第11話 カイトの決意

 カイトは帰りの馬車の中で自分が発した言葉に呆然としていた。ルーナの迷惑を考えもせず、つい自分の心にある気持ちが言葉に出てしまったのだった。ルーナとやり直したかった。

 今まで父親の言う通りに過ごし、決して逆らうことの無かったカイトにとって、正直に自分の気持ちを父に伝えることは並々ならぬ決意が必要だった。

 カイトは屋敷に着くと意を決して、父のいる執務室へと向かった。


「父上只今帰りました。ご相談があるのですが、よろしいでしょうか?」

「珍しいな。一体なんだ?」

「私はもう一度、モントン伯爵令嬢とやり直したいと思っています」

「正式な手続きはまだ終わっていない筈だが、婚約を結び直すなら、モントン伯爵の許可が必要だ。カイトがその気ならこちらの方は問題ない」

「早速モントン伯爵に先触れを出します」

「早い方が良い」

「はい」


 ハーマン伯爵はモントン伯爵との縁が切れなくて内心ほっとしていた。

 資金援助の見込みが出来た。


 カイトは早速モントン伯爵の都合を聞くために、先触れを出そうと考えていた。同時にルーナには手紙を書いていた。

 カイトは断られるかもしれないがルーナにもう一度会い、やり直したい気持ちを伝えたかった。


 ルーナは戸惑っていた。

 以前のカイトからは考えられない表情で言葉をかけてくれた。

 こちらが話しかけてもいつも上の空で、目が合わなかったのに。

 ルーナはどうしてカイトのことが好きだったのか、冷静になって考え始めた。


 婚約者になってから男性として意識し始めたのか、婚約者に決まったから好きになったのか、そう問われれば、理由が分からなかった。

 恋に恋していたのかもしれない。

 相手はカイトでなくても良かったのではないか?

 最初に容姿が好きになることは悪いことではないが、それでいいのだろうか。長い結婚生活の中、容姿に飽きることはないのだろうか。


 ルーナは「うーん」と唸ってベッドに倒れ込んだ。

 側に控えていたセーラは

「お嬢様、どうされましたか?」

「何でもないわ。私、カイト様のどこが好きだったのかしら?」

「お嫌いになられたのですか?」

「嫌いではないけど、分からなくなったの」

「女心は複雑ですから」

 ルーナとセーラはお互いに顔を見合せて、笑っていた。


「まだ、体調が心配ですので、お早めにお休み下さいね」

 セーラはそう言ってルーナの部屋を後にした。セーラはどんな結論を出したとしても、ルーナに寄り添うことに決めていた。

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