第2話 弾込め それから装備品

 「痛いよお……痛いよお……」


 はああー、こんなにも血が出て……。私は死ぬう、死ぬんだあ……!

 

 と、俺が吉良吉影なみに嘆いているのには理由がある。マガジンへの弾込めが思っていたよりキツかったのだ。10発目くらいまでだと装填している感じがあって楽しい。がここを過ぎると段々とバネが硬くなっていき弾をマガジンに押し込むのに苦労し始める。20発を過ぎると結構硬い。


 何よりキツいのが指だけしか使えないことだ。これ、クリップとローダーがあればマガジンと接続させて上から押し込むだけで良いのだが、現状はちまちまと手先でやるしかないので指が痛くてたまらない。


 余談だが昔のマガジンが銃の上や横に付いているのは満足行く性能のバネが作れず、装弾不良を引き起こすことが一因としてある。他には伏せた時に下にマガジンがあると銃を構え辛いとか、そういう理由もあったりする。実はstg44のマガジンて特に長いんだよね……。


 気を紛らわせるために俺は死神に気になってることを聞いてみた。


 「何で俺を転生させてくれたんですか?」


 死後、軽いノリで提案された転生だが普通じゃないのは確かだ。何かしら目的があるはず。


 「ああ、実験の一種だよ」


 「実験?」


 「そう。神々の実験。それからちょっとした気まぐれ」


 死神が言うことを要約すると、いかに神は現世うつつよに、人間に関わるかを探っているという。別の言い方をすれば神の恩寵、奇蹟の起こし方、だそうだ。俺はその実験の一環らしい。銃を与えてくれたのもその一部とのこと。ケーススタディであるため俺が何をしても最後まで神は介入しないらしい。ちなみに俺が選ばれたのは単なる偶然で、たまたまこのサツキと名乗る死神の趣味が俺と被ったからだそうだ。


 気まぐれ、というのはそのままの意味だからあまり説明することもない。神も時々茶目っけ混じりに色々するらしい。


 だから、と死神は続ける。


 「君がこの世界でどんなことをしようと自由だ。平和に過ごしても良いし人を殺しまくって財産を築き上げても良い」


 「殺……、しませんよそんなこと」


 「そうかそうか」


 俺が絶句する様子が何ぞ楽しいのかニコニコしている死神を他所に俺は変わらず弾を込め続ける。


 「そう言えば一緒に行動するんですか?」


 今更だが現状死神は俺に付き添ってくれている。実験がうんたらかんたら、というのを考えるとずっと一緒にいて逐一俺の行動を記録するのかもしれない。嫌なことじゃないし別に良いけど。


 「うん?この世界の説明が終わったら私は消えるよ。と言っても君のことは見てるし節目節目で現れることはあるかもしれない。まあ確実に言えるのは君が死んだ時、私はまた迎えに行くよってことくらいかなあ」

 

 俺が死んだ時……。また木製の小舟に乗って俺の前に現れるのだろうか。


 細々と会話を続けながら7本のマガジンに弾を込め終える頃には指先の感覚がだいぶ怪しくなっていた。


 しかしこうバネに苦戦させられると民間市場で護身用にリボルバーが人気なのも頷ける。護身用の場合装填する動作を挟まず直ぐに発砲することが求められる。そのため弾丸は常に装填された状態を保つが、それだとバネの劣化が早くなり、最悪装填不良が起きて撃てなくなるかもしれない。緊急時にそんなことは何としても避けなければならないのだ。


 他にもリボルバーが人気な理由はあるが、まさか弾込め作業を通じてこんなことを実感するとは思わなかった。


 さて、準備も終わりいよいよ移動の時。……の時なのだが。どうやって持とう……。いや、銃本体は片手で掴むか軍事パレードみたいに左手で保持して左肩にかけるようにすれば良い。どちらにせよ片手は塞がってしまうがそこまでの問題じゃあない。


 問題はマガジンである。ポケットなんかに入れるにへ大き過ぎるためリュックに入れざるを得ないのだ。それ、もし戦闘になったらリロードのたびにリュックを漁ることになるのだが?


 しかもだ。弾薬の補給はどうなるのだろう?もし今後一切の弾薬が手に入らないとなれば使い時は熟慮に熟慮を重ねなければならない。


 「てってれー」


 焦る俺に某猫型ロボットみたいな口調で死神が見せてきたのは……、スマートフォン。俺が日本で生きていた時に使っていたのと同機種だ。ところで、ひょっとして日本のサブカルに詳しかったりする?嫌だなあいきなり淫夢語録とか使いだしたら。異世界、良いよ来いよ!みたいな。


 それはそれとして、何故スマートフォン?何、『異世界はスマートフォンとともに』?


 俺の場合は『異世界はアサルトライフルとともに』。語感、似てるね。さながら俺はアサルト太郎。何その戦闘狂。


 要領を得ようはずもなく、首を捻り戸惑っていると死神はとにかく見てみろと押し付けてきた。


 はあ、それならと画面を見ると上にでかでかと死神商店の文字。ほう?商店?画面をさらに見ていくと銃、弾薬、手榴弾、地雷、ナイフ、銃剣なんかが表示されている。そしてよく見ればそれぞれの下に金貨×100とか色々書いてある。


 ははーん。大体分かった。必要に応じてここから買えば良いんだな?しかし死神商店の死神って言うのは眼前の死神のことで合ってるだろうか。死の商人的な感じでも十分ありえる。


 それはともかく、俺が推察した通りかと死神の方を見ればそうだよ、と頷いていた。便乗はしてない。はず。


 なるほど。となれば気になるのは金貨やなんやのこの世界の貨幣のことだ。早速死神が教えてくれた。


 「この世界には白金貨、金貨、大銀貨、小銀貨、大銅貨、小銅貨があるんだ。日本円とほとんど同じ考え方で大丈夫。小銅貨が1円、大銅貨が10円、小銀貨が100円、大銀貨が1,000円、金貨が10,000円、白金貨が100万円ね。で、これが実物」


 そう言って手渡されたのは皮製の袋。ずっしりと重く、ジャラジャラという音からして結構な数の貨幣が入っていそうだ。


 「100万円分ある。ま、チュートリアルってことでとりあえず何か買ってみろ。あ、金額分は手元の金から自動で差っ引かれるから」


 ほう、マガジンポーチとかをくれなかったのはこのスマホ操作に慣れさせるためかな?ま、いいや。画面を操作していくと装備品という項目があった。


 その中からとりあえず必要なマガジンポーチ、マガジンポーチを付けるためのベルト、ベルトに装着するY字サスペンダー、サスペンダーとベルトを接続するのに必要なベルトキーパー、ベルトに装着する紺色の雑納、最後に銃に取り付けるスリングを買った。ざっと金貨5枚分、つまり約5万円。


 他にはヘルメットや迷彩スモックなんかもある。これはまあその内かな?……あ、クリップもある。クソ、指先の痛みが蘇ってきたぞ。なんで弾薬にクリップを付けてくれなかったんだ……。


 さすがに今はもう弾薬に関わりたくない。後で購入することにしよう。


 そうしたらベルトとサスペンダーを組み合わせ、マガジンポーチ、雑納をベルトに取り付ける。


 マガジンポーチはマガジンが3本入るものが2つで1セット。ふたを開いてマガジンを合計6個入れた。それから本来は腰の後ろに配置する雑納だけど、前に持ってきた。というのも残り1つのマガジンをそこへ入れておきたいのだ。


 本来は銃に差し込んでおくがまだ銃の取り扱いに慣れていない現状では不慮の事態を避けるためにも装填はしないで起きたかった。


 スリングを用いて銃を体の前に掛け、いよいよ出発準備は整った。その様子を見て取った死神は俺に問い掛ける。


 「こっちの世界で何したい?」


 死神の問い掛けに俺の答えは決まっていた。


 「ダンジョン攻略!」


 とにかく体が資本の何かがしたかった。その中でもダンジョン攻略なんていうのは健康なだけでなく、頑丈な肉体がないとできないもののはずだ。それにダンジョンだなんて男心に童心をくすぐられる。


 とにかく、俺は生前の日本ではできなかったことをやりたかった。

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