第10話 戸惑うルーナ

 ハーマン伯爵は新事業が上手くいかず、資金援助を期待して、モントン伯爵家の娘を、婚約者に選んだのだった。

 すでに大金を注ぎ込み、手を引くに引けない状況で、このままでは家門を守ることに影響するのが目に見えていた。親戚にも多額の借金を重ね、深刻な状態になっていた。


 息子の婚約者が不慮の事故に遭い、婚約を辞退してきたが、相手からの違約金をもらったところで、焼け石に水。モントン伯爵家からは長期的な援助が必要だった。

 幸いカイトは母親似で容姿は人並み以上。教育も基準以上だ。侯爵家の令嬢たちにも人気があり、伯爵は次の嫁候補を画策していた。


 建国当時からの名門伯爵家の嫡男として育てられたハーマン伯爵は、プライドが高かった。

 人を見下し横柄な態度の伯爵の元に、先代からの有能な秘書や事務官が残るはずもなく、目先の利益を優先した結果、膨大な借金を抱えることになった。


 一方モントン伯爵は先代の教えを守り、領民に寄り添い、地領の特産品を中心とした産業を行い、災害対策やインフラの整備などに力を入れていた。

 モントン伯爵は外国語を猛勉強し、他国には領民たちとともに伯爵自らが手掛けた自慢の特産品を売り込んでいた。


 モントン伯爵は密かにカイトを想う、ルーナの恋心を知って応援したかった。

 モントン伯爵夫妻は夫婦仲がよく、思いやりを大切にしている家族だった。


 歓談が終わりルーナはカイトを玄関まで見送りに出ていた。

「モントン嬢、時間が許すならば、私の屋敷にも来ていただきたい」

「はい。お父様に相談してからお返事をさせていただきます」

 カイトは少し残念そうな顔をしたが、直ぐに微笑みを返しながら、

「よい返事を待っています」

 といって軽く会釈をして帰って行った。


 ルーナはカイトの馬車を見送った後、真っ赤な顔をして大きな溜め息をついた。

「はぁー。カイト様はどうして急に優しい言葉をかけてくださるのかしら?もう婚約者でもないのに、勘違いをしそうだわ」

 側で見ていたセーラは唇の片方を上げ、カインが言った言葉を、そのまま旦那様に伝えることにした。


「旦那様少しお時間を頂いてもよろしいでしょうか?」

 セーラはモントン伯爵の執務室にカイトの訪問時の様子を報告に来ていた。

「僭越ながら、カイト様は以前よりもルーナ様に好意を持っていらっしゃいます」

「それは本当か?」

「はい。帰られる時にハーマン伯爵家にご招待されていました」

「うむ。どうしたものか···」

「後でお嬢様からもご報告があると思います」

「そうか。ありがとう」

「では失礼いたします」

 セーラはにやけた顔でモントン伯爵の執務室を後にした。

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