第一章 〈運〉のエメリーン
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次に目を覚ますと夜が明けていた。チハルの
衆人の前で王子に
これも〈運〉なのだろうか?
ドアがノックされ、「はい」と返事をすると、私の専属メイドが
「エメリーン様! お加減は?」
「頭痛はまだあるけれど、起き上がれるわ」
「お目覚めになったこと、
しばらくしてバタバタと足音を立てて父と母がやってきた。
「エム!」
母が私をかき
「ああ……なんてことかしら、あなたがこんな目に
母の
「……お母様、申し訳ありません」
「エムが謝ることなど何もない」
父が
「体調は……どうだ」
「あまりに
「あなた、すごい熱だったのよ?」
父が手を私の額に当てる。ひんやりして気持ちよくて……父も母も大好きだ。
「本当に……私のせいで、お父様とお母様とサムにご
サム――サミュエルは三つ下の弟で、我が家の
父が
「お父様、コンラッド
「いや、あまりに
最悪の事態は
「お父様、私、横になりながらいろいろと考えました。私は国を出られない。でもこの家の負担にもなりたくない。
父は黙って視線を落とした。かける言葉もない、というように。
「だから私、領地に
「修道女なんて! まだ……まだ十七なのよ!」
母が目を大きく見開いて私の
「お母様、ごめんなさい。けれど私……正直疲れてしまいました。修道女になり、のんびり、
「エム……」
「私の〈運〉は、今後神に
「国王陛下に……そう願い出てみよう」
これが
一週間もすると、私の体調は元に戻った。たまに前世の記憶がぶり返し、
王家から
コンラッド殿下の瞳の色に合わせて作られたブルーのドレスや小物は全部、出入りの商人に
父はただ、ありがとう、と受け取った。現実的な父を私は尊敬する。
修道服は支給されるし、あとはいざという時のためのお金をこっそり
私の部屋がどんどんガランとしていくのを見て、母がハラハラと泣く。母も
「私がエムを、
絶対に
「私はお母様とお父様のもとに生まれただけで、何にも代えがたいほどに幸運ですよ?」
父も母も弟のサムも私を愛してくれている。それはこの世界では……いや、前世の世界であっても、実はかなりのラッキーなのだ。ひょっとしたらそこで〈運〉を使い果たしたのかも? ならば仕方がないと思い、クスッと笑った。
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