第20話 ルーナ奪還

 セーラは店主の共犯を考え、医者にはお礼をして帰宅してもらい、護衛の一人を残してソファーで寝かせている店主の意識が戻るのを待っていた。

 他の護衛はモントン伯爵に緊急事態を知らせに行ってもらった。

 セーラは店主が共犯だとまた店に戻って来て危険だと護衛に言われたが、ルーナの事を考えると居ても立っても居られず、自分の安全よりもルーナの所在が知りたかった。


 ルーナは朦朧としていた意識がはっきりとしてきて、ゆっくりと目を開けると見慣れぬ場所にいることに気がついた。

 お昼前に手芸店にいたはずが、窓の外からは夜の気配がしていた。

 身体の拘束はなく簡素なベッドに寝かされていた。

 貴族の令嬢が誘拐され見知らぬ屋敷で保護されただけでも、憶測や醜聞によって傷物扱いされ、世間では普通の嫁入りが出来ない娘として見られる。

 ルーナはカイトとの結婚が白紙に戻る事を覚悟していた。

「縁がなかったのね」

 ルーナは小さい声で呟いた。


 ルーナのいる部屋の近くで数人の足音が聞こえ雑に扉が開けられた。

「いい気味だわ。お目覚めかしら?ルーナ様」

 カイトの義妹ヴィオラが満面の笑みで立っていた。

「ええ、おはようございます。ヴィオラ様」

 カイトとの結婚を諦めたルーナは抵抗する気にもならなかった。

「あら、泣いたり叫んだりはしないのね。お育ちの良いお嬢様は違うわね」


「泣いたら家に返してくれるのかしら?」

「このまま帰すわけないじゃない」

「でしょうね。ヴィオラ様の隣にいる人たちは貴族の女性を誘拐したら、重罪なのは分かっていらっしゃるのかしら?」

 ルーナは最後の足掻きで虚勢を張っていた。

 周りにいる男たちは顔を見合せ少し動揺した。


「そ、そんなのは脅しよ。何も言えなくなるまで痛めつけてやるわ」

「じゅ、重罪とはどんな罪だ」

「平民なら死罪、貴族なら爵位剥奪でしょうか?後は罰金ですね」

 男たちは顔を見合せ後退りした。

「バレたらよ。バレなければ罪にはならないわ」

「ヴィオラ様は私を殺すのですか?」

「えっ···」

「私、黙っていませんよ」


 ルーナとヴィオラが話をしている隙にすーっと扉が開き、数人の騎士たちが入って来て誘拐犯たちを素早く確保した。

「ヴィオラ!約束通り母親と出ていってもらう」

 ハーマン伯爵が扉の前で仁王立ちになっていた。

 ヴィオラは言葉を失い膝から崩れた。

「ルーナ嬢、助けが遅くなりました。しっかりとした証拠を集め、ヴィオラを現行犯で追い詰めたかったので、申し訳ございません。後日改めてお詫びに伺います」

 ハーマン伯爵はヴィオラを引きずり、ルーナに一礼をして去って行った。

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