グラス王国の記録

竜田くれは

グラス王国の眼鏡記録

 この大陸で最も繁栄している王国、グラス。この国では老若男女問わず全ての国民が眼鏡をかけている。平民に貴族、聖職者から王族に至るまで貧富貴賤を問わず眼鏡を身につけている。王都から地方の村々全ての地域に眼鏡店があり、銅像にも眼鏡がかけられていて、橋の多くは眼鏡橋。だが、国民の手にする眼鏡のほとんどが視力矯正を目的とした眼鏡ではなく、お洒落ファッションを目的とした伊達眼鏡である。医療が発達したこの国において矯正、補正が必要なほど視力が落ちている者は数少ない。では何故、これ程までにこの王国で眼鏡文化が広まっているのだろうか。


 時の女王、メガネッコ・M・グラスは読書家であり、昼夜関係なく本を読んだ。そのため書類を目に近づけないと読むことができないほど目が悪かった。ある時、視力を矯正する眼鏡の存在を知った女王はそれを献上させた。眼鏡をいたく気に入った彼女は名匠に眼鏡を作らせ、貴族に下賜した。眼鏡を賜った貴族は女王に忠誠を誓う者として「メガネッコ・スキー」と呼ばれるようになった。眼鏡は高貴な身分を示すステータスとなった。

 転機が訪れたのはメガネッコの孫である国王、ハズスナ・MJ・グラスの時代のことだった。メガネッコ女王の係累を推す「メガネッコ・スキー」派閥と眼鏡を外した大貴族の派閥「ギャップ・スキー」の間で内乱が勃発した。この戦で王都は火の海と化し、数多くの眼鏡が割られた。勝利した「メガネッコ・スキー」派は国民に広く王と眼鏡の偉大さを広めるために全国民に眼鏡を配布することにした。これによって多くの国民が眼鏡を手にし、特に視力の悪い者は王を崇めた。この配布によって眼鏡はステータスではなく当たり前のものとなった。だが、家に飾るのみで実際にかける者は限られていた。

 全国民が眼鏡をかけるようになるのは大戦が終結してからだ。帝国に逃れた「ギャップ・スキー」が引き起こし、大陸全土を巻き込んだ大戦。これに勝利したことでグラスは現在大陸一の国家と成った。グラス王国勝利の決め手となったのは独自の魔術、眼鏡を活用するグラス式魔術だった。術者と眼鏡を接続して発動するグラス式魔術は高い魔力効率と威力を有しており、非眼鏡国を蹂躙した。眼鏡の威光によって庶民も眼鏡を身に着けるようになったのだ。

 グラス王国の全家庭には眼鏡の祭壇があり、教会には眼鏡像が並ぶ。

「全ては眼鏡に通ずるし、眼鏡は全てに通ずる」、メガネッコ女王が演説で述べたと言われる言葉は、常にグラス国民の胸の内にある。

 メガネ万歳。

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