1-7
*****
ランスロット・アラバスター将軍閣下は軍を退役すると同時に新しく辺境伯位を
そしてキアラリー辺境伯
本音では新たな領地は遠く、そこを不在にしてそう簡単に私を
お役に立てるか
信じる者は救われると前世の格言にもあった。
時間がない、
コンラッド殿下との婚約解消からあまりに時を置かない二度目の婚約は、しょせん快く祝ってもらえそうにない。それに私とランス様の婚約は
ただ、
キアラリー領に向かう前夜、父と向かい合った。
「エム……この
父が膝の上に置いた拳を震わせている。父は感情を表に出さず、一見上からの力にイエスマンに見えるけれど、本当は誰よりも家族を思い、自分に対して不甲斐ないと腹を立てている。私が生まれてからずっと
私だって王家のやり方には全く納得していない。でも……。
「ランス様も……ご自身の〈祝福〉の被害者なのです」
この程度なら話してもいいだろう。父は誰にも漏らさない。
私の言葉に父は大きく目を見張り、背もたれにドッと背を預けた。
「そうなのか……あれほどの
「私、ランス様が〈祝福〉から自由になるまでは、同志として支えてみようと思います」
私たちは、私の〈運〉という〈祝福〉を利用したい、王命の契約結婚だ。しかし、ランス様の立場には大いに同情するし、私の〈祝福〉はひょっとしたらランス様の〈祝福〉を軽減できるかもしれない。
それが無理だとしても、私は前世の記憶があることもあってランス様の〈死〉に怯えない。自分の〈祝福〉を包み隠さず話せる人間がそばにいることは、少しでもランス様の気持ちを軽くできるのではないだろうか?
「〈祝福〉から自由になど、なるのか?」
ランス様の〈死〉も、いつかランス様が恋をして、その相手が〈死〉が誰もに共通する普通のことであると理解してくれれば
「私は、その時こそ入信する予定です」
私は父に伝えるために言葉にする作業を通じて、自分のこれからの道筋を決めた。
全てを聞いた父は、なぜか眉間に皺を寄せ、首をひねりながら手元のウイスキーを一口飲んだ。
「ばかな……。男の目で見れば、甘いぞエム。将軍まで
「お父様、閣下はやむなく私を手に入れたのですよ?」
「……そうは見えんが……まあいい。困ったことがあればいつでも、ここでも神殿にでも戻るがいい。私が死んでもサムにきちんと申し送る」
「ありがとう。お父様」
でも、未来に何が起こるかはわからない。このバルト伯爵家に戻れないことも考えて、自立できる力も手に入れるべきだろう。そう思い、父に見えないテーブルの下で、ぎゅっと拳を握りしめた。
*****
「エムの荷物はそれだけなのか?」
出発の朝、私の例のトランクケースを見て、旅装姿のランス様が首を
「足りないものは、あちらで揃えます」
国王陛下が
ちなみにその多額の現金と宝石は、我が家の家宝であるマジックバッグに入っている。
無限収納かつバルト家の血族しか使えない
「それだけならば……馬で行くか。そのほうが断然早く
ランス様は簡素なベージュのドレス姿の私をひょいっと片方の腕で持ち上げ、縦抱きにする。アラバスター公爵家の
「きゃあ!」
ランス様は私のトランクを
「馬車は不要だった。返してくれ」
自分の
「ランスロット様! ご令嬢が馬での旅など無理です。どれだけ遠いかわかってますか!」
そう言いながらも、金髪の方は私のトランクを
「急がねば隙を作る。無理な時は宿を取る。エム、このうるさいのが俺の副官でダグラスだ。そして、後ろのメガネがロニー、茶色の
今回の旅は総勢この五名のようだ。
「ダグラス様、ロニー様、ワイアット様、エメリーンと申します。至らないところばかりですが、よろしくお願いいたします」
「よろしくお願いします」
と、美しい金髪を耳にかけ、灰色の瞳を
「ご婚約おめでとうございます」
と、一応祝いを口にするメガネに黒髪のロニー様。
黙って頭を下げる茶色の髪が
残念ながら、私はあまり好意を持たれていないようだ。まあ仕方ない。これはどう見ても足手まといだ。
「ランス様、あの、お急ぎの移動であれば、私など置いていってくださいませ。後ほど我が家の馬車でゆっくり追いかけます」
首を後ろにひねり、ランス様の
「だめだ。お
「あ、ああ」
「お父様、お母様、行ってまいります……きゃあ!」
生まれてからずっと王家によって閉じ込められ、私の世界の全てだった我が家が、あっという間に遠ざかった。
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