第9話 カイトとの再会
傷はまだ治っていないが、右腕の包帯は簡素になって動きやすくなった。
日が経つにつれ普段通りの生活に戻っていった。
お見舞いを断ったにも関わらず、カイト様に何度か手紙や贈り物を頂いていた。お断りしてばかりでは申し訳ないので、今日の午後お会いすることになった。
転落事故から初めて再会することになる。
「いらっしゃいませ、ハーマン様。本日はお越しいただきありがとうございます」
「モントン嬢にお目にかかる機会を与えていただき、ありがとうございます」
二人は挨拶を交わし応接室に向かった。
「モントン嬢の今回の事故では、何も出来ずに申し訳なく思っています。貴女の婚約者でありながら、私の振る舞いはとても不誠実でした。重ねてお詫びいたします」
カイト様は深々と頭を下げ、謝罪の言葉を告げた。
「ハーマン様どうか頭をお上げ下さい。私にも至らぬ点がございました。真実を確かめず噂に振り回され、勝手な行動を取ろうとしておりました。事故のことはハーマン様のせいではございません。私の不注意ですので、お気になさらないで下さいませ」
お互いに言いたかったことが言えたカイトとルーナは微笑み合っていた。
カイトは最初の出会いからやり直したいと思っていた。彼女の日記を読み考えが変わったカイトは、結婚をするならルーナのように自分を愛してくれる女性がいいと思うようになった。
婚約が白紙に戻ってしまい、今さらルーナに言えることではなかった。
カイトが考えを巡らせていると、
「ハーマン様は猫を飼われていらっしゃいますか?」
「よくご存じですね」
「ええ。お名前はなんとおっしゃるのでしょうか?」
「はい、シャーといいます」
「どうして、シャーというお名前なのですか?」
「初めて猫に出会った時に、名前を聞いたら、シャーと答えたのです」
「威嚇されたのですね。ふふふふ。あ、申し訳ございません。ふふふ」
「いえ、名前はなんでもよかったんでしょうが、これといって思いつかなかったもので···」
「かわいらしいお名前ですこと。ふふふ」
カイトは表情豊かによく笑うルーナのことを、じっと見つめていた。
「カイト様?」
見つめられて照れくさくなったルーナは、カイトに声をかけた。
「ああ···もし、もしよろしければ、···お時間のある時にでも、シャーに会いに来て下さい」
「そうですね···私がハーマン様のお宅にお伺いしてもよろしいのなら···ご迷惑なのではありませんか?」
婚約が白紙になった男女が家を行き来するのは他の家からみれば、不適切な行動なのかも知れない。
今後の縁談に差し支えるようなことがあれば、カイト様にご迷惑をかけてしまうのだが···
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