第15話 ヴィオラの策略

 ハーマン伯爵は妻とヴィオラを執務室に呼び出していた。

「ヴィオラ、最近遊びが過ぎるのではないか?勉強の方はどうなっている?」

「遊んでばかりではありませんわ。勉強もやっております」

「私はヴィオラの遊びの話しか耳にはいってこないのだが。それとは別に、モントン嬢とカイトの邪魔をしているのは本当か?」

「邪魔などと···。ルーナ様がお父様に言いつけたのですね」

「使用人の何人かが見ているぞ。余計なことをするなら、母親と一緒に男爵家に帰ってもらう」


「まあ、あなた申し訳ございません。ヴィオラには注意しておきます」

「カイトとモントン嬢の邪魔をするな。いいな。次に何かあれば、伯爵家から出ていってもらう」

「お父様、酷いわ」

「おまえたちは貴族だが、爵位はない。平民と変わらぬ立場であることを覚えておけ」

「···」


 ヴィオラは顔を真っ赤にし、下を向くしかなかった。『追い出されたら贅沢な暮らしが出来ないわ』ヴィオラはその場では逆らわず、両手の拳を握りしめていた。

 伯爵がカイトとルーナの結婚に期待していることが面白くなかったヴィオラは、二人が結婚出来なくなるようにするため考えを巡らせていた。


 私はお兄様に嫌われている。

 私が誘惑してもダメだ。

 そうだ。知り合いの令息たちに相談してみよう。

 ヴィオラに好意を寄せている貴族の令息や商人の息子たちを誘惑し、少しのお金でカイトの結婚を破談に追い込む策を練っていた。


 まず、見目麗しい平民の女性をお金で雇い、カイトの寝室に紛れ込ませた。

 カイトは冷静に処理した。

 伯爵の地位にある独身の子息として、仕事での出張先などではよくある事で、女性に醜聞が広まらぬように、誓約書に名前を書かせお金を渡し、後は使用人に任せる。一連の流れで迅速な処理をした。

 誓約書もトラブルを見越し、数種類にわたり常に用意されている。

 カイトはヴィオラのことを疑ったが、どうでもよかったので、父には使用人に報告させた。


 ヴィオラの浅はかな計画を知った伯爵は、彼女を監視することにした。

 名門伯爵家には代々密偵の家門が就いており、カイトの結婚が成立するまでの間、ヴィオラの監視を強化した。


 ハーマン伯爵はなんとしてもモントン伯爵家との縁を繋げたかった。

 ルーナにはモントン伯爵家の護衛が就いていると思っているが、予期せぬ事態で被害が及ぶのを避けたかった。それがハーマン伯爵家の失態であれば尚更だ。

 ハーマン伯爵は尻軽な母娘をこの機会に追い出すことを考えていた。

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