第24話 結婚式

 極甘の婚約期間を過ごし、結婚式まで後一ヶ月になろうとしていた。

 ルーナは父親の執務室に呼ばれた。

「ルーナに言っておきたいことがある。私が調べたところハーマン伯爵家は借金を抱え没落寸前だ。ハーマン伯爵様の領地経営が上手くいっていないようなんだ。それで、私がハーマン伯爵家を立て直すために力を貸そうと思っている。ルーナの持参金はカイト殿に預け、二人が困ることがないようにしようと思っている」

「そんな···お父様。私のために大切なお金を使わせてしまって···私はどうしたらよいのでしょう?」


「ルーナは心配しなくても良い。ハーマン伯爵様には意見し、ハーマン前伯爵様の優秀な使用人を呼び戻し、私が領地経営に介入しようと思っている。もし、伯爵様が私の意向が気に入らなければ、直ぐに手を引き、カイト殿にはモントン伯爵家の持っている子爵の名前と領地を継いでもらうことにする。ルーナはカイト殿が伯爵から子爵になるのは嫌なのかな?」


「そんなことはありません。カイト様が伯爵であろうと子爵であろうと関係ありません」

「ルーナ、よく言ってくれた。ハーマン伯爵家が無くなるかもしれないが、カイト殿との結婚は無くならないから安心しなさい」


 カイトとルーナの結婚式が行われた。

 ルーナのウエディング姿に参列者からは歓声が上がり、カイトは真っ赤な顔で見とれていた。

 梅雨が明け青い空には上弦の月が銀色に輝いて見える。

 濃い緑の木々の葉にはガラス細工のような雫が光り輝き揺れている。

 色とりどりのフラワーシャワーをくぐり抜け二人は満面の笑みを浮かべている。


 ルーナからもらった刺繍入りのバンダナを着けたシャーは、尻尾を立て得意気な顔で式に参列していた。

 結婚式にはカイトの父ハーマン伯爵の姿はなかった。

 モントン伯爵との話し合いに納得せず、伯爵家は没落を余儀なくされた。


 国王は筆頭伯爵家であるハーマン伯爵家の没落は、他の貴族たちの勢力争いに影響が出て、政界内部が荒れることを躊躇い、妻の実家であるモントン伯爵家に立て直し復興を依頼してきた。

 モントン伯爵はカイトの父親を隠居させ、カイトを当主にすることを条件に、国王の申し出を受けた。


 父親であるハーマン前伯爵は貴族としての沽券に関わると言って、結婚式の出席を辞退していた。ハーマン伯爵家の醜聞が広まるのを避けたかったのかもしれない。

 カイトの父親はルーナとの結婚に反対しているのではない、愛していた自分の妻を思い出し、幸せそうな息子の姿を微笑ましく思い二人を心から祝福していた。


 シャーとの意思の疎通が出来なくなり、不思議な体験をしたルーナは、カイトと幸せな結婚生活を送っている。


 fin

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

下弦の月が沈む日に 絵山 佳子 @takemama16

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ