第6話 飼い猫生活

 母親に似たヴィオラも恋愛に自由奔放で、言い寄ってくる男たちとの艶聞が絶えなかった。

 ヴィオラは自分の恋愛事情が、家族には露見していないと思っているようだったが、口さがない貴族たちの格好のネタになっていた。


 カイトはお節介な令息たちにヴィオラの恋愛話を無理やり聞かされていて、義妹にはうんざりしていた。

 ヴィオラに対して好意を持つはずはない。


 カイトの部屋に戻った猫のルーナは、定位置であるベッドの脇のソファーで眠っていた。

 猫にとっておやつや食事、トイレまで完備され、日当たりの良い位置にあるソファーがあるカイトの部屋は快適だった。


 夕食を終え、湯浴みを済ませたカイトが机に向かい、また頭を抱えていた。

「はぁーっ。俺はルーナ嬢にどんな話をしたのだろうか?意識が戻ったらちゃんと話がしてみたいものだ」

 猫のルーナはカイトの独り言を聞いて頷いていた。


 カイトはソファーにいる猫を抱き膝に乗せ、頭や背中を優しく撫でてくれた。

「ニャーン」(気持ちいいです)

「シャーに聞いてもらうと、気持ちが落ち着くよ。ルーナ嬢にはもう会わせてもらえないだろう。モントン伯爵は私がルーナ嬢を、突き落としたのではないかと疑っているようだ。はぁー。事故だったんだ。私は驚きのあまり声も出ず手も出せなかった。最低だな。彼女に謝りたいが···はぁー。婚約も白紙に戻ったし、もう会えないだろうな。ふーっ」

「ニャー、ニャーン」(そうだったの?邪魔に思っていたのではなかったのね)


「ルーナ嬢の日記を見て、私の事を好いてくれていたのがよく分かったよ。爵位や家督が目的でもなかったみたいだし···まっ、名門というだけで財力はモントン伯爵家の方が上だが、ははは。はぁー」

「ニャー」(照れくさいです)


「こんなことになるのなら、ルーナ嬢にヴィオラとのくだらない噂を否定しておけばよかったよ。本当に馬鹿馬鹿しいよ。俺がヴィオラと結婚したいわけがないだろう。あんな最低な女、頼まれたって嫌だ」

「ニャーッ」(えーっ。ただの噂だったの?)


「噂を流したのもヴィオラに決まっている。本当に馬鹿なやつだ。ルーナ嬢は噂を知っていたんだよな。はぁー」

「ニャン」(噂は知っていましたよ。本当の話だと思っていましたから)


「明日はモントン伯爵に頭を下げてルーナ嬢に会わせてもらうか···早く意識が戻って欲しいものだ」

 カイトは独り言を言いながら、猫を抱えてベッドに入った。

 猫のルーナはドキドキが止まらなかった。

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