2-5
二十メートルほど進み、直径三十センチくらいの
私は
「バン!」
小さく唱える。ボスッと案外重い音がして、幹に丸い穴があき、
「本当に、使えた……」
おそらく世界で私だけのこの魔法は〈空気
しかし、当たることは当たるのだが……
今度は声を出さず、心の中で念じて弾を放つマネをした。シュッと空気が鳴り、先ほどの幹から木くずがパラパラと舞う。残念ながら貫通しなかった。
「
それに、ひ弱な私がこんな魔法を使う場面はピンチの時くらいだ。この魔法を秘密にしていれば、相手の裏をかけるはず。
とにかくいざという時に使える
「っ……まさか私ってば、たった二発で魔力切れなの?」
頭上でカラスがカアカアと鳴き、
「ははっ、これじゃ、いざという時に使えたとしても、
そもそも領主夫人は領民を守るのが役目なのだから、足手まといになるわけにはいかないのに。
最低限、魔法で時間を
そういえば、〈ホンキミ〉では〈祝福〉とはこの世界の人間一人につき一人、実体はないものの寄り
ヒロインのセルビアには自分の精霊が見えてビックリ、という展開もあったっけ。〈
ランス様の見事な火魔法も、彼の守護精霊がお手伝いしているのかもしれない。
「つまりこの〈空気銃〉も、〈ホンキミ〉的には私の精霊様の気質
私に切り札を与えてくれて。
小川で体を拭き上げ、馬たちのもとに戻る
「エム、準備が整った。おいで」
「この子たちは?」
「ここにいて大丈夫だ。
「そっかあ。
馬たちがヒンッと挨拶してくれたのでふふっと笑い、ランス様に向かって足を
「歩けますけど?」
「足を引きずってるじゃないか。一体どうした?」
ランス様の
「ええと、実は転んでしまって」
魔法を使いスタミナ切れしたことは、もちろん
「え? 大丈夫か? ひねってはいないんだな。戻ったら消毒しなければ。はあ、やっぱりそんな靴では……エムはブーツが手に入るまで、森で歩くのを禁止だ」
「えー、ランス様、大げさですよ」
「反論は許さない」
野営地に戻ると、大きなたき火の周りで干し肉があぶられ、今朝調達したパンやドライフルーツが並んでいた。
ランス様が「よし食べるぞ」と合図すると、皆、火を囲むように腰を下ろした。
目の前に置かれたコップには
「皆様、お湯ではなくて、お茶にしましょうか?」
「お茶を持参されているのですか?」
私は自分の荷物から、バルト伯爵家ブレンドのお茶と自作の
「すごい……
ロニー様が喜びの声をあげた。家族以外に
「エム、食べよう。何が欲しい?」
「先ほどからとてもいい
ランス様が熱さをものともせず
「ありがとうございます。いただきます!」
遠慮なくお肉にパクッとかぶりついた。うん、おいしい……おいしいか? あれ? 筋もなく柔らかいけれど、味がしない……これでは元の味気ない生活に
私は再び立ち上がり、荷物から最初の宿のシェフに
「うわぁ、やっぱりおいしい~!」
もぐもぐと食べていると四組の視線が私に突き
「皆様、こちら、最初の宿のシェフからご
私はそう言って、いそいそと食事に戻った。
スパイスソルトは貰ってきて大正解だった。ダグラス様はパンにもたっぷり振りかけていた。今度王都に用事がある時には再びあの宿に寄って、お礼を言って追加で買ってほしいとお願いすると、四人とも「任せとけ!」とばかりに親指を上げてくれた。
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