第23話 プレゼントのハンカチ

 ハーマン伯爵邸に到着すると、カイトの部屋に案内された。

 手が離せない仕事があるので、自室で待っていて欲しいとのことだった。

 メイドがお茶とお菓子を出してくれて、ルーナはしばらく寛ぐことにした。


 シャーがどこからともなく現れ、当たり前のようにルーナの膝の上に座った。

「貴女は私が助けた猫ちゃんだったの?」

 シャーは耳をピクピクさせ、大きな欠伸をしていたが、前のように返事をしてくれなかった。

「今度来るときは何かお礼をするわね」

 シャーはルーナの膝から降り、部屋を出て行ってしまった。


 仕事を終えたカイトが部屋に入ってきた。

「ルーナ、お待たせしてしまったね。迎えにも行けなくて申し訳なかった」

「いいえ、これをお渡ししたかっただけなのです」

 ルーナはそう言ってリボンを結んだ小さな箱を手渡した。

「開けてもいいかい?···おお、これは」

 カイトは丁寧に箱のリボンを解き中を見て固まってしまった。

「あ、あの···お気に召さないようであれば持ち帰りますので···」

 ルーナが自信なさげに手を出すと、

「ああ、ルーナ。私は幸せだよ。今まで人からもらったもので一番嬉しいよ。大切にするよ」

 カイトはそう言うと、ハンカチに頬を寄せたり胸に当てたりしていた。


「お気に召していただいて嬉しいです。そ、そんなに喜んでもらえるなら、またお作りいたします」

「ありがとうルーナ。抱き寄せても···?」

「あ···は、はい」

 カイトはルーナの側に寄り優しく抱きしめてくれた。

 カイトの体温とコロンの香りが心地よく、ルーナはうっとりしていた。


「結婚式が待ち遠しいよ。父上が半年後でも大丈夫だと言っていた。近々モントン伯爵と打ち合わせをするらしいよ」

「そうなのですね」

「それと、聞きたくないかもしれないが、義妹のヴィオラは修道院に行くことになったよ。二度と君には会わせない。義母は父上との離婚が認められ、男爵家に帰ったが、居場所はないだろうね」

「そうですか」


「ルーナを誘拐した男たちや女たちは、しばらく牢屋に入れられた後、家を追い出されるだろう。貴族ではいられなくなったよ。男たちに関しては死罪でもよかったのだけどね」

「そこまでは···私は怪我もなかったので」

「君は優しいね。こんな甘い罪なら僕が···あっ、ごめんね。事件の事は早く忘れた方がいいよね」

 カイトはそう言ってルーナの頭を撫でていた。

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