第16話 ハーマン伯爵の思惑

 ハーマン伯爵は前妻をとても愛していた。

 気品と教養を身に付け慈愛に満ちた妻以上の女性はいないと今でも頑なに信じている。

 跡取りのカイトが居たものの、親戚筋からの容赦のない再婚の打診にうんざりしていた。

 カイト以外に跡取りは考えてはおらず、形だけの結婚をするなら未婚の女性を避け、伯爵にとってはお互いに再婚の方が都合がよかった。

 カイトにもしもの事があれば、親戚の中で最も優秀な子息を選び跡継ぎにする事を考え、形だけの妻には適当な女性を選んだのが間違いだった。


 結婚後に妻の素行を調べると、目に余るものがあったが、伯爵家に実害がない間は放置していた。血の繋がらない娘に興味はなく、妻にも伯爵家の権利を与えることを考えていなかった。

 ハーマン伯爵は仕えている弁護士には、妻と結婚するときに、自分にもしもの事があれば伯爵家の財産は母娘には一切相続させず、少しのお金を持たせ除籍する旨を明記した遺言書を渡してあった。

 今回カイトの結婚の際に母娘の邪魔が入れば容赦はしないつもりでいた。

 親戚筋も今回のことで離婚になれば、二度と再婚の言葉を口にしないだろう。

 母娘が問題を起こせば伯爵にとって一石二鳥であった。


 使用人の報告で浅はかな義娘ヴィオラの考えそうなことがカイトの身に起きて、ルーナの事が心配になったハーマン伯爵は、モントン伯爵には恥を忍んで愚かな母娘の思惑を告げることにした。

 ハーマン伯爵は『ハーマン家の妻と義娘がルーナ嬢に危害を加えるかもしれない』とモントン伯爵に手紙を送っていた。


 手紙の返事でモントン伯爵はカイトとの結婚式まで、ルーナに影を含め護衛の強化をしてくれるようで、ハーマン伯爵は安堵した。

 モントン伯爵は転落事故以降、ルーナの護衛の強化を常に考えていた。ハーマン伯爵の助言を受け、更にルーナの護衛について見直すことにした。

 ハーマン伯爵には内密だが、ルーナの生涯を通して護衛の手を緩めるつもりはなかった。近々ハーマン伯爵家にルーナの護衛兼使用人を数人送り込むことにしている。


 商売において情報の大切さが身に染みて分かっているモントン伯爵は商才だけでなく、惜しみ無い努力の結果、多種多様な知識を身につけていた。密偵の使い方や情報操作など、自分が持っている知識の中で最善を尽くし、ルーナを全力で護る覚悟をしていた。


 カイトとルーナはハーマン伯爵家とモントン伯爵家、両家の総力を結集された形で護られていた。

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