第12話 ハーマン伯爵邸

 数日後、約束通りカイトは丁寧なお手紙と花束とともに、ハーマン伯爵邸へルーナを招待してくれた。

 カイトはモントン伯爵の先触れを思いとどまり、直接会ってルーナの気持ちを確かめたいので、婚約解消をしばらく待って欲しいという内容の手紙を送っていた。


 モントン伯爵夫妻はルーナの想いを大切に考えていた。

「ルーナ、カイト様との婚約の件は、君に委ねるよ」

「そうよ。貴女の気持ちを大切にね。私たちはルーナの幸せを一番に考えているわ」

 両親の暖かい気持ちに胸を撫で下ろした。

 部屋に戻ると扉の前でセーラが立っていた。

「お嬢様、勝手な真似をして申し訳ございませんでした」

 と深く頭を下げ、手に持っていたルーナの日記をそっと手渡し、一礼をしその場を立ち去った。

 ルーナの心のままに。


 よく晴れた冬の空は水色で、白いレースを纏ったかのような薄い雲に覆われていた。

 ハーマン伯爵邸に着くとカイト様が出迎えてくれた。

「モントン嬢、よくきてくれたね」

「ハーマン様、お招きありがとうございます」

「では、案内しよう」

 カイト様は応接室までエスコートしてくれた。


 応接室に着くと、ルーナの大好物のお菓子とともにお茶が用意された。

「モントン嬢の好物だと聞いて、プリンとチョコクッキーを用意させたんだ」

「ありがとうございます。よくご存知なんですね」

「ああ、貴女の侍女が教えてくれたんだよ。よければ私のことを、名前で呼んで欲しい」

「はい。カイト様。私のこともルーナとお呼び下さい」


 カイト様も甘いものがお好きなようで、お互いに好きなお菓子や、お気に入りのカフェ、お薦めの洋菓子店等の話をしていた。

 いつの間にか応接室に猫がやって来た。

 猫は青灰色で、透き通るようなグリーンの目をしていた。

 猫はルーナの膝の上にちょこんと乗り、グルグルと喉を鳴らし始めた。

「まあ、あなたがシャーなの?」

「ルーナすまない。普段は人見知りな猫なんだが、ルーナが気に入ったようだな」


 ルーナが背中を撫でていると、尻尾の付け根の近くに、半月のような白い模様を見つけた。

『もしかして、私の命が助かったのはあなたのお陰なの?』

 ルーナが心の中で呟くとシャーは、

「ニャー」

 と返事をしたように鳴き声を上げた。

『ありがとう、お陰でカイト様と話ができるようになったわ』

「ニャー」

 とシャーは鳴いた。

「ルーナとシャーは話が出来るのかい?」

「まあ、だったらいいですね」

 ルーナはカイトの問いかけに微笑みながら答えていた。

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