第11話 分解結合 それから清掃

 「ぬわあぁーん疲れたもぉーん」


 ここはハイロス伯爵家の客室。優雅さの中に気品の高さを漂わせる客室の中で、俺は無骨極まるstg44の分解清掃に取り組んでいた。


 銃というのは手入れを怠るといざという時に性能を発揮できないもの。清掃の道具についてはこの世界に来た後、死神に渡されたバックの大量の弾薬の下に埋もれているのを発見した。


 さて、まずは分解。マガジンを抜きボルトを前後に動かす。次に銃床付け根のピンを抜く。そうすれば銃床が外れるから、内部のスプリングも一緒に取り外す。そしたら本体フレームが中折れ式の銃みたいに2つに分割される。そこから銃身を取り出して分解は完了。ここから清掃に入る。


 使うのは34年型小銃用クリーニングキット。ドイツ国防軍、ヴェーアマハトで使用されていてもので、縦133mm×横86mm×厚さ23mmの鋼板プレス製。外装がメッキ仕上げだから戦前に精算されたものだと判別できる。


 最初に行うのは銃身内部の清掃。長さ1,050mmのクリーニングチェーンに、オイラーを用いてクリーニングオイルを含ませたクリーニングブラシを接続、それを銃身内に通して汚れを取る。このクリーニングオイルは各種アルカリ混合油で清掃はもちろん、防錆効果や、装薬燃焼ガスによる部品の固着防止に効果を発揮する。


 次に薬室の清掃。これはキットに3つ入れられているクリーニングモップを用いて行う。これにもまたオイルを含ませ薬室口を掃除する。


 それから可動部へグリスを使用し潤滑な使用を助ける。


 以上が済んだなら別のクリーニングモップで余分なオイルやグリスを拭き取り、最後にstg44を組み上げこれで終了。


 うん、初めてやったから手間取ったけど無事に終えられた。これで内部の部品がどこかに消えました、なんてなったら一切stg44を使えなくなる可能性が出てくるから怖いところだった。


 手に付着した汚れを洗い落とし、さて今度は弾薬をマガジンに詰めなければ。


 バックを引き寄せたところで来訪を得た。コンコンとしずやかなノックに続いて入室の許可を求めるのはフィーファだ。


 「どうぞ」


 「お夕食の準備ができました。こちらで召し上がりますか?」


 一礼したフィーファはダンジョンで出会った時とは違い、その楚々とした立ち居振る舞いは立派なメイドだ。正直ギャップにくらっ、とくる。


 「そうですね、この部屋で頂きます」


 思わず敬語になってしまった。


 手慣れた手付きでフィーファが料理をテーブルに並べる。


 「聞きましたよ!大活躍だったんですってね!」


 静々とした態度から一変、最初に会った時のフィーファに戻った。ちょっとびっくりしたけど、畏まった態度よりこっちのフランクな方が俺は好きだ。


 「危なかった場面も多かったよ。セリーナさんがいなければ大怪我負ってたかもしれないし」


 「だとしても、ですよ!いきなり30階層に行って10階層も下るなんて偉業です!」


 「ありがとう」


 お喋りに好じつつも食器やらの配膳がとどこおることがないのがフィーファすごい。


 食べ終わった頃にまた来ますね、と胸の前で手を小さく振るとフィーファは下がっていった。


 俺も手を振りかえす。どことなく睦まじく、甘いやりとりに満足のため息を吐いて夕食に目を向けた。


 パンにスープ、サラダに肉と中々に豪勢だ。



 食べ終えてくつろいでいるとセリーナさんが訪れた。9mm弾の補給に、ダンジョンでの戦訓を元にマガジンを買い足し、さらにマガジンポーチも揃える。


 さて、ここで一度セリーナさんが購入したものを詳しく見てみようと思う。なんでって?思うところがあるからさ。


 まず黒のチェストリグ。これはモールシステムに対応した最新のやつで、品薄で中々見かけないやつ。モールシステムというのは装備の一部を別の装備の一部に縫い込むように装着できるシステムのこと。多種類の装備をかなり自由な位置に装着できる自由度の高さを誇る。マガジンポーチもモールシステム対応で、チェストリグの全面にずらっと並べるように装着されてる。種々雑多な物を突っ込むダンプポーチも、入れやすく、溢れにくい機能性に富んだもの。


 俺が思ったことを言おう。俺より装備優良じゃね?うらやま。


 なんでそんなことになったかと言えばハイロス伯爵が娘のために資金を提供したらしい。


 「それで今後のことですが」


 セリーナさんが話を切り出す。


 「次回は45階層までを目指そうと思います。最難関の40階層以下の攻略にあたるわけですから無茶も無理も許されません。それからこちら。48階層に到達したチームから仕入れた情報です」


 セリーナさんが差し出した数枚の紙。その紙面に記載のあるある言葉。


 「……嘆きの近衛騎士団?」

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