第22話 ルーナの不安

 ルーナはハーマン伯爵邸から帰ると、父のいる執務室に話をしに行った。

「お父様、結婚式の日取りですが、カイト様には半年後だと言われましたが、どうでしょうか?」

「うーんそうだな。まあ、当初の予定より三ヶ月延びるのだから、準備も整うだろう。ドレスの方は大丈夫かな?」

「はい。仮縫いまで出来ていたので、問題はないと思います」

「披露宴は一年後に行っても問題ないし、結婚式は身内だけで厳かに行うのもいいだろう。ルーナは大きな式の方がいいのかな?」

「私はお父様の意見と同じですので、お任せします」

「ハーマン伯爵家の都合もあるし、日取りの方は連絡を取り合って決めるよ」

「お父様、ありがとうございます」


 父との話の後ルーナは自室に帰ってきた。

 セーラがお茶を入れてくれ一息ついていた。

「お嬢様、お疲れのようですね」

「そうね。カイト様の態度が急に過保護になって、少しついていけないわ」

「まあ、贅沢なお悩みですね」

「そうなのかな?また冷たいカイト様に戻るかもしれないと思ったら、不安なのよ。カイト様の本心はどうなのかしらね?」

「また冷たいハーマン様に戻ったら、ご実家に帰って来ればいいじゃないですか。私はずっとお嬢様のお側にいますよ」

「ふふふ。そうね」

 ルーナはカイトの顔色ばかりを気にするのは辞めようと思った。


 カイトに渡すハンカチが出来上がったので、ルーナはハーマン伯爵邸に向かった。

 カイトは手が離せない仕事があるらしく迎えはなかったので、ルーナはモントン伯爵家の馬車に乗っていた。

 ガタン!

 馬車が急に止まった。

「お嬢様すみません。小さな動物が飛び出したので、馬車を停止させました。お怪我はないでしょうか?」


 御者は御者台から降りてくると、馬車の扉を開け、ルーナの様子を伺った。

 ルーナは頭を押さえて屈んでいた。

「お嬢様、お医者様に来ていただきましょう」

「い、いいえ、大丈夫よ。それよりも動物は大丈夫なの?」

「はい。猫だったようです。あちらに···」

 ルーナが御者の指を指す方を見たら、黒い猫がゆっくりと歩いていた。

 猫に怪我はなさそうだった。


 あっ、そういえば半年ほど前に同じような状況で猫を助けたことがあったわ。怪我をしていたので、お医者様に診てもらったわね。あの時の猫ちゃんは···青灰色でグリーンの瞳···シャーに似ていたわ。

 だから私を助けてくれたのかしら?

 ルーナはシャーそっくりの猫を助けていたことをすっかり忘れていた。


 御者は馬車を道の端に停めて、ルーナが落ち着くまでしばらく休むことにした。

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