降下猟兵、異世界ダンジョンへ行く 〜剣と弓、俺だけ銃。なのに無双できないんだが?〜

@yositomi-seirin

第1話 転生 好きな銃は?

 覗き込んだスコープの先ではアメリカ兵がサブマシンガンのトンプソンを構えて角の向こうを警戒していた。そのオリーブグリーン色のヘルメットにT字の照準線を合わせた。


 まさか裏を取られているとは思ってもいない敵はこちらには全く気付いていない。


 Kar98k の引き金を引き絞ると7.92×57mm弾が発射され、見事頭に命中、ヘルメットを吹っ飛ばして敵の命を奪った。


 そして画面に表示される『You Win !』の文字。

 

 「うっし!」


 今やっていたのは第二次世界大戦を題材にしたfpsゲームだ。


 「あれだけ動ければなあ……」


 思わず出た独り言は自身の身体を顧みてのことだ。俺は病魔に蝕まれていてベッドの上から動くことができない。今18歳だが今までの人生のほとんどをベッドの上で過ごしてきた。動けない俺の趣味は読者、映画、アニメ、ドラマ鑑賞、そしてゲームだ。


 俺がミリタリーというジャンルにはまったこともあるが、軍人は俺の憧れだった。4キロはある小銃に重い装具を担いで遠い道のりを踏破し、そして戦闘を行う。頑健な肉体が無ければできないことだ。


 何もゲームの中の様に銃を持って滅茶苦茶に動き回りたいとまでは言わない。せめて普通に走ったりできたら、と思うのだ。


 もう何回そう願ったかは分からない。今更詮無いこととは百も承知だ。ただそれでも、と。俺は夢想するのだ。



 ××××××



 「よう、迎えに来たぜ」


 死んだ俺の前に現れたのはなんとも奇妙なことに宙に浮かぶ木製の小舟に立つ少女だった。肩にかかるくらいの黒髪、黒目の中学生くらいの見た目をしている。黒のローブを羽織っていて、頭もフードをかぶっている。


 その少女は月の光が輝く中、何やら時代劇でしか見ないような木製の小舟に乗っていた。現実離れした光景に訳が分からないでいると慣れた様に少女は話し始めた。


 「私は天国までの案内人。お前が死んだから私が迎えに来たんだよ」


 「は、はあ……」


 その割には全身真っ黒でどうも天使とかそういう感じじゃない。どっちかって言うと悪魔とかそんな感じのイメージだ。


 そんな風に怪しんでいるのを感じ取ったか少女が自己紹介をした。


 「まあ君が思ってる通り私は天使じゃない。死神だよ。名前はサツキ」


 死神……。え、死神?俺、ひょっとして病死じゃなくて殺された?ひょっとしてこれからこの死神に囚われて酷いことになる?


 「安心しろよ。死者を迎えに行くのも職務の一つでね」


 心の中を見透かしたのか。多分慣れてるんだろう。……そりゃあそうか。誰だって死後に死神と名乗る少女が舟と共に現れりゃ混乱する。


 「さて、これから冥界にお前を連れて行く訳だが、何かしたいこととかあるか?生者に干渉することはできないがどこか行きたい場所があったら寄ってくぞ」


 俺は家に向き直った。窓ガラスの先では両親が冷たくなりつつある俺の死体に抱きついて泣いていた。その光景を見て俺の頬を涙が伝う。


 「ここにいちゃダメかな?」


 許されるなら俺はここにいて家族を見守っていたい。


 「あー、悪いがそういうのは許されてない」


 「うーん、そしたら特に無いかなあ」


 祖父母とも疎遠だったし特に何かしたいことや会いたい人もいない。


 「そうか。じゃあ乗れよ」


 乗船を促された俺は素直に従って乗り、腰掛けた。それで死神の少女の方を見てふと気付いた。


 「それ、M43規格帽?」


 フードの下に被っている帽子。第二次大戦時にドイツ軍が使用して帽子だ。ウール製の紺色で、特徴としては耳当てが折り畳まれていること、それを留めるのに正面にボタンが縦に二個着いていることだ。士官用であるらしく、ボタンは銀色、帽子の頂上の縁には銀色の線が入っている。ただナチスのマークは外されていた。何か気に入らなかったんだろうか……。


 「え、知ってるの?」

 

 途端に死神が顔を輝かせた。勝ち気そうに笑うその顔はあどけない少女そのものだ。


 「これねー、実際にドイツ軍人から貰ったんだよー。ほら、これも」


 そう言って懐から取り出したのはM40略帽、俗に小舟シフなんて呼ばれるやつと制帽だ。ははーん、だから舟に乗ってるんだな?


 帽子はどちらも空軍、ルフトヴァッフェのものだ。両方とも士官用のもので、こちらはナチスの鷲などがそのまま残っている。陸軍に何かあるんだろうか……。


 おー、と感嘆の息を上げていると何か気になったのか死神は壁を抜けて俺の部屋へ入って隅々まで見渡した。戻ってくると良い物を見たと言わんばかりの表情だった。


 「なあ、お前異世界に行かない?」


 「は?異世界?」


 何を急に……。


 「そう異世界。聞いたことない?異世界転生って」


 「そりゃあ、聞いたことなら」


 異世界転生。現世で死んだ人が文字通り異世界へ転生し第二の人生を歩むというものだ。俺がそれを?


 「それをさせてやる。軍人と同じ頑丈な体で好きな銃も一丁持たせてやるよ」


 「それは……」


 現世で俺が出来なかった健康な肉体をくれると言う。なら、好きなだけ運動ができるということだろうか。それに銃?


 「あの、一体どんな世界に?」


 非常に魅力的な提案だがしっかり確認しなければならない。特に銃をくれると言うのだ。下手すりゃ世紀末の世界に転生させられるかもしれない。


 「中世ヨーロッパみたいな世界だよ。人がいて、動物と魔物がいてダンジョンがある。健康な肉体を駆使してダンジョンを攻略するも良し、世界中を旅しても良い。そして銃なんてものは存在しない」


 「それは……」


 そんな世界に銃だなんて明らかにチートだ。でも聞いた感じ明らかにヤバそうな世界ではないし、何より健康な肉体で第二の人生を送れるのは素晴らしい。そんな魅力的な提案に頷く以外の選択肢は無かった。



 ××××××


 

 異世界へ行くことになった俺だがまずは手続きが必要らしく一旦冥界へ行くことになった。まあ異世界転生なんて普通じゃないことをするのだ。何かしら必要だろう。でもあの世にもそんな手続きがあるのかと思うとちょっとおかしな気分になってきた。


 「そう言えば名前を聞いてなかった」


 「ああ、二前健治にのまえ けんじだよ」


 「よし、じゃあ書類書いてくるからちょっと待ってろ」


 冥界の入り口、天国と地獄の門の前には大勢の人がいた。どうやら天国か地獄へ行く順番待ちとかではなく、ここで残してきた人を待っているらしい。


 「待たせたな」


 とんでもねえ。待ってたんだ。しばらくして戻ってきた死神に連れられ、ある門の前へとやってきた。どうやらこれが異世界につながる門らしい。


 「そうだ、服をやろう。好きな兵科は?」


 「降下猟兵こうかりょうへい


 降下猟兵とは第二次大戦時のドイツ軍の空挺部隊だ。落下傘で敵地に降下しての陸戦が主体の部隊で、陸上自衛隊の第一空挺団に相当する舞台だ。だが空軍所属である。ちなみに空軍野戦師団とは別物。


 「よし」


 死神がパチンと指を鳴らすと俺がまとっていた衣服が変わった。フリーガーブルゼと呼ばれる青灰色の戦闘服の上衣にカーキ色のルフトヴァッフェの熱帯用ズボン、黒の降下猟兵用後期型ブーツ。ブーツの見た目はフロントレース式のものでいわゆる現代の軍用ブーツとあまり違わない。最後にルフトヴァッフェ用紺色の士官用M43規格帽。ちなみに徽章類は全てに付いてない。


 「さて、行くか」


 死神に先導されて俺は門をくぐった。柔らかく白い光を抜けた先、そこは森の中だった。川端康成著、『雪国』のトンネルを抜けるとそこは雪国だった、みたいな。


 見た感じは元いた世界と変わらない。いや、空気が格段に美味い。


 俺が物珍しく周囲をキョロキョロと見渡していると死神が聞いてきた。


 「さて、君の好きな銃は?」


 MG42! FG42! MG34! stg44! Kar98k! MP40! ステンmk2s! P38! P08! M1911! 三八式歩兵銃! 九七式狙撃銃! 四四式騎兵銃!


 とまあパッと思い付くだけでこれくらいあるのだが……。まあ考えを纏めよう。まず前提として俺は一丁しか持てない。なら汎用性が高いものにしなければだ。ここで必要になる汎用性とは、近、中、長全距離に対応できること、連射できること、魔物や人間に対し十分な威力を発揮できること、である。まあ距離に関しては俺が射撃に関しては素人だから中距離まででいいかな?まあでも撃ってれば上達するだろうし3、400mくらいまでは届かせたい。


 となると候補は限られてくる。一回撃つたびにコッキングが必要になるボルトアクションと近距離しか対応できない拳銃、拳銃弾を使用するサブマシンガンは除外する。


 残るのはMG34、42の機関銃と個人火器のFG42、stg44だ。そうだ、近距離以外でフルオートで当てられる気がしないから単発、連射の切り替えができることも必須だ。となるとMG42は除外される。……結構好きなんだけどなあ。仕方ない。


 それから重さの点からもMG34も無しだ。10kg越えとか持ち歩ける気がしない。


 となるとFG42かstg44の二択。……stg44かな。理由は幾つかある。まずFG42が使用する弾薬は7.92×57mm、MG42なんかと同じフルサイズの弾薬だ。当然反動も大きいし、マガジンの装弾数は20発。しかも銃の左横に付いているから微妙にバランスが傾く。銃剣が付いているのは魅力的だが決定的な要素ではない。


 一方のstg44。こいつはシュトゥルムゲヴェーア、日本語訳すると突撃銃。ナチスドイツが大戦中に開発した7.92×33mm、中間弾薬を使用するアサルトライフルだ。装弾数も30発。やはりこれだろう。


 「stg44をくれ」


 「良し」


 鷹揚に頷くと死神は懐から何やらリュックを取り出した。……どこから出てきたんだそれ。


 「ほら、これ」


 受け取るとずっしりと重い。そして何やらガチャリと金属が擦れる音がした。その瞬間に体中を駆け巡る高揚感たるや!


 「マガジンは7つ、弾は1,000発あるよ」


 そんな言葉も届かないほど俺は目の前の銃に熱中していた。金属の重々しさ、木製ストックの質感。多分、男子は一度はゲームなりを通じて銃に興味を持つはずだ。


 肌触りを愛でながらリュックの中を探りマガジンを取り出す。まだ弾丸は装填されていない。じゃあ弾丸を、と探った時。ジャラ、と弾丸が出て来たのだが、……のだが。なんと全てバラバラなのだ。普通クリップと呼ばれる物に5発ひとまとめになってたりするものなのだがそんな物は無く、ただ一千発の弾丸があるだけ。


 「……まじ?」


 それが意味することはただ一つ。俺は今から30発×7個=210発もマガジンに弾を込めないといけない。

 

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