第8話 夢か幻か?

 利き腕の右手が不自由だと不便だった。

「お嬢様の傷が治るまでは、セーラがお手伝いします」

 セーラはふんっと鼻を鳴らし、やる気満々だった。

 家族みんなの顔が見れて安心したのか、軽い食事の後にまた眠ってしまった。

 次に目が覚めたのはお昼頃だった。


「やっぱり家が最高ね。セーラありがとう」

「お嬢様、お目覚めになられてよかったです。セーラはお嬢様のお世話が出来て嬉しいです」


 部屋の扉をノックする音が聞こえた。

「ちょっといいかね?」

「はいどうぞ」

 お父様だった。

「ルーナが落ちたのは事故だったのかい?」

「はい。お医者様にも申し上げましたが、私がバルコニーで躓き一人で落ちたのですわ」

「そうなのか。私はカイトくんを疑っていたよ」

「お父様がお疑いになられるのは仕方がありませんわ。私も自分で落ちるなどと思ってもみませんでしたから。それにカイト様には義妹様との噂がございましたから」


「ルーナは知っていたのか?」

「ええ。私、身を引こうと思っておりました」

「···目覚めて直ぐに言うことではないが、カイトくんとの婚約は白紙になったんだ」

「はい。私がこのようなことになっていたので、仕方がありません。我儘かもしれませんが傷も残るようですし、しばらく結婚は考えたくはないです」

「···当分の間、縁談は考えないよ」

「はい。よろしくお願いします」


「お昼は食堂に来れそうか?」

「はい。家族一緒にお食事をしたいです。セーラお手伝いしてね」

「はい」

 ルーナの足は擦り傷だけで、歩くことに問題はなかった。自分の足で歩けるのは嬉しかった。

 家族みんなで笑いながら食事が出来た。


 お茶の時間になり母とサロンにいると、カイト様がお見舞いに来てくれたようだった。

 意識が戻ったとはいえ、包帯だらけの姿を見られたくなくて、丁重にお断りするように、執事に申しつけた。カイト様から花束をいただいた。

 後でカイト様には手紙を書くつもりでいた。


 母とお茶を楽しんだ後ルーナは早速カイト様に手紙を書いていた。

 猫になっていた日はなんだったんだろう?

 あれは夢?私は夢を見ていたのかしら?

 はっと思いつき、日記帳を探してみたがどこにもなかった。


「セーラ」

「はい。お呼びでしょうか?」

「私の日記帳を知らないかしら?」

「···申し訳ございません。お嬢様のお気持ちが少しでも伝わればいいと、ハーマン様にお貸ししました。勝手なことをしてしまいました」

「···」

 セーラは深く頭を下げ正直に話してくれた。

「わかったわ。怒ってないわよ」

「申し訳ございません」

 セーラは何度も頭を下げた。

 猫になっていたのが事実だとわかり、ルーナは呆然とした。

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