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ひゅっと息を吞む。予想はしていたけれど、やはり私の〈祝福〉をあてにしているの?
ダメだ! 私に戦争勝利の責任など取れない。それに私を得たことで勝利を確信して戦地に立って、目の前のこのお方が命を失うことになったら? 閣下はこれまで何万という人を救ってきた。私の何倍も価値のある人がそんな目に遭っていいはずがない。
「閣下、私の〈祝福〉は本当に期待してはなりません。閣下もあの場におられたはず。コンラッド殿下の
「もたらさないのであれば、それでいい! それだけでもいい!」
「であれば、ますます私である必要はないです! 閣下、悪いことは言いません、この
「私が、陛下にエメリーンの話を聞いて、
「……どうして?」
英雄が褒賞として願えば、
「私の〈祝福〉は〈死〉だ」
その
〈死〉の〈祝福〉? 聞いたことがない。そんな〈祝福〉、ありなの?
身じろぐこともできず
「私は……死神なんだよ。私の本当の両親は神殿での〈祝福の
そばにいるだけで実親から死を招くと恐れられた? 〈死〉を持っているから死を恐れないとでも思われた? それとも相手に死をもたらす働きをすることが〈祝福〉だとか思わされた? 何もわかってない幼い子どもに?
こんな、わけわからん〈祝福〉ありえない。私といい勝負、いやそれ以上だ。
でも、閣下がそのわけわからん〈祝福〉に
「戦争に出れば、どんなに大
死神? そんなバカなことを言う人がいるの? 死ぬほどの大怪我? 前世で
「さすがに結婚する相手に、
つまり、国一番強く大きなこの男性は、私を利用しようとしているということだ。でも、誰よりも確かに私を必要としている……切実に。だから怒る気になどならない。
「浅ましいだろう?
ぶっきらぼうにそう言い放った閣下は、なんと不器用で……なんて誠実な
でも、婚約するからには正直であることが誠意だと思ったのだろう。あとあと他人から聞かされるくらいなら、自分が最初に伝えたほうが
ああ……そんな閣下の気持ちが、痛いほどわかってしまう。まるで鏡を見ているように。
きっと私と同じく望まぬ〈祝福持ち〉のせいで、他人に勝手な印象を植えつけられ、人生を翻弄され続けた結果、すっかり投げやりになってしまっているのだ。もはや人の思惑どおりに流されながらしか生きていけないという
しかし、そんな閣下が行動を起こし、私を手に入れようとしている。それは本流からあがいたということでは?
閣下はひととおり話し終えると、
閣下は私の〈運〉で形勢逆転を願っている。どうせキズモノになって行き場のなくなった人生だ。この婚約に、乗ってみたっていいんじゃない?
この時点ですっかり同志の気持ちが
それに残念ながら思惑どおりにいかなかったとしても、行動したという事実が大事だとチハルの記憶が言っている。というか、動かなかったら
腹が決まった。前世でしていたように、目の前の苦しんでいる人にかける言葉を経験の中から
「閣下、ご存じですか?」
「……なんだ」
「〈死〉だけが、男も女も、王も
前世、祖父の
「…………」
「ゆえに、閣下の〈祝福〉は至って
私があえて
そして目を閉じて、眉間を指先で押さえ数秒……再び私を見た時、閣下の紅い瞳は少し
先ほどまでの未来を
「私……いや、俺のことはランスと呼んでくれ」
真っすぐな、生気に満ちた視線で
「では私のことはエム、と」
ランス様が私に手を差し出した。私は自らの意思でその手を取り、握手した。ランス様の手は硬く、傷だらけだったけれど、誰よりもふわりと優しい握り方だった。
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