしては環境としてあまりにも生存していくことは難しいように感じます。これでは、誰かを選定させるためというよりは、無限にこの惑星に閉じ込めようとしているのではないかと疑ってしまいます」

「つまり、これから送り出される惑星でお前たちや他の人類が生存できないような場所にワシが転送するんじゃないかと心配しておるのじゃな?」

「はい。そう思いました」

「安心せい。太陽もあるし水や空気もある。お前たちが生きている世界とそう変わりはないじゃろうて。ただし成層圏や大気圏などは存在せん。上空は地上から666Mしかない世界じゃ。じゃから、空を飛ぶことが出来たとしても、これだけ色々な海が存在するんじゃ、大気の影響を受けるじゃろうて、とてもではないがずっと空を飛び続けることはできんがな」

「わかりました。限定はされるものの私達が生存していくのには不都合ではないということですね」

「そうじゃ、問題がないようであれば次の質問を聞こうかのう」

「では、島に渡った時に得られる意味のあるものとは何ですか?」

「ほんと、お前さんはよく気が付くのう。それはなぁ知恵じゃ」

「知恵ですか。それは個人のというより国家のレベルが上がるということですね」

「どうして突然個人じゃなく国家とわかるの?」

「それは私達を大陸ごとに分けて戦わせようとしていることや六大陸の文化や産業、制度や民度、専制主義なのか民主主義なのかを教えてはもらえないこと。一定の条件をクリアしないと渡れない島ということなどから推察できます。これは個人でどうこうできるレベルではないはずです。その知恵を得ると産業革命のようなことが起きるのではないでしょうか」

「む、むむむ」

核心を突く質問に口をつぐむ神を見て理解したグレーバは理解することにした。

「そうなのですね。わかりました」

「わかって?」

「このことは皆に知ってもらわないといけませんね。知る権利があるのですから」

グレーバーは神との会話で得た情報を皆が分かるように読解しながら伝えた。

「そっか、なるほどね。ありがとうグレーバーちゃん。助かったよ。少しでもこれから挑む世界の事が知れてよかったよ」

「あんたー大した女だよ。ウンウン」

「しかしすげーな空に限りがあるなんてよ。空ってずっと続いているもんかと思っていたよ」

「じゃ、じゃあ蓮の宇宙はどこからなの?」

「そんなの空をずーっと行っているとパッと宇宙になんだよ」

そっそうだね、はははと冷や汗を垂らしながらす紫音とグレーバーは見合った。

「六大陸の文化や産業、制度や民度、専制主義なのか民主主義なのか何もわからないんだね。馴染みのある文化などが知れれば助かったんだけど。どうやって順番を決めて大陸を選ぼうか?」

「よし、じゃんけんだな。じゃんけんで決めようぜ。一番公平だしな」

四人は簡単に話し合いをした後じゃんけんで順番を決めた。

「一番手は誰になったのじゃ?」

「はいはーいあたしからでーす。あたしは地図の左下にあるトスタニアにきーめた」

「次は私ね。えーと、じゃぁここにする」

紫音は地図の右下にあるニーアを指さし転生先の大陸を選んだ。

「俺は右上にあるアメリアにするよ」

「最後は私でですね。私は左上にあるアーシアにします」

四人は希望する六大陸を順番に指さした。そして新たなる世界と自分に意気軒昂し期待と不安が交錯しながらも

神の前に正立した。

「ワシや他の者の決定事項じゃが、四人には申し訳ないことをしておる。ワシはお前たちが思い描いておるような全知全能の神ではないが、ワシができることは特例としてやったつもりじゃ。ワシはお前たちの神と言う名を冠して見守っていこう。お前たち四人い幸在らんことを」

神が最後の言葉を言い終えると、四人それぞれの傍らに金色に輝く長い髪にキトンを纏い背中には白い羽を持つ女性が現れ、四人の周りに薄いベールで覆ったような白い雲と共に姿が消えていく。

「ありがとう。神様。行ってくるね」

消えゆく言葉を聞いた神は、白く伸びた髭を撫でおろし手に握った樫木の杖を足元の岩場にカツンと叩き響かせた。

「伝え言えなんだが、お前たちの記憶は新世界に降り立つと同時に消えてしまう。ワシにとっては寂しく思い、お前たちにとっては辛く厳しく悲しくある苦難になるかもしれん。ワシはお前たちの行く末を見続けることにするよ」

神は煌々と光る美しい惑星を見ながら話し終えると神の姿はなく、無限に広がってゆく宇宙と心拍のような音だけが静かに響いていた。

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